CLOUD(クラウド)

青木 森

文字の大きさ
上 下
197 / 535

7.岐路の章_2

しおりを挟む
 異様に静まるブリッジ内で、艦長がおもむろに口を開いた。
「好奇心に溢れ、無垢な幼子の様であったナクア君は、大切な人を失う痛みと、遺された者が背負う悲しみを知ってしまった……。過去に自分がして来た行いに対する自責の念。我々の想像も及ばない悲しみと責め苦であろう……」
 傍らに立つ副長ソフィアは神妙な面持ちで頷き、
「ですが艦長、今の彼女にはマシューがついています。支えてくれる者があれば、人は奈落の底からでも立ち直れると、私は思います」
 好奇の目に晒され続け、家族と共に国を出る羽目になった経験を持つソフィアは、自身の苦悩と重ねてか、その眼には涙ではなく、確信の光りの様な物が宿っていた。
「うむ」
 静かに頷く艦長。ブリッジクルー全員の心に訴えかける様に、
「今は、我々に出来うる限りの最善を行おう! さもなくばタケダ君の言っていた通り、世界はクローザーの手により最悪を迎える事になるやも知れぬ!」
「「「「「「「イエッサァーーーーッ!」」」」」」」
 ブリッジクルー達は、クローザーとの戦いの決意を新たにした。
 タケダさんは基地を空ける事が多かったナクアに変わり、南極基地でダイバーズの運営も行っていた。
 その間、依頼主とメンバーとの橋渡しを行う業務の他に、クローザーについての情報収集も行っていたのであるが、口伝、遺跡調査など、ダイバーズメンバーから寄せらる膨大な量の情報を精査する中、クローザーの目的がスティーラーの破壊のみならず、現存する文明が地球にとって有害と判断した場合、その全てを破壊し、終焉に導く事も任務とされている事が判明したのである。
 それが、全クローザーに付された使命であるかまでは、不明であるが。
 国を護り、他国を奪う為に作られたスティーラーの破壊も、私怨のみならず、使命実現の妨げになるからであり、ヤマト達は一日も早く、一人でも多くのスティーラーを集めて共闘し、クローザーと対抗するチカラを得る事が急務となっていた。
 本来ならば国レベルの協力を得て国際的協調の下に、クローザーと相対するべき事例であるが、確たる証拠が無く、あくまで状況証拠の積み上げによる話。
 ましてスティーラーやクローザーの存在も知らない国々がほとんどなうえ、ガルシアクルーはほぼ全員が各国からの脱走兵扱い。
 いわゆる「お尋ね者」の集まり。
 指名手配犯たちの「もしも話」など、核戦争後の疑心暗鬼に憑りつかれた世界の人々が聞き入れる筈もなく、現状において自分達で解決するより他、解決する術はないのであった。
 そしてソフィアには、気掛かりな事がもう一つ。
 同じ不安を抱く航海長クリストファーと視線を交わすと、静かに頷き合い、
((ブレイクは大丈夫なのかしら……))
 腹心の部下であったルークの喪失による、ブレイクの心痛を気に掛ける二人。
 調査班隊員ルークは、隊長のブレイクにとって部下である以前に、長く苛酷な戦場を共に駆け抜けた弟的戦友でもあった。
 ルークを突如失い、もう一人の弟であるマシューも船を降り、その心中は察するに余り有る。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

不遇弓使いの英雄譚ー無敵スキル『絶対反転』を得て救世主となる

たからかた
ファンタジー
弓使いの青年アーチロビンの絶望からの逆転と無双、そして純情可憐な美少女との初恋物語! 弓使いアーチロビンは、勇者ネプォンの雑用係として、日々酷使されていた。ある日、見栄っ張りのネプォンの提案で、この世で最強の大帝神龍王に挑むが、太刀打ちできずに全滅の危機に晒される。危機を乗り切るために、生贄にされてしまうアーチロビン。死を覚悟した彼だったが、大帝神龍王に気に入られ、逆に人智を超えた最強の力を与えられてしまう。 それから半年ー魔族の出現は未だに続いていた。苦しむ人々のために、人知れず魔族と闘い続けるアーチロビン。 勇者ネプォンによって、魔王は倒されたのに、何故魔族は出現するのか? 人々の疑いは高まり、やがて自ら収拾に動かざるを得なくなるネプォン。生来の傲慢さと怠惰な気質が、彼を破滅へと追い込むとも知らず…。 そして、そんな勇者とは逆に、否が応でも広まっていくアーチロビンの名声。 魔王は天に選ばれた英雄しか倒せない───そんな絶対法則が存在する世界で、最強の弓使いが立ち上がる。 狐族の白狐の美少女フィオとの初々しい恋愛も織り交ぜながら、謙虚で無欲な青年が英雄と呼ばれるまでを描きます! ※小説家になろうにも投稿したものです。

強制力が無茶するせいで乙女ゲームから退場できない。こうなったら好きに生きて国外追放エンドを狙おう!処刑エンドだけは、ホント勘弁して下さい

リコピン
ファンタジー
某乙女ゲームの悪役令嬢に転生したナディア。子どもの頃に思い出した前世知識を生かして悪役令嬢回避を狙うが、強制力が無茶するせいで上手くいかない。ナディアの専属執事であるジェイクは、そんなナディアの奇行に振り回されることになる。 ※短編(10万字はいかない)予定です

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

処理中です...