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7.岐路の章_17
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※ ※ ※
世界的規模の核戦争が起きた、十年ほど前―――
揃いの制服を着たブリッジクルーとは明らかに違う、仕立ての良いオーダーメイドスーツに身を包んだ中年男が、血相を変えて船長に詰め寄り、
「私はスグ会社に戻って陣頭指揮をせねばならんのだ! 何処でも良い! 早く船を近くの港に寄港させろ!」
「落ち着いて下さい。本船は元々スケジュールに従い、寄港地に向けて舵を切っております」
努めて平静な口調で語る船長に対し、
「ならば速度を上げないか! この船は、まだスピードを出せるのだろ!」
「ですが安全に航行するには、」
「貴様なんぞにビジネスの何たるかが分かるのか! ビジネスとは一分一秒を争うのだ! この様な混乱時に、会社で舵取りする者が居なくてどうする! 私はここのクルーズ会社の大口出資者なのだぞ! 我が社が傾けば、貴様等もタダでは済まんのだぞ!」
怒りの矛先は、喚きをチラ見するクルー達にも向けられ、
「貴様等も、見ている暇があったらサッサと作業を進めんかァ!」
さしもの「海の男」も雇い主を盾にされ、あまつさえ矛先を大切なクルー達にまで向けられては従わざるを得ず、
「わ、分かりました……操舵長、船速を、」
言いかけると、
「その様な愚かな選択に従う通りはありませんわぁ!」
声を上げたのは、乗員の制服に身を包んだマリアであった。
「なんだ貴様はぁ! クビにしてやるから名前を!」
スポンサーの男が激高してマリアに詰め寄ると、マリアはギラリと目を光らせた一瞬のうち、男の背後に回り、首に腕を絡めて締め落とし、強引に意識を奪った。
操り糸の切れた人形の様に、全身のチカラがストンと抜ける男。
マリアは、格闘技における「裸絞(はだかじめ)」と言う、相手の頸動脈を圧迫する事により脳への血流を止め、意識を一時的に奪う技と同じ事を行ったのである。
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
身内の一人が手を出してしまった事に、おののくブリッジクルー達。
しかしマリアは気にする素振りも見せず、気絶して横たわる男にウインクし、
「ゴメンあそばせぇですわ。相手をしている時間がございませんのぉ」
「き、君は誰だ!?」
乗員全ての顔を記憶している船長は、見た事の無いクルーの登場に後退った。
可愛らしく、ニコリと笑うマリア。
(リスト……ロード……)
小声で呟き、船長の目からは見えない様に、後ろに回した右手にレイピアを出現させ、
「失礼、船長」
笑顔と共に、一瞬にして船長の腕を掴んで背後に回り、レイピアを船長のノド元に当て、
「船長の命を救いたくば、わたくしに皆様の命を救わせなさいですわ!」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
訳の分からない要求に、キョトンとする船長とブリッジクルー達。
言いたい事が伝わっていない様子に、稚拙な物言いであった事に気付いたマリアは、恥ずかしさからボッと顔を赤らめつつ、
「いっ、良いですから! 皆で助かりたかったら、わたくしの言う事をお聞きなさいですわ!」
ハッと我に返る船長達。
マリアの気の抜けるモノ言いのせいで一瞬ほのぼのしてしまったが、世界では核戦争が起き、船は女テロリストに占拠された異常事態。
船長は囚われつつも凛然とした表情で、
「こんな異常時に、人質テロなど、」
「良いですから、わたくしの指示に従いなさい! 必ず全員、乗客を含め、助けてみせますわ!」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
何の解決策も示さず、根拠も無い言葉であったが、その声には人を納得させる不思議なチカラがあった。
それはマリアが持つ王族としての血のチカラなのか、それともマリアの覚悟がそう感じさせるのか。
船長はレイピアを首元に当てられたまま、
「この船に乗る全ての人の命を、一人で背負うと言うのですか?」
「かつてわたくしが背負っていた数に比べれば、微々たるものですわ」
「…………」
微笑むマリアはスタッフにも笑顔を向け、
「事が全て終わった暁には、全責任を、わたくしのせいにすれば良いですわぁ」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
返答を待っている時間は無かった。
マリアはクルー達の返事を待たず、凛然とした表情で、
「正面の大型モニタにライブのニュース映像をお映しなさい! それと航海担当者は広域の海図の表示を! そして全警備員は食糧庫の警備にお就かせなさい!」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
戸惑いを隠せないクルー達が、お互いの顔色を窺い合っていると、
「早くなさァい! 船長の首が飛ぶところを見たいんですのぉ!」
怒声が飛び、クルー達は慌てて作業に取り掛かった。
「貴方は人を使う事に慣れていらっしゃるようだ」
皮肉った笑みを浮かべる船長に、
「お褒めの言葉と受け取っておきますわ、船長」
ニコリと微笑むと、
「落下物や、荷崩れする物が少なく、乗客全員を収容できる場所はありませんこと?」
「?」
意図までは理解出来なかったが、船長はしばし考え、
「映画を上映している劇場なら……しかし何故、」
問う間もなく、マリアはブリッジクルー達に向け、
「船内クルーに、全乗客を映画とやらの劇場に誘導するよう指示をお出しなさい!」
「は、ハイ!」
インカムを耳にした女性クルーが返事を返すと、他のクルー達が、
「ニュース映像を大型モニタに映します!」
「海図の縮尺はコレで良いですか!」
