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7.岐路の章_19
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通信員は考えを改め、
「分かりました。繋ぎます」
自席の機器を操作し、ヘッドセットを持って立ち上がると、マリアの下に歩み寄り、
「マイクです。乗客や乗員に聞かせたいのは、会話だけじゃないんですよね?」
緊張した笑顔と共に差し出した。
小さな笑みを返し、左手で受け取るマリア。
「優秀な部下をお持ちの様ですわね、船長さん。話しが早くて助かりますわ」
ヘッドセットを耳に掛けると、
『乗客の皆様ぁ、ブリッジからですわぁ!』
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
これから自分たちの身がどうなるか分からず、鬼気とした空気に包まれたていた乗客達は、凛としたマリアの一声に一斉に騒ぎを静め、スピーカーに耳を傾けた。
当然、マリアから乗客達の姿は見えなかったが、かつての経験から静まったタイミングを見計らい、一呼吸置くと、
『皆様がご承知の通り、今世界では核戦争と言う物が起き、この船は最寄りの港に向け移動しておりますわ』
安堵した表情を見せる乗客達。
津波とは縁遠い大陸に住まう人々が、陸に上がれば安心と思ってしまうのは、いた仕方の無い事である。
しかしマリアは、そんな乗客達の気の緩みを見逃さず、
『ですが!』
語勢を強め、
『今、港に向かえば、この船は核爆弾により生じた津波に背後から襲われ転覆して誰も助からず! 洋上に向かって逃げるにも、もはや時間がありませんですの!』
「「「「「「「「「「な!」」」」」」」」」」
信じ難い死刑宣告に、乗客達はおののき、
「何だってぇーーー!」
「嘘だろぉ!」
「じゃあどうすれば良いのよぉおぉ!」
「俺達はもう終わりなのかぁーーー!」
落ち込む者、怒声を上げる者、泣き出す者、船内が再び混沌とする中、
『わたくしは皆さんを助けたいんですの!』
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
『わたくしを信じていただける方は、わたくしの命に替えて守って見せますわ! ですが時間がありませんですの! 直ちにクルーの指示に従い劇場へ移動して下さいですわ!』
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
戸惑いを禁じ得ない乗客達の心中を察して一呼吸置くと、今度は穏やかな口調で、
『皆様、この船は皆様をお救いする為に、十分後に後ろへ下がる動きを開始し致しますわ。後ろに下がる時には衝撃を伴いますし、その後には津波の強い衝撃も受けますわ。劇場に入りましたら、シートとシートの間に、身を挟める様に屈み、落下物から頭部を守る様にして下さいですわ。それとクルーの皆様も、誘導が終わりましたら、同様にご自身の身の安全を確保して下さいですわぁ』
優しく言い終えると、マリアは意識をブリッジへと戻し、
「と、言う事ですので操舵の方、十分後に逆進して下さいですわ」
にこやかに微笑んだ。
その笑顔は女神の様であり、同性であっても心を奪われてしまいそうな微笑みであったが、現実には船長の首にレイピアを当てた、テロリストの姿。
凄みを利かされて普通に睨まれるより、むしろ怖い。
思わず息をのむ操舵長は、
「あ、アイサー、マム……」
緊張した面持ちでハンドル形状の舵を握り直し、自席のモニタ画面の時刻に目をやった。
すると船長は背後のマリアを肩越しに見て、クルー達にも聞こえる声量で、
「あの様な一方的な話を乗客が信じ、従うと、貴方は本気で思っているのかね?」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
マリアの怒りを誘発しかねない、地雷と思える問い掛けに、息を凝らすブリッジクルー達。
しかしマリアはフッと小さく笑い、会話が乗客達にも丸聞こえであると知った上で、
「それは分かりません。ですが、わたくしは、わたくしを信じていただける方を、決して見捨てたり致しませんですわ。全身全霊をとして、必ずお救いして見せますわぁ!」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
絶対的自身に満ち溢れた笑顔に、希望を啓示された様な思いに駆られる船長をはじめとするブリッジクルー達。
それは船内スピーカー越しにマリアの声を耳にした、乗客達も同様であった。
いったい彼女の何がそこまで言わせるのか疑問を抱きつつ、心を動かされた一部の乗客達が、
「何もしないで神頼みよりマシだよな」
「そうよね」
「俺は、賭けてみるぞ!」
一人、また一人と劇場に移動し始め、やがて「俺も」「私も」と、続々劇場に移動を開始し、マリアの言っていた指示に従い、座席の間で身を屈めた。
