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青木 森

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5.愁嘆の大地の章-59

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 謀られていた事を知ったマリアは、ワナワナと怒りに打ち震え、
「このぉ、この口ですのぉ! この口がぁ~~~!」
 ナクアの両頬を両手で挟み、捏ねくり回した。
「あに(何)、すう(する)、まいあ(マリア)ぁ~」
 抵抗するナクアと、
「こ、コラァ! 陛下のお顔に何て事をするぅ! 陛下のお顔が! 御髪が! 無礼者ォ! 離さんかぁあぁ!」
 止めさせようと、マリアの腕にしがみ付くタケダさん。
 じゃれ合う二人と一羽に、笑い出すヤマト達。
 常識知らずである事を落ち込んでいたマシューとルークも、コントの様なやり取りに思わず笑い合っていると、ブレイクが二人の背をボンと景気よく叩き、
「行って来な!」
「「で、でも姐さん俺らには任務が……」」
 今スグにでも見に行きたい気持ちはあったが、任務を放棄する訳にはいかず、返答に戸惑っていると、ブレイクは未だマリアの腕にしがみつき、コントを続けているタケダさんに、
「ペンギン隊長さんよぉ!」
「ぺ、ペンギン隊長ぉ……ですとぉ!?」
 憤慨すると思いきや、特別扱いされた事で満更でもないデレ顔をしてマリアから離れ、
「何ですかなぁ? ブレイク隊長」
((((((((((ちょろいペンギンだ……))))))))))
 その場にいたガルシアクルーの誰もが心に思い、小さく笑う中、
「アタシ等が「形ばかりの任務」を外れたって、別に構いやしないんだろ?」
 タケダさんはフリッパー(翼)を腕組みして黙考すると、
「(スティーラーの)改造の為の設備セッティングには未だ時間を要しますし、その他の方も、御用意致しました「新兵装取り扱いに関するトレーニングメニュー」さえこなしていただければ問題ございませんです」
「だとさぁ」
 ブレイクは、マシューとルークに優しく笑って見せ、
「それにねぇ……」
「「それに?」」
「アンタ等は……戦争以外の事を、もっと知ったって構わないのさぁ」
 その一言は、戦場で多くの人を殺め、戦って死ぬ事意外許されないと感じていた二人の心の闇に、未来を見つめる小さな希望の光を当て、
「「姐さん……」」
 湿り顔を見せる二人に、ブレイクはいつも通りのカラッと晴れやかな笑顔を見せ、
「と、言う訳で艦長ぉ! 構やしないだろぅ?」
 ソフィアは「調査班で解決すべき問題」と、半ば他人事の様に傍観していたが、慌てて話に割って入り、
「ブレイク、アナタは何を勝手に!」
 しかし艦長は間を置かず、
「構わん」
「えぇ!? で、ですが艦長ぉ!」
「例え戦時下においても、人は争う事だけが全てではない」
「しかし……」
 尚も食い下がろうとするソフィアに、「クローザーの更なる襲撃を懸念しての事」と察しつつ、艦長はソフィアの目を真っ直ぐ見つめ、
「戦う事のみが人の生涯の全てだとしたら、それはあまりにも悲しい。そう思わんかね、副長」
「…………はい……」
 未だ思う所があるのか返事は返したものの、腑に落ちなさを滲ませるソフィアであったが、他のクルー達は「自分達も見に行けるかも知れない」と言う高揚感に包まれ、艦長はそんな空気に当てられてか、自身の気持ちに落ち着きを取り戻そうと艦長帽の位置を正し、
「他に行きたい者もいるだろう。副長、早急に希望者をまとめ、班割を決めてもらえるかね? ミスナクアも、それでよろしいか?」
「うぃ」
 変わらぬ無表情で手を上げ即応するナクアであったが、やはり素直に承服出来ないソフィアは、
「……艦長……本当によろしいのでしょうか……クローザーが、」
 言いかけた言葉を艦長はジェスチャーで制し、
「副長、君の懸念は察するに余りあるが、この基地に入った瞬間より、我々の全てはミスナクアに委ねられたも同然なのだよ。それに、クルーの中にはマシュー君やルーク君達と同様、物心ついた頃から戦争しか知らない、若いクルーもいる。次の世代を担う若者たちに、戦争以外の事を知る喜びを感じてもらう事は、決して悪い事ではないと、私は思うのだが」
 艦長の言う事が正論であるのは重々承知の上でなお、ブレーキ役と言う副長の立場から、軽はずみな同意を出来ずにいると、頑な態度がクルー達の中で浮いてしまう事を心配した艦長は、ソフィアの耳元に小声で、
(実は、私も見てみたいのだよ)
「え?」
 武骨な海の男が見せるイタズラっぽい笑みに、
(艦長……)
 ソフィアは頬を緩めると、
「分かりました」
 曇りが晴れた表情で頷き、
「希望する方は私の所へ来て下さい!」
 宣言すると、途端に多くのクルーが笑顔満面、ソフィアの下へと押し寄せた。
 大人達が見せる無邪気な笑顔に、ジャックは先ほどの自身の事を棚に置き、
「ケッ、ピクニック気分の幼稚園児かよぉ」
 吐き捨てる様に言ってのけると、その顔を見たヤマト達はプッと吹き出し笑い。
「その割に嬉しそうだなぁ~」
「ホント、自分だって嬉しいクセに、素直じゃないんだからぁ」
「コレこそツンデレですね、ジゼ御姉様ぁ」
「う、うっせぇ! 誰が楽しみにしてるってんだぁ!」
「ならジャック、貴方は一人で「お留守番」をしましてぇ?」
「!?」
 マリアのツッコミに、一瞬言葉に詰まるジャック。
 するとマリアはイタズラな、からかい笑顔を浮かべ、
「ぷぷぷぅ、ですわぁ」
 オモチャにされた事に気付き、
「マリア! テメェ、俺をはめやがったな!」
 憤慨する姿にヤマト達も笑い出す。
「くぅ! ざけんなぁ!」
 恥ずかしさを誤魔化す様に怒鳴って見せると、マリアはフッと小さく笑い、
「素直に喜んで宜しいのではなくてぇ? あの子の様に」
 ナクアへ視線を移した。
「あぁ? あの子だぁ?」
 振り向けば、マシュー、ルークと、楽し気に話すナクアの姿が。
 本人は気付いているのか、いないのか。今まで見た事の無い、和らいだ表情を見せていた。
「あんなに楽し気なナクア、初めて見ましたわ。それだけでも良かったと思いませんこと? ねぇ、ジャック」
「……ケッ。知るかよぉ」
 からかわれた事を根に持ち、ふてくされ気味に横向くジャックに、
(((おやおや……)))
 困った様な呆れ笑いを見合わせるヤマト達であったが、ジャックの横顔は、どこか嬉しそうでもあった。

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