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９．黎明の章_２６

　基地内の鍛錬所に場を移す一同―――
　二十メートル四方ほどの部屋の中央で距離を置き、平静に自然体で立つ艦長と、マリアに煽られ頭に血が上り、鼻息荒く、今にも飛び掛かりそうな顔したジャック。
　そして艦長の決断を信じつつも、心の中で艦長の無事を祈るソフィア。
　主審はジャックのやり過ぎを懸念し、マリアが務めた。
　二人の間に、ニコやかに立ち、
「では」
　右手を振り上げ、
「どうぞ、ですわぁ」
　振り下ろすと同時に、ジャックは「いれ込み過ぎの馬（レース前から興奮状態の馬）」の様に、前のめりに駆けだし、
「一瞬でカタつけてやるぜぇ！」
　艦長めがけて一気に加速し猛突進。マリアの術中にはまり、冷静さを欠いていたように見えたが、
（なんてなぁ）
　不敵な薄笑いを浮かべると、目にも止まらぬ速さで艦長の背後に回り込み、
「目には目を（企んでる相手には企みで）ってなぁ！　正面きって行く訳ねぇだろうがぁ！」
　普通の人間相手の模擬戦に、同族（スティーラー）相手の様な本気のフェイント。
（（（（（（（（（（大人げねぇ……））））））））））
　呆れたジト目を向けるヤマト達。
　しかし次の瞬間、
「な！？」
　背後から飛び掛かろうとしたジャックの体は宙を舞い、
　ダァン！
「がはぁ！」
　背中から地面に激しく叩き付けられた。
（な、何が起こりやがったぁ……？　なんで俺は天井を見ている……？）
　放心するジャックと、ヤマト達が唖然とする中、
「勝負ありですわぁ！」
　マリアの一声に、歓声が沸き起った。
　ジャックは艦長の不意を突いて背後に回り込み、背後から羽交い絞めにするつもりであった。しかしその刹那、艦長はジャックの前で屈むと同時に右腕を掴み、勢いをも巻き込む様にジャックを背負いつつ、腰を使って体を跳ね上げ、掴んだ右腕を中心に孤を描く様に投げ飛ばしたのである。
　いわゆる、柔道の一本背負い。
　未だ自身の身に何が起きたのか混乱する頭を処理出来ず茫然自失、仰向けるジャックに、
「大丈夫かね？」
　艦長が右手を差し出すと、
「オッサン……どう言う事だ……俺のスピードは、人間の目で追える速さじゃ無かった筈だ……何をしやがった……」
　あえて手を取らず、自ら半身起き上がると、艦長は無骨なほほえみを浮かべ手を戻し、
「『気』を読み、『反射』で対応したのだよ」
「気と反射……だとぉ……？」
　怪訝な顔で艦長を見据え、未だ現実を受け止めきれない様子のジャック。