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7.岐路の章_37
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数時間後―――
野盗などの侵入を阻む為、高木の枝を切り払っただけの丸太ではあるが、地中に埋めて立て、外周をグルリと一周囲んだ中にあるアリアナの村。
「…………」
村の入り口前で両膝を地に着き、表情が見えないくらい、うつむくシャーロット。
囲いと同様、丸太で組んだ扉で塞がれていであろう入り口は、内側から吹き飛び、バラバラになって周囲に散乱、半分炭と化してブスブスと音を立て、細くて黒い残り煙を上げ、無残な姿を晒していた。
ヤマト達は間に合わなかったのである。
反対側の入り口まで一直線に見通せるようになった村には人影が無く、火炎と爆風に耐えた「焦げたレンガ」の一部や、コンクリートの一部などが、そこに人の営みがあった事を語るに留め、燃える物が無くなり自然鎮火した村は、火事場特有の異臭を放つ、焦土と化していた。
囲いの外にも人影が無かった事から推察して爆撃は突然であり、村人達は野盗などから命と生活を守る為に設けた高い囲いがアダとなり、逃げ口を失い、囲いの外へ逃げる間もなく命を奪われたようである。
辺りは異様に静か。
周辺の森で暮らしていた野生動物たちは一斉に逃げ出したようで、時折聞こえる風鳴が、悲愴感を増長させる。
「人をさらって、金品を奪った挙句の仕打ちがこれかよ! クソォ!!」
珍しく感情を荒げ、地面を蹴るヤマト。
「これが……これが同じ人間にする仕打ちなの……」
突きつけられた人間の悪意の現実に、言葉を失うジゼ。
打ちひしがれるヤマトとジゼ。
するとジャックが止めを刺す様に不敵な笑みを浮かべ、
「何をメルヘンぶってんだぁ、二人さんよぉ! 人間の本質に今頃気が付いたのかぁ? これが人間の本性さ! いいかぁ? この世には救世主も居なければ、弱者を救うヒーローも居やしねぇ! 弱い物は搾取され続け、踏みつけられる何でもアリの世界なんだよぉ! ようこそクソッタレナな現実世界へ、お二人さぁん♪♪♪」
「お止めなさい、ジャック! 自身の中で消化しきれない不条理を、他人への当て擦りで解消するのはお止めなさいですわァ!」
「チッ!」
的を射られた事で舌打ちし、不機嫌に横を向いたが、ヤマトとジゼはジャックの言葉に猛る様子も見せず、
「大丈夫だ、マリア」
「うん。苛立つ気持ちは分かるから……」
むしろ何も出来なかった自分たちを自嘲した。
「…………」
怯えた瞳で、変わり果てた村を見つめるアリアナ。幼くとも、これ程の惨状を目の当たりにすれば、村に尋常ではない異変が起こった事は理解出来る。
制止を促したマリアにしがみつき、ジッと我慢していたが、木に辛うじてぶら下がっていた炭化した看板が地面にガタリと落ちるや否や、
「パパァーーーッ! ママァーーーッ!」
顔を真っ赤に、今にも泣き出しそうな顔で村の中へ駆け出した。
「アリアナちゃん!」
咄嗟に手を伸ばすマリア。
しかしマリアは、伸ばしたその手でアリアナを捕まえる事が出来なかった。制止を促した自分が再びアリアナを捕まえると言う事は、彼女の両親に対する想いを踏みにじる行為に思われたから。
もちろん、最初に制止を促したのは敵や危険が潜んでいる可能性を憂慮しての事であるが、大人の機微など理解出来ない幼きアリアナを再び捕まえる事は、単に彼女の反発心を招き、心を傷つけてしまうと思ったのである。
「私が行ってくる!」
察したジゼが後を追おうとすると、ヤマトがすかさず、
「不発弾があるかも知れないから気を付けろよ、ジゼぇ!」
