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6.聞知と修練の章-4
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表通りから奥まった、高層ビル群の裏に囲まれひっそり佇む、古いレンガ仕立の五階建てアパート。
立地場所や、手入れの行き届いていない外観からは、訳アリが集まって居そうな気配が漂うも、内部は意外と綺麗に整備され、ヴァイオレットを連れ立つコーギーは、きしむ木製内階段を四階まで上がると、古びた木製扉の前に立ち、
「ここですよ」
映画に出て来る「宝箱の鍵」の様な、クラシカルな鍵を穴に差し込み、扉を開けた。
「お邪魔しますですわぁ~」
室内はベッドルームとリビングが一体となった部屋が一つと、奥には対面キッチンも見える。ビジネスホテルの様な手狭な部屋に、ささやかなキッチンが付いていると言った印象である。
家具も小さなクローゼットが一つとソファーにベッドくらい。
生活感の感じられない室内を、紙袋を抱えたヴァイオレットは見回し、
(王宮のトイレと同じ位の広さですわねぇ……)
しみじみ呟くと、
「何か言いましたか?」
「いえいえいえいえぇ! 結構なお住まいでございますですわねぇ~」
笑ってお茶を濁し、コーギーはその笑顔に多少の腑に落ちなさを滲ませつつ、
「僕一人の部屋だから、適当にくつろいでよ」
「そう、一人ですのぉ……」
そそり立つ紙袋をテーブルに置いたヴァイオレットは、
(一人ィ!)
コーギーの発した一言を反芻、途端に顔を真っ赤に、
(あ、あたくしぃ! 見ず知らずの殿方と、その場の勢いで「同棲宣言」したと言う事なのでは!?)
そう思うと、何も無い部屋の中央にデンと置かれた、何サイズと表現出来ない程の大きさを持つベッドの存在感が殊さら際立って見え、
(は、ハレンチですわぁあぁぁぁっぁぁっぁあぁ!)
自信の脳内で繰り広げられるティーンズラブ的な暴走妄想に、思わず両手で顔を覆っていると、
「僕、知らない人と部屋を「シェア」して暮らすなんて、初めてですよぉ」
キッチンからコーギー声。
(シェア……)
ハッと、意識が現実世界に戻り、
「そ、そうですわよねぇ! 「シェア」で、ございますですわよねぇ~~~!」
(あ、あたくし、なんて妄想をぉおっぉぉおおおおぉぉ……)
平静を装いつつも、内心、羞恥心で汗だくになっていると、
「どうかしたの?」
取り乱した声色を不思議に思ったコーギーが顔をのぞかせ、
「ひゃぁ! なっ、何でも、ありませんでございますですわぁ!」
「……ふぅ~~~ん、なら良いんですけど………」
腑に落ちなさを滲ませつつ顔を引っ込め、ヴァイオレットがホッと一息つくと、キッチンから芳しい香りが漂って来た。
(イイ香りでございますですわぁ……お茶……でしょうか……)
目を細めて漂う香りを楽しんでいると、コーギーがティーカップを両手に、
「口に合うか分からないけど」
キッチンからやって来て、窓際の簡素な一脚テーブルの上にそっと置き、ついの椅子へとヴァイオレットを促した。
落ち着きを取り戻し、椅子に座るヴァイオレット。
芳しい香りを放つ紅茶に鼻を近づけ、
「イイ香り……これは何ですの?」
「へ? 紅茶だけど……あぁ~茶葉の名前ですかぁ」
「そっ、そうですわよぉ~、「こちゃ」くらい分かりますですわよぉ~」
「レディ・グレイって、言うそうですよ」
「レディ・グレイ……」
「って、偉そうに言ってますけど、僕だって知ったのは、つい最近なんですけどねぇ」
笑って見せるコーギー。
ヴァイオレットはティーカップを両手で持ち上げ、
「本当に、良い香りでございますですわぁ」
一口すすり、
「美味しい」
ポッと華やいだ表情を浮かべた。
「それは良かったぁ」
美味しさを共有出来た事に、嬉しそうな顔するコーギーは、
「ちょっと待ってて」
「?」
キッチンに小走りで戻ると、先程買ったパンを皿に盛りつけ戻って来た。
