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5.愁嘆の大地の章-46
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ジャックの弟ルムスの襲撃から数日―――
敵に所在が知れ、本来ならばスグにでも出港しなければならなかったが、改修の為にレーダーは外され、電源周りも終わっていないガルシア改は、未だ出港出来ずにいた。
しかし幸いな事に敵の再襲はなく、穏やかな晴天の下、後部上甲板から移動ドックの船体に打ち付ける波を、体育座りでぼんやり見つめる人影が。
マリアである。
「はぁ~~~」
大きなため息を一つ吐くと背後から、
「恋の悩みぃ?」
からかい口調の声。
「何を言っておりますのジゼ、違いますわよぉ」
呆れ笑いを返すと、ジゼが微笑みながら隣に屈み、
「じゃあ、どうしたの?」
「営倉送りになった「あのお馬鹿さん」に食事を持って行っているのですが、すっかりふさぎ込んで何も食べませんのぉ」
「ナニナニ!? やっぱり気になるのぉ!」
「な、何ですの、そのキラキラした眼は? そんな色っぽい話ではありませんですわぁ。ただ……」
「ただ?」
「「ふてぶてしい」が服を着ている様なジャックが、あの程度の事でイジケている姿を見ていると……」
「見ていると?」
マリアは苛立ち露わ、
「キイィィ! 無性に腹が立ちますわ!」
(……それって、気になってるのと同じ意味じゃ……あははは、本人に自覚無しねぇ)
苦笑いを浮かべると、
「貴方たちこそ、どうですのよ!」
「え!?」
見事なブーメランに、ギョッとするジゼ。
自ら切り出した女子トークの筈が、この世の終わりの様な顔してうつむいてしまった。
「どぉ、どうしましたのぉ!?」
「ヤマトが……」
「ヤマトが?」
「ルムスに、あっさり負けたのが相当ショックだったらしくて……すごく落ち込んでるの……」
「そうでしたの…………でも大丈夫ですわよ!」
「?」
「南極へ行けば! リストにもアクセス出来て! 新たなチカラも得られますわぁ!」
落ち込むジゼを何とか励まそうと、必死の笑顔で力説するも、
「じゃあ、南極までずっと「あのまま」なんだ……」
「あ……」
痛い所を突かれ、二の句を失うマリア。
女子二人、この世の終わりの様な顔して、体育座りでぼんやり波間を見つめ、
「「はぁ~~~」」
ため息を吐いていると、
「ため息禁止、幸せ、が逃げる、よ」
背後の声に、死んだ魚の様な目をして振り返ると、無表情ナクアが不思議そうに首を傾げていた。
ナクアの首元にキラリと光るペンダントを、羨ましそうに見つめる二人。
「一番順調そうだね……」
「そうですわねぇ……」
条件反射的に思わず同意してしまったマリアは慌て、
「なっ、ち、違いますよわぉ! わたくしは違いますわよぉ!」
「…………」
無垢な瞳で、まっすぐ見つめるナクア。
曇りの無い透き通るような赤い瞳に、マリアは心の奥まで見透かされる様な思いに囚われ、
「#$%&&%$###ーーーッ!」
恥ずかしさから顔を真っ赤に、
「だから違いますてばぁーーー!」
しかしナクアは平然と、顔色一つ変える事無く、
「何も、言ってない、よ?」
「!?」
ギョッとするマリア。
ジゼがからかい半分宥める様に、生温かい目をして肩に手を乗せると、
「はぁぁぁうぅぅぅあぁ……わたくしっ、何を言っていますですのぉ……」
顔を両手で覆うも、あからさまに話の矛先を変えようと言うのか、
「そ、それより、ナクアぁ! 貴方、分かっておりますの! 少々やり過ぎですわよぉ!」
「?」
「二人にお渡しになったブレスレットですわぁ! アレは、フィールドを発生させるモノですわよねぇ!」
「えぇ!? アレって、そうなのぉ!?」
「うにぃ」
無感情に頷くナクアを、ジゼは擁護するかの様に、
「でもマリア、それの何がいけないの? 二人を護ってくれる訳だし、他の人の事だって」
「確かに先の戦闘においても、今の人類より遥かに進んでいる「わたくし達の技術」を供与した事で、危機を脱する事が出来たのは事実でございますわ……ですが、一歩違えば「新たなチカラを欲する全世界」を敵に回しかねませんのよ!」
「「…………」」
「特にナクア、遥か時代を共に生きた記憶を有する貴方でしたら、人間の「欲と言う名の業」がいかに深く、いかに恐ろしいモノか知っている筈ですわ!」
「…………」
無言のナクアは、胸元の赤いルビーの入ったペンダントを掌に乗せて見つめ、
「強盗に、よこせって言われて、イヤだった」
「「え?」」
「ただの、地球の石ころ、なのに……」
「お二人に……それほど特別な思い入れがありますの?」
「特別? タケダさんにも、言われた……」
((「タケダさん」って、ペンギンじゃ……))
人ではないモノの指摘に心揺さぶられるナクアに、若干の腑に落ちなさを感じていると、
「マリア、と軍曹」
「何です?」
「ヤマト、とジゼ」
「ナクア?」
「ジャックと弟、オリビアとイサミ…………ナクア、知りたい」
「「?」」
「特別(愛)って、何か」
無垢な瞳を向けるナクアは、鮮やかに赤く輝く宝石に視線を落とし、
「ナクア、貴方……」
マリアは「今抱いている感情が「愛」ですわよ」と、言いかけた言葉を呑み込んだ。
言葉にしてしまえば余りに浅く、自分以外の全てを実験動物としてしか見て来なかったナクアには、自らの心で、他者を愛おしむ事の「本当の意味」と「大切さ」を感じて欲しいと思ったからである。