矢継ぎ早に声を上げ、もはやマリアの指示にされるがまま。
世界的規模の核戦争が起きた、十年ほど前―――
揃いの制服を着たブリッジクルーとは明らかに違う、仕立ての良いオーダーメイドスーツに身を包んだ中年男が、血相を変えて船長に詰め寄り、
「私はスグ会社に戻って陣頭指揮をせねばならんのだ! 何処でも良い! 早く船を近くの港に寄港させろ!」
「落ち着いて下さい。本船は元々スケジュールに従い、寄港地に向けて舵を切っております」
努めて平静な口調で語る船長に対し、
「ならば速度を上げないか! この船は、まだスピードを出せるのだろ!」
「ですが安全に航行するには、」
「貴様なんぞにビジネスの何たるかが分かるのか! ビジネスとは一分一秒を争うのだ! この様な混乱時に、会社で舵取りする者が居なくてどうする! 私はここのクルーズ会社の大口出資者なのだぞ! 我が社が傾けば、貴様等もタダでは済まんのだぞ!」
怒りの矛先は、喚きをチラ見するクルー達にも向けられ、
「貴様等も、見ている暇があったらサッサと作業を進めんかァ!」
さしもの「海の男」も雇い主を盾にされ、あまつさえ矛先を大切なクルー達にまで向けられては従わざるを得ず、
「わ、分かりました……操舵長、船速を、」
言いかけると、
「その様な愚かな選択に従う通りはありませんわぁ!」
声を上げたのは、乗員の制服に身を包んだマリアであった。
「なんだ貴様はぁ! クビにしてやるから名前を!」
スポンサーの男が激高してマリアに詰め寄ると、マリアはギラリと目を光らせた一瞬のうち、男の背後に回り、首に腕を絡めて締め落とし、強引に意識を奪った。
操り糸の切れた人形の様に、全身のチカラがストンと抜ける男。
マリアは、格闘技における「裸絞(はだかじめ)」と言う、相手の頸動脈を圧迫する事により脳への血流を止め、意識を一時的に奪う技と同じ事を行ったのである。
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
身内の一人が手を出してしまった事に、おののくブリッジクルー達。
しかしマリアは気にする素振りも見せず、気絶して横たわる男にウインクし、
「ゴメンあそばせぇですわ。相手をしている時間がございませんのぉ」
「き、君は誰だ!?」
乗員全ての顔を記憶している船長は、見た事の無いクルーの登場に後退った。
可愛らしく、ニコリと笑うマリア。
(リスト……ロード……)
小声で呟き、船長の目からは見えない様に、後ろに回した右手にレイピアを出現させ、
「失礼、船長」
笑顔と共に、一瞬にして船長の腕を掴んで背後に回り、レイピアを船長のノド元に当て、
「船長の命を救いたくば、わたくしに皆様の命を救わせなさいですわ!」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
訳の分からない要求に、キョトンとする船長とブリッジクルー達。
言いたい事が伝わっていない様子に、稚拙な物言いであった事に気付いたマリアは、恥ずかしさからボッと顔を赤らめつつ、
「いっ、良いですから! 皆で助かりたかったら、わたくしの言う事をお聞きなさいですわ!」
ハッと我に返る船長達。
マリアの気の抜けるモノ言いのせいで一瞬ほのぼのしてしまったが、世界では核戦争が起き、船は女テロリストに占拠された異常事態。
船長は囚われつつも凛然とした表情で、
「こんな異常時に、人質テロなど、」
「良いですから、わたくしの指示に従いなさい! 必ず全員、乗客を含め、助けてみせますわ!」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
何の解決策も示さず、根拠も無い言葉であったが、その声には人を納得させる不思議なチカラがあった。
それはマリアが持つ王族としての血のチカラなのか、それともマリアの覚悟がそう感じさせるのか。
船長はレイピアを首元に当てられたまま、
「この船に乗る全ての人の命を、一人で背負うと言うのですか?」
「かつてわたくしが背負っていた数に比べれば、微々たるものですわ」
「…………」
微笑むマリアはスタッフにも笑顔を向け、
「事が全て終わった暁には、全責任を、わたくしのせいにすれば良いですわぁ」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
返答を待っている時間は無かった。
マリアはクルー達の返事を待たず、凛然とした表情で、
「正面の大型モニタにライブのニュース映像をお映しなさい! それと航海担当者は広域の海図の表示を! そして全警備員は食糧庫の警備にお就かせなさい!」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
戸惑いを隠せないクルー達が、お互いの顔色を窺い合っていると、
「早くなさァい! 船長の首が飛ぶところを見たいんですのぉ!」
怒声が飛び、クルー達は慌てて作業に取り掛かった。
「貴方は人を使う事に慣れていらっしゃるようだ」
皮肉った笑みを浮かべる船長に、
「お褒めの言葉と受け取っておきますわ、船長」
ニコリと微笑むと、
「落下物や、荷崩れする物が少なく、乗客全員を収容できる場所はありませんこと?」
「?」
意図までは理解出来なかったが、船長はしばし考え、
「映画を上映している劇場なら……しかし何故、」
問う間もなく、マリアはブリッジクルー達に向け、
「船内クルーに、全乗客を映画とやらの劇場に誘導するよう指示をお出しなさい!」
「は、ハイ!」
インカムを耳にした女性クルーが返事を返すと、他のクルー達が、
「ニュース映像を大型モニタに映します!」
「海図の縮尺はコレで良いですか!」
矢継ぎ早に声を上げ、もはやマリアの指示にされるがまま。
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