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青木 森

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5.愁嘆の大地の章-65

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 戦う素振りも見せない後ろ姿に、ジャックは何もせずに弟を見逃した自身の姿と重ねて苛立ち、
「ヤマトォ! ジゼぇ! ナクア達と腑抜け女(マリア)の面倒を頼まぁ!」
 ナムクス(マリアの妹)を睨み見据えたまま、立ち上がった。
「「ジャック!?」」
 慌てるヤマトとジゼを尻目に、ジャックはうつむくマリアと並び立ち、
「下がれ、死神ぃ。俺がやる」
 一瞥もくれず、ナムクスに向かい一歩踏み出すと、
「お待ちなさい」
「…………」
 立ち止まるジャック。しかし振り向きもせず、
「反省だらけの今のテメェに、妹をヤレんのかよぉ。役立たずはスっ込んでろ」
 ひねくれ者なりの遠回しの気遣いに、マリアはうつむきながらも口元に小さな笑みを浮かべ、
「これはわたくしの戦(いくさ)で、わたくしのケジメですわぁ」
 腹を括った顔を上げた。
 肩越しチラリと振り返るジャック。
「…………」
 しばしマリアを見つめると、
「ケッ! 好きにしな」
 ジゼ達の方へ戻り始めた。
「ありがとうと、言っておきますわぁ」
 微笑むマリアにすれ違いざま、
「礼なんか言うな気色悪りぃ。そもそも「テメェの問題」なんだろがぁ」
「ですわぁ」
 自嘲すると、ジャックは不機嫌顔で足を止め、
「ただしぃ!」
「?」
「相手はクローザーだ、ヤベェと判断したら、勝手に参戦するから覚えとけぇ!」
 歩き出す背中に、
(相変わらず素直じゃありませんわねぇ)
 マリアはクスリと笑いつつ、
「分かりましたわ」
 迷いの晴れた目をナムクスに向け、対峙した。
 ムスッとした顔で、ヤマトとジゼが展開する二重フィールドの内側に入るジャック。
 心配の裏返しを不機嫌顔で誤魔化す姿に、ヤマトとジゼは呆れ笑い。
「相変わらず素直じゃないなぁ」
「ホントにツンデレなんだからぁ」
「っせぇ、ツンデレ言うなぁ! ってかジゼ、オメェが言うんじゃねぇよ! それより俺もフィールド張っから、ルーク達をエレベーターまで連れてくぞ」
「「!」」
 ヤマトとジゼは振り返り、ルークの亡骸にすがり付いたまま、むせび泣くナクアと、今にも壊れそうなナクアの心を支える様に抱くマシューに目を落とし、
「そうだな……」
「うん……そうだよね……」
 悲痛な表情で頷き、
「マシュー、ルークとナクアを頼む。どこまで通用するか分からないけど、俺とジゼとジャックの三人でフィールドを張るから……」
 頷くマシューはルークの亡骸を背負い、
「ルーク……ナクアと俺達の家(ガルシア)に帰ろうぜ……」
 ナクアを抱き寄せ立ち上がると、三人で三重にフィールドを展開。
「オメェ等、メソメソしてる場合じゃねぇぞ! あのヒス女は腐ってもクローザーだ! 下手すりゃ俺達が三重に張ったフィールドを一発で消し飛ばすかも知んねぇ。気ぃ抜くんじゃねぇ!」
 先の戦いでクローザーの強さを、身を以て知ったジャックがいきり立ったが、ナムクスはエレベーターに移動を始める一行の姿を嘲る様に小さく笑い、
「あの様に警戒なさって、お可愛い事でございますですわぁ。あたくしの本命は、御姉様だけですのにぃ」
「…………」
「なんでしたら、皆様であたくしを蹂躙しても構わないですのよぉ……出来るモノならぁ」
 不敵な笑みを浮かべると、
「お相手が「御姉様だけ」なのでしたらぁ……」
 身の丈を超える武器を瞬時にチリと消し、
「!?」
「これで、お相手して差し上げますですわぁ。お来なさい!」
 何かを召喚でもする様な中二病ポーズを取ると、空中に二本のレイピアが現れ、華麗にひと舞い回って見せながら両手に持ち、切っ先をマリアに向け構え、
「得意分野で、完膚なきまで叩きのめして差し上げますですわぁ!」
 マリアを見据えるその目の奥には、怨念の闇が渦巻いていた。
「…………」
 歪んだ負の気迫に、気圧されるマリア。
 しかし相手は人道を踏み外し、ルークを手に掛けた実の妹。臆している場合ではなく、自身の心を奮い立たせ、
「妹が心に抱えてしまった闇を祓うは、姉の責務ですわぁ!」
 分厚い防寒着を一瞬にして脱ぎ捨て、両手のレイピアを構えて見せた。
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