敵に所在が知れ、本来ならばスグにでも出港しなければならなかったが、改修の為にレーダーは外され、電源周りも終わっていないガルシア改は、未だ出港出来ずにいた。
しかし幸いな事に敵の再襲はなく、穏やかな晴天の下、後部上甲板から移動ドックの船体に打ち付ける波を、体育座りでぼんやり見つめる人影が。
マリアである。
「はぁ~~~」
大きなため息を一つ吐くと背後から、
「恋の悩みぃ?」
からかい口調の声。
「何を言っておりますのジゼ、違いますわよぉ」
呆れ笑いを返すと、ジゼが微笑みながら隣に屈み、
「じゃあ、どうしたの?」
「営倉送りになった「あのお馬鹿さん」に食事を持って行っているのですが、すっかりふさぎ込んで何も食べませんのぉ」
「ナニナニ!? やっぱり気になるのぉ!」
「な、何ですの、そのキラキラした眼は? そんな色っぽい話ではありませんですわぁ。ただ……」
「ただ?」
「「ふてぶてしい」が服を着ている様なジャックが、あの程度の事でイジケている姿を見ていると……」
「見ていると?」
マリアは苛立ち露わ、
「キイィィ! 無性に腹が立ちますわ!」
(……それって、気になってるのと同じ意味じゃ……あははは、本人に自覚無しねぇ)
苦笑いを浮かべると、
「貴方たちこそ、どうですのよ!」
「え!?」
見事なブーメランに、ギョッとするジゼ。
自ら切り出した女子トークの筈が、この世の終わりの様な顔してうつむいてしまった。
「どぉ、どうしましたのぉ!?」
「ヤマトが……」
「ヤマトが?」
「ルムスに、あっさり負けたのが相当ショックだったらしくて……すごく落ち込んでるの……」
「そうでしたの…………でも大丈夫ですわよ!」
「?」
「南極へ行けば! リストにもアクセス出来て! 新たなチカラも得られますわぁ!」
落ち込むジゼを何とか励まそうと、必死の笑顔で力説するも、
「じゃあ、南極までずっと「あのまま」なんだ……」
「あ……」
痛い所を突かれ、二の句を失うマリア。
女子二人、この世の終わりの様な顔して、体育座りでぼんやり波間を見つめ、
「「はぁ~~~」」
ため息を吐いていると、
「ため息禁止、幸せ、が逃げる、よ」
背後の声に、死んだ魚の様な目をして振り返ると、無表情ナクアが不思議そうに首を傾げていた。
ナクアの首元にキラリと光るペンダントを、羨ましそうに見つめる二人。
「一番順調そうだね……」
「そうですわねぇ……」
条件反射的に思わず同意してしまったマリアは慌て、
「なっ、ち、違いますよわぉ! わたくしは違いますわよぉ!」
「…………」
無垢な瞳で、まっすぐ見つめるナクア。
曇りの無い透き通るような赤い瞳に、マリアは心の奥まで見透かされる様な思いに囚われ、
「#$%&&%$###ーーーッ!」
恥ずかしさから顔を真っ赤に、
「だから違いますてばぁーーー!」
しかしナクアは平然と、顔色一つ変える事無く、
「何も、言ってない、よ?」
「!?」
ギョッとするマリア。
ジゼがからかい半分宥める様に、生温かい目をして肩に手を乗せると、
「はぁぁぁうぅぅぅあぁ……わたくしっ、何を言っていますですのぉ……」
顔を両手で覆うも、あからさまに話の矛先を変えようと言うのか、
「そ、それより、ナクアぁ! 貴方、分かっておりますの! 少々やり過ぎですわよぉ!」
「?」
「二人にお渡しになったブレスレットですわぁ! アレは、フィールドを発生させるモノですわよねぇ!」
「えぇ!? アレって、そうなのぉ!?」
「うにぃ」
無感情に頷くナクアを、ジゼは擁護するかの様に、
「でもマリア、それの何がいけないの? 二人を護ってくれる訳だし、他の人の事だって」
「確かに先の戦闘においても、今の人類より遥かに進んでいる「わたくし達の技術」を供与した事で、危機を脱する事が出来たのは事実でございますわ……ですが、一歩違えば「新たなチカラを欲する全世界」を敵に回しかねませんのよ!」
「「…………」」
「特にナクア、遥か時代を共に生きた記憶を有する貴方でしたら、人間の「欲と言う名の業」がいかに深く、いかに恐ろしいモノか知っている筈ですわ!」
「…………」
無言のナクアは、胸元の赤いルビーの入ったペンダントを掌に乗せて見つめ、
「強盗に、よこせって言われて、イヤだった」
「「え?」」
「ただの、地球の石ころ、なのに……」
「お二人に……それほど特別な思い入れがありますの?」
「特別? タケダさんにも、言われた……」
((「タケダさん」って、ペンギンじゃ……))
人ではないモノの指摘に心揺さぶられるナクアに、若干の腑に落ちなさを感じていると、
「マリア、と軍曹」
「何です?」
「ヤマト、とジゼ」
「ナクア?」
「ジャックと弟、オリビアとイサミ…………ナクア、知りたい」
「「?」」
「特別(愛)って、何か」
無垢な瞳を向けるナクアは、鮮やかに赤く輝く宝石に視線を落とし、
「ナクア、貴方……」
マリアは「今抱いている感情が「愛」ですわよ」と、言いかけた言葉を呑み込んだ。
言葉にしてしまえば余りに浅く、自分以外の全てを実験動物としてしか見て来なかったナクアには、自らの心で、他者を愛おしむ事の「本当の意味」と「大切さ」を感じて欲しいと思ったからである。
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