無論、頑なに拒む者も少なからずいた事は言うまでもないが。
「分かりました。繋ぎます」
自席の機器を操作し、ヘッドセットを持って立ち上がると、マリアの下に歩み寄り、
「マイクです。乗客や乗員に聞かせたいのは、会話だけじゃないんですよね?」
緊張した笑顔と共に差し出した。
小さな笑みを返し、左手で受け取るマリア。
「優秀な部下をお持ちの様ですわね、船長さん。話しが早くて助かりますわ」
ヘッドセットを耳に掛けると、
『乗客の皆様ぁ、ブリッジからですわぁ!』
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
これから自分たちの身がどうなるか分からず、鬼気とした空気に包まれたていた乗客達は、凛としたマリアの一声に一斉に騒ぎを静め、スピーカーに耳を傾けた。
当然、マリアから乗客達の姿は見えなかったが、かつての経験から静まったタイミングを見計らい、一呼吸置くと、
『皆様がご承知の通り、今世界では核戦争と言う物が起き、この船は最寄りの港に向け移動しておりますわ』
安堵した表情を見せる乗客達。
津波とは縁遠い大陸に住まう人々が、陸に上がれば安心と思ってしまうのは、いた仕方の無い事である。
しかしマリアは、そんな乗客達の気の緩みを見逃さず、
『ですが!』
語勢を強め、
『今、港に向かえば、この船は核爆弾により生じた津波に背後から襲われ転覆して誰も助からず! 洋上に向かって逃げるにも、もはや時間がありませんですの!』
「「「「「「「「「「な!」」」」」」」」」」
信じ難い死刑宣告に、乗客達はおののき、
「何だってぇーーー!」
「嘘だろぉ!」
「じゃあどうすれば良いのよぉおぉ!」
「俺達はもう終わりなのかぁーーー!」
落ち込む者、怒声を上げる者、泣き出す者、船内が再び混沌とする中、
『わたくしは皆さんを助けたいんですの!』
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
『わたくしを信じていただける方は、わたくしの命に替えて守って見せますわ! ですが時間がありませんですの! 直ちにクルーの指示に従い劇場へ移動して下さいですわ!』
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
戸惑いを禁じ得ない乗客達の心中を察して一呼吸置くと、今度は穏やかな口調で、
『皆様、この船は皆様をお救いする為に、十分後に後ろへ下がる動きを開始し致しますわ。後ろに下がる時には衝撃を伴いますし、その後には津波の強い衝撃も受けますわ。劇場に入りましたら、シートとシートの間に、身を挟める様に屈み、落下物から頭部を守る様にして下さいですわ。それとクルーの皆様も、誘導が終わりましたら、同様にご自身の身の安全を確保して下さいですわぁ』
優しく言い終えると、マリアは意識をブリッジへと戻し、
「と、言う事ですので操舵の方、十分後に逆進して下さいですわ」
にこやかに微笑んだ。
その笑顔は女神の様であり、同性であっても心を奪われてしまいそうな微笑みであったが、現実には船長の首にレイピアを当てた、テロリストの姿。
凄みを利かされて普通に睨まれるより、むしろ怖い。
思わず息をのむ操舵長は、
「あ、アイサー、マム……」
緊張した面持ちでハンドル形状の舵を握り直し、自席のモニタ画面の時刻に目をやった。
すると船長は背後のマリアを肩越しに見て、クルー達にも聞こえる声量で、
「あの様な一方的な話を乗客が信じ、従うと、貴方は本気で思っているのかね?」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
マリアの怒りを誘発しかねない、地雷と思える問い掛けに、息を凝らすブリッジクルー達。
しかしマリアはフッと小さく笑い、会話が乗客達にも丸聞こえであると知った上で、
「それは分かりません。ですが、わたくしは、わたくしを信じていただける方を、決して見捨てたり致しませんですわ。全身全霊をとして、必ずお救いして見せますわぁ!」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
絶対的自身に満ち溢れた笑顔に、希望を啓示された様な思いに駆られる船長をはじめとするブリッジクルー達。
それは船内スピーカー越しにマリアの声を耳にした、乗客達も同様であった。
いったい彼女の何がそこまで言わせるのか疑問を抱きつつ、心を動かされた一部の乗客達が、
「何もしないで神頼みよりマシだよな」
「そうよね」
「俺は、賭けてみるぞ!」
一人、また一人と劇場に移動し始め、やがて「俺も」「私も」と、続々劇場に移動を開始し、マリアの言っていた指示に従い、座席の間で身を屈めた。
無論、頑なに拒む者も少なからずいた事は言うまでもないが。
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