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青木 森

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6.聞知と修練の章-15

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 足を失い、体にもベッドから起きる事も出来ない程の重傷を負っていた筈のルーカス。
 その様な彼が普通に歩いて姿を現したのであるから、驚きも当然と言える。
 ルーカスは驚くウッドに顔色一つ変えず、まるでそこにウッドが居ないかの様に一瞥もくれず傍らに立つと、スモークガラスに向かって一礼した。
『ウッド君、彼の事は知っているね。後任は彼に務めてもらうので、君はほとぼりが冷めるまで、ゆっくり休むと良い』
「お、お言葉ですが! 彼はずっとベッドにふせっており、現役からは、」
「見苦しいぞ、ウッド」
 振り向いたルーカスの能面の様な表情が一変、一瞬のうちに「般若」へ変わり、
「ウィリアム隊長が作り、育て上げた、誉れ高きガーディアンの名をを汚したクズがァ!」
「ななぁ!?」
 頭ごなしな罵声を浴びせかけられ、ウッドがおののくと、
『はっはっは。言葉が過ぎるよルーカス君』
 穏やかな笑い声に、ルーカスは慌ててガラスに向かって頭を下げ、
「しっ、失礼致しました。つい取り乱してしまい、」
『良い良い。それ程大切にしていると言う事の現れだ』
「は、寛大なお言葉、ありがとうございます」
『うむ。これからよろしくお願いしますよ、ルーカス君』
「ははッ!」
 すっかり蚊帳の外に置かれたウッド。
 築き上げて来た実績も、プライドも、将来性も、全てが一瞬にして打ち砕かれ、
「ふざけるぅなぁあぁぁあぁあぁっぁ!」
 半狂乱で、懐に隠し持っていた銃を抜き出しルーカスに発砲。
 パァン! パァン! パァン! パァン!
 室内に鳴り響く銃声と、ウッドの乱れた息遣い。
 突如目の前で繰り広げた蛮行であったが、謎の人物の口元が不敵にニヤリ。
 すると、近距離から複数の銃弾を受けた筈のルーカスが、何事も無かったかの様に、
「それで終わりか、ウッド」
 冷めた目で見下ろし、
「ヒィ!」
 おののくウッドは慌ててルーカスの顔に銃口を向けたが、ルーカスは動じた様子も見せずに左腕を一振り、
 ボッと言う鈍い音と共に、ウッドの銃を持つ右腕があらぬ方向へ曲がった。
「う、腕がぁあぁあぁぁぁぁあぁぁ!」
 右腕を押さえて屈み込むウッド。
 苦悶の表情で見上げたルーカスの左手は、人のそれではなかった。
 機械仕掛けの塊の様な手は、義手と呼ぶには程遠く、
「きぃ、機械体だとぉおぉぉ!? き、貴様いった!」
 怯えるウッドの額に向けて、ルーカスは左掌を広げて見せると、
「去れ」
 掌から青白いレーザーが照射、ウッドの額を貫いた。
 焼かれた傷から一滴の血も流さず、絶命してその場に倒れるウッド。
 スモークガラスの奥で、満足気にニヤリと笑う謎の人物。
 背後に立つ、白衣の人物をチラリと顧みて、
「どうだねドクター、彼の仕上がり具合は? 中々良いと、私は思うのだがね」
「いえ。人外の、あの連中にはほど遠いです」
 答える白衣の人物は、何でも屋の主治医でありつつ、軍曹とマリアを裏切った、あの医師であった。
「厳しいねぇ。まぁ向上心があると言うのは良い事だし、我々としても有難い事だ」
「ありがとうございます」
 頭を下げる医師。
 謎の人物と医師の視線の先、ガラスの向こうで、ウッドの遺体を侮蔑の感情を以て見下ろすルーカス。

 青空の地平線―――
 どこまでも真っ直ぐ続く一本道を走る、一台のキャンピングカー。
 風ではためく麦わら帽子を押さえ、助手席の開いた窓からニコやかに空を見上げるヴァイオレットと、穏やかな笑みを浮かべてハンドルを握るコーギー。
 ヴァイオレットは清々しい表情で大きく背伸びし、
「次の町には、どんな出会いが待っているのでしょう?」
「何かソレ、人間ぽいですねぇ」
「アラぁ、今のわたくしは人間、ヴァイオレットですわよぉ。ねぇ、人間のコーギーさん♪」
「ふふふ。そうですねぇ。それなら僕は、美味しいモノにも出会いたいですねぇ~」
「それも良いですわねぇ」
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