「分かった!」
肩越しにチラリと振り返り、村の奥へと消えて行った。
野盗などの侵入を阻む為、高木の枝を切り払っただけの丸太ではあるが、地中に埋めて立て、外周をグルリと一周囲んだ中にあるアリアナの村。
「…………」
村の入り口前で両膝を地に着き、表情が見えないくらい、うつむくシャーロット。
囲いと同様、丸太で組んだ扉で塞がれていであろう入り口は、内側から吹き飛び、バラバラになって周囲に散乱、半分炭と化してブスブスと音を立て、細くて黒い残り煙を上げ、無残な姿を晒していた。
ヤマト達は間に合わなかったのである。
反対側の入り口まで一直線に見通せるようになった村には人影が無く、火炎と爆風に耐えた「焦げたレンガ」の一部や、コンクリートの一部などが、そこに人の営みがあった事を語るに留め、燃える物が無くなり自然鎮火した村は、火事場特有の異臭を放つ、焦土と化していた。
囲いの外にも人影が無かった事から推察して爆撃は突然であり、村人達は野盗などから命と生活を守る為に設けた高い囲いがアダとなり、逃げ口を失い、囲いの外へ逃げる間もなく命を奪われたようである。
辺りは異様に静か。
周辺の森で暮らしていた野生動物たちは一斉に逃げ出したようで、時折聞こえる風鳴が、悲愴感を増長させる。
「人をさらって、金品を奪った挙句の仕打ちがこれかよ! クソォ!!」
珍しく感情を荒げ、地面を蹴るヤマト。
「これが……これが同じ人間にする仕打ちなの……」
突きつけられた人間の悪意の現実に、言葉を失うジゼ。
打ちひしがれるヤマトとジゼ。
するとジャックが止めを刺す様に不敵な笑みを浮かべ、
「何をメルヘンぶってんだぁ、二人さんよぉ! 人間の本質に今頃気が付いたのかぁ? これが人間の本性さ! いいかぁ? この世には救世主も居なければ、弱者を救うヒーローも居やしねぇ! 弱い物は搾取され続け、踏みつけられる何でもアリの世界なんだよぉ! ようこそクソッタレナな現実世界へ、お二人さぁん♪♪♪」
「お止めなさい、ジャック! 自身の中で消化しきれない不条理を、他人への当て擦りで解消するのはお止めなさいですわァ!」
「チッ!」
的を射られた事で舌打ちし、不機嫌に横を向いたが、ヤマトとジゼはジャックの言葉に猛る様子も見せず、
「大丈夫だ、マリア」
「うん。苛立つ気持ちは分かるから……」
むしろ何も出来なかった自分たちを自嘲した。
「…………」
怯えた瞳で、変わり果てた村を見つめるアリアナ。幼くとも、これ程の惨状を目の当たりにすれば、村に尋常ではない異変が起こった事は理解出来る。
制止を促したマリアにしがみつき、ジッと我慢していたが、木に辛うじてぶら下がっていた炭化した看板が地面にガタリと落ちるや否や、
「パパァーーーッ! ママァーーーッ!」
顔を真っ赤に、今にも泣き出しそうな顔で村の中へ駆け出した。
「アリアナちゃん!」
咄嗟に手を伸ばすマリア。
しかしマリアは、伸ばしたその手でアリアナを捕まえる事が出来なかった。制止を促した自分が再びアリアナを捕まえると言う事は、彼女の両親に対する想いを踏みにじる行為に思われたから。
もちろん、最初に制止を促したのは敵や危険が潜んでいる可能性を憂慮しての事であるが、大人の機微など理解出来ない幼きアリアナを再び捕まえる事は、単に彼女の反発心を招き、心を傷つけてしまうと思ったのである。
「私が行ってくる!」
察したジゼが後を追おうとすると、ヤマトがすかさず、
「不発弾があるかも知れないから気を付けろよ、ジゼぇ!」
「分かった!」
肩越しにチラリと振り返り、村の奥へと消えて行った。
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