「せっかくだから、昼食にしようよ」
笑顔に、
「賛成ですわぁ」
笑顔で返し、二人はとりとめのない会話に花を咲かせた。
立地場所や、手入れの行き届いていない外観からは、訳アリが集まって居そうな気配が漂うも、内部は意外と綺麗に整備され、ヴァイオレットを連れ立つコーギーは、きしむ木製内階段を四階まで上がると、古びた木製扉の前に立ち、
「ここですよ」
映画に出て来る「宝箱の鍵」の様な、クラシカルな鍵を穴に差し込み、扉を開けた。
「お邪魔しますですわぁ~」
室内はベッドルームとリビングが一体となった部屋が一つと、奥には対面キッチンも見える。ビジネスホテルの様な手狭な部屋に、ささやかなキッチンが付いていると言った印象である。
家具も小さなクローゼットが一つとソファーにベッドくらい。
生活感の感じられない室内を、紙袋を抱えたヴァイオレットは見回し、
(王宮のトイレと同じ位の広さですわねぇ……)
しみじみ呟くと、
「何か言いましたか?」
「いえいえいえいえぇ! 結構なお住まいでございますですわねぇ~」
笑ってお茶を濁し、コーギーはその笑顔に多少の腑に落ちなさを滲ませつつ、
「僕一人の部屋だから、適当にくつろいでよ」
「そう、一人ですのぉ……」
そそり立つ紙袋をテーブルに置いたヴァイオレットは、
(一人ィ!)
コーギーの発した一言を反芻、途端に顔を真っ赤に、
(あ、あたくしぃ! 見ず知らずの殿方と、その場の勢いで「同棲宣言」したと言う事なのでは!?)
そう思うと、何も無い部屋の中央にデンと置かれた、何サイズと表現出来ない程の大きさを持つベッドの存在感が殊さら際立って見え、
(は、ハレンチですわぁあぁぁぁっぁぁっぁあぁ!)
自信の脳内で繰り広げられるティーンズラブ的な暴走妄想に、思わず両手で顔を覆っていると、
「僕、知らない人と部屋を「シェア」して暮らすなんて、初めてですよぉ」
キッチンからコーギー声。
(シェア……)
ハッと、意識が現実世界に戻り、
「そ、そうですわよねぇ! 「シェア」で、ございますですわよねぇ~~~!」
(あ、あたくし、なんて妄想をぉおっぉぉおおおおぉぉ……)
平静を装いつつも、内心、羞恥心で汗だくになっていると、
「どうかしたの?」
取り乱した声色を不思議に思ったコーギーが顔をのぞかせ、
「ひゃぁ! なっ、何でも、ありませんでございますですわぁ!」
「……ふぅ~~~ん、なら良いんですけど………」
腑に落ちなさを滲ませつつ顔を引っ込め、ヴァイオレットがホッと一息つくと、キッチンから芳しい香りが漂って来た。
(イイ香りでございますですわぁ……お茶……でしょうか……)
目を細めて漂う香りを楽しんでいると、コーギーがティーカップを両手に、
「口に合うか分からないけど」
キッチンからやって来て、窓際の簡素な一脚テーブルの上にそっと置き、ついの椅子へとヴァイオレットを促した。
落ち着きを取り戻し、椅子に座るヴァイオレット。
芳しい香りを放つ紅茶に鼻を近づけ、
「イイ香り……これは何ですの?」
「へ? 紅茶だけど……あぁ~茶葉の名前ですかぁ」
「そっ、そうですわよぉ~、「こちゃ」くらい分かりますですわよぉ~」
「レディ・グレイって、言うそうですよ」
「レディ・グレイ……」
「って、偉そうに言ってますけど、僕だって知ったのは、つい最近なんですけどねぇ」
笑って見せるコーギー。
ヴァイオレットはティーカップを両手で持ち上げ、
「本当に、良い香りでございますですわぁ」
一口すすり、
「美味しい」
ポッと華やいだ表情を浮かべた。
「それは良かったぁ」
美味しさを共有出来た事に、嬉しそうな顔するコーギーは、
「ちょっと待ってて」
「?」
キッチンに小走りで戻ると、先程買ったパンを皿に盛りつけ戻って来た。
「せっかくだから、昼食にしようよ」
笑顔に、
「賛成ですわぁ」
笑顔で返し、二人はとりとめのない会話に花を咲かせた。
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