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青木 森

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8.朋友の章_18

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 同時刻、自警団本部―――
 幹部クラスの集まる部屋の中央で、不機嫌顔でドカリとソファーに腰掛けるアレックス。
 未だヴァイオレットとエラの一件で怒りが収まらずにいたが、チラリと腕時計を見るなり、
(そろそろか……)
 立ち上がり、
「ちょっと出て来る。後は任せた」
「「「「「「ハイッ!」」」」」」
 敬礼する自警団幹部達。
 誰も行き先を問わない。
 幹部クラスでさえ疑問の余地を挟めない空気に、自警団におけるアレックスの支配力の強さが窺える。
 自警団本部が入る廃ビルから出たアレックスは大型バイクにまたがり、
「「「「「「「「「「お気をつけて!」」」」」」」」」」
 団員達の見送りを背に走り出した。
 スラムの様な町中を走る。
 遠くに、自警団とマファイの銃撃戦と思われる発砲音が聞こえる。
 やがて町を見下ろせる、小高い丘の上の森に辿り着いた。
 バイクから降り、仄暗い森の奥へと足を踏み入れ、
「!」
 何かの気配に緊張感を持った表情で身構えると、幹の陰から金髪短髪、ガタイの良い片耳ピアスの大男が姿を露わした。
「リヤン!」
 近寄りがたい風貌のこの男こそ、ヤングマフィアのリーダー『リアン』である。
 森の中で対峙する、敵対組織のボスが二人。
「「…………」」
 しばし睨み合う二人であったが、急にニヤリと笑い合い、
「久しぶりだなぁリアン! うまく稼いでるみたいじゃねぇかぁ!」
「そっちもなぁ!」
 固い握手を交わし、犬猿組織の親玉同士とは思えない、打ち解けた空気を醸し出した。
 すると森の奥の暗闇から滲み出る様に、
「あまり大っぴらに、健闘をたたえ合うな。何処に目があるか分からんのだぞ」
 仮面をつけ、マントに身を包んだ男が姿を現した。
 声の雰囲気から、二人より一回りか二回り歳を重ねていると思われる。
「大丈夫だって、ヘンリーさんよぉ」
「あぁ、バレやしねぇってぇ」
 ヘラヘラ笑い合うアレックスとリアンであったが、次の瞬間、
「「!」」
 二人の喉元に、二つの剣先がピタリと止まった。
 思わず息を飲み、仮面の男を見つめる二人。
 ヘンリーと呼ばれた仮面の男はいつ抜刀したのか、マントの下から二本の刀身だけ露出させ、切っ先を二人の喉に刺さる寸前でピタリと止めていたのである。
「貴様らの「替え」は幾らでも居るのだ。その事を努々忘れるな」
 仮面から覗くその眼は異様な血走りを見せ、ある種、狂気じみていた。
「「すみません……ヘンリーさん……」」
「…………」
 大男二人を睨んだまま、静かに刀身をマント下へ消して行くヘンリー。
 アレックスは胸を撫で下ろし、
「そ、それでヘンリーさん……俺達は今回、何で一緒に呼ばれたんですかぁ?」
 リアンも頷くと、
「……最近、町なかが騒がしいようだが?」
「そ、それは、よそ者の、ヘンな女二人組のせいですよぉ!」
「女二人組?」
 怪訝な声を発するヘンリーに、リアンも何度も頷き、
「ソイツ等が引っ掻き回してるんですよ! しかもタチの悪い事にソイツ等、メラニー婆の所を根城にしやがってぇ!」
「メラニー? 何者だ?」
「核戦争時代より前に、あの町を牛耳ってた、昔気質のマフィアのボスの女房でぇ」
「そ、そうなんですよ! それに、未だにシンパも多くてぇ」
「排除しろ」
「「え?」」
「計画の妨げになる存在は邪魔だ。手段は問わん」
「あ、あの婆も……ですかぁ?」
「しかしどっちかの組織が手を出せば町の連中が黙ってませんし、ヤングマフィアと自警団のパワーバランスが崩れて、町の連中から金を巻き上げる口実が!」
 二人が戸惑いを見せる中、ヘンリーはクルリと背を向け、
「うまくやれぇ」
「「えぇ!?」」
 二人の驚きをの声を背に、森の奥へと歩き出し、
「私の計画が頓挫した時、死ぬのはオマエ達だと知るが良い。決して逃がしはしない」
「「…………」」
 闇と同化する様に消えて行った。
(相変わらずヤベェ目だぜぇ……)
(イカレてやがる……)
 今更ながら「とんでもないヤツの口車に乗った」と、後悔を滲ませる二人。

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