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青木 森

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5.愁嘆の大地の章-50

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 ブリーフィングルームが残念な空気に包まれていた頃、ガルシア右舷後部上甲板の柵の前に、体育座りする一つの影があった。
 浮きドックの上部の切れ間から覗く青空を、ぼんやりと見上げ、
「はぁ~~~」
 大きなため息を一つ吐く、ヤマト。
 ジゼの話していた通り、ジャックの弟ルムスに一太刀浴びせる事も無く瞬殺された事に、未だショックを拭いきれずにいたのである。
 戦場で「サイレントキラー」として名を馳せていたとは言え、正にルムスの指摘通り、それはあくまで「普通の人間」相手の話。
 サイボーグであるヤマトが身体的に勝るのは当然であり、同族(スティーラーとクローザー)相手の戦闘において、リストも呼び出せないヤマトが瞬殺されるのもまた、当然の結果である。
 しかし、あまた戦場を駆け抜け得た「二つ名」。そうやすやすと割り切れるモノではなく、そして落ち込む理由はもう一つ。
(ジゼに、格好悪いところ見られたなぁ……)
 落ち込む割合としては、実はコチラの理由の方が大きく、思春期男子の様な発想である。
 すると反対側の左舷からも、
「はぁ~~~」
 同様に体育座りしたジャックが空を見上げ、大きなため息を吐いていた。
 弟と再会出来た喜びより、ナクアの言っていた通り性格が一変していた姿に、人前では強がっていたものの、ショックを隠せずにいたのである。
「「!」」
 互いの存在に気付き、バツが悪そうに視線を逸らす二人。
 なんとも気まずい空気が漂う中、
「格の上の相手に瞬殺されたくれぇで、落ち込んでんじゃねぇ~よ、バァ~カ。第一、俺の弟に勝てる訳がねぇだろがぁ」
 不器用、と言うより素直ではないジャックなりの「言葉足らずな気遣い」であったが、気持ちが落ち込み、ネガティブ発想が悪循環している相手には、真意は中々伝わらないものである。
 絶賛落ち込み中のヤマトは「小馬鹿にされた」と受け取り、
「……兄貴がこんなだと、そりゃ弟もグレるよな」
 鼻先でフッと小さく笑い、ジャックをチラ見た。
「んだとぉ、コラァ」
 苛立ち露わに立ち上がるジャック。
 受けて立つと言わんばかりに立ち上がるヤマトに、
「来な、ヤマト! リストは使わないでやる。ハンデって、ヤツだ」
「その余裕、ぜってぇ後悔させてやる!」
 ジェイソン仕込みの古武術を応用した、相手に距離感を読み辛くさせる運足(うんそく)、足運び。
 遠いと思わせた距離から一気に距離を縮め、拳を繰り出すが軽々受け流され、
「どうした、ヤマトォ! んなモンじゃねぇだろぉ、「サイレントキラーさん」ようぅ!」
「クッ!」
 武器を使わない肉弾戦では、個の能力差が如実に露わになる。
 序列最下位と言われるジャックではあるが、それはあくまで同レベル相手での話。
 今のヤマトでは、次元そのものが違う。


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