CLOUD(クラウド)

１０．徳義の章_３

　アリス・スプリングス―――
　周囲をいくつかの町に囲まれた中央にあり、山手線の内側二つ分ほどの面積を有し、高層ビル群は無いものの、道路が碁盤の目の如く整備された二万五千人ほどの人々が暮らす町である。
　エミリーの案内で、野生動物保護施設に入るコーギー、ヴァイオレットそしてエラ。
　念願であったワラビーと初対面。しかもまだjoey（子供）である。
　成体でもぬいぐるみの様であるのに、更に小さな手と、つぶらな瞳に、
「「「はぁうぅ～～～」」」
　三人はエミリーが苦笑するほどの骨抜き状態、緩みっぱなしのデレ顔。
　抱っこさせてもらったヴァイオレットなど、今にも昇天しそうな表情である。
　ワラビー以外にもコアラやウォンバットなど、保護された愛くるしい動物たちとの触れ合いを堪能する三人であったが、動物たちのストレスを考慮し、楽しい時間は後ろ髪を引かれつつ終了となった。
　余韻に浸り、ホクホク顔で休憩室に入る三人。しかし動物たちの保護理由をエミリーから聞かされ顔色を変えた。
　密輸の為の乱獲である。
　オーストラリアが鎖国状態である事が災いし、希少動物たちの国外における価値が高騰、国内外の資産家たちが天井知らずの金額をこぞって密輸業者に渡し、売買対象にしているとの事であった。
「あんなに可愛いワラビーちゃん達を「物扱い」するなど、許せませんでございますですわ！」
　憤慨するヴァイオレットはエラの両肩をガシリと掴み、
「よろしくお願いしますわよ、ガーディアン！」
　近づける顔の圧の強さにエラは少々引き気味に、
「あは、あははは……」
（私に言われても管轄が……）
　内心当惑しつつ、
「が、頑張りまぁすぅ」
　笑ってお茶を濁し、その場を乗り切るより他、逃れる手段はなかった。
　するとロッカールームから、
「三人とも、お待たせぇ！」
　私服に着替えたエミリーが現れ、エラに詰め寄るヴァイオレットの姿に、
「どうかしたの？」
「動物たちの保護をガーディアンに直訴していたんでございますですわぁ♪」
　冗談交じりの笑顔を見せると、
「ヴァイオレットも（ガーディアン）でしょ？」
「「！」」
　ギョッとする二人。
「か、管轄が違いますのですわぁ、ねぇ、ねぇエラぁ？」
「は、はい！」
「そ、そうなんだぁ？」
　慌てて笑って誤魔化す二人を、不思議そうに見つめるエミリーと、そんな彼女の装いに違和感を感じるコーギー。
　スニーカーに緩めのパンツスーツと、上のジャケットは七分袖と言う少々ちぐはぐな姿。
　ここはサバンナのど真ん中の様な気候の町。もう少しラフで、涼し気な服装をイメージしていたのだが、世の中には『独特な嗜好に基づくファッションセンス』を持つ人間が居る事をエラから学んでいた為、あえてその事を口にはしなかった。気になったのは、無論その点だけではなかったが。
　エミリーは、そんな風（エラと同じ変わったファッションセンスの持ち主）に思われているとは露知らず、
「じゃあ行きましょ！」
　三人を伴い笑顔で動物保護施設を出ると、繁華街へ連れ立った。