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５．愁嘆の大地の章－３９

　同時刻―――
　医療室に併設されたキッズルームでは、イサミ、トシゾウ、ソウシの三人がクレヨンを手に、机に向かって画用紙に絵を描いていた。
　マリアからのお題はテーブルに飾られた花、カトレア。
　好きに描いて良いとは言われたものの、予め決められたお題に、トシゾウは三十分ともたず飽き、
「つまんねぇ！　あそびにいこうぜぇ！」
　クレヨンを放り投げた。
「まだおわってないでしょ！」
　苦言を呈すイサミに、すっかりやる気の失せたトシゾウは、
「もうあきたぁ～、ソウシだって、あそびたいよなぁ～」
「え、あ、その……ぼく……は……」
「ソウシをまきこまないのぉ！」
「なにおう！」
「ママに、いいつけてやるんだから！」
「あっ、ずっこいぞぉ！　いいこぶりやがってぇ！」
「イサミがてつだってあげるからぁ！」
「いいよぅ！　イサミは、ヘタだもん！」
「ヘタじゃないもん！　ソフィアが「どくそうてきね」って、いってたもん！」
　確かに、ある意味、幼児が描いたとは思えない出来栄えである。一言で言い表すならば、アバンギャルド、前衛的なタッチの画。
「け、ケンカ……だめ……だよぉ、ママに、しかられるよぉ」
　間に挟まれ、オロオロするばかりのソウシに、
「ケンカじゃないもん、「おせっきょう」だもん！」
「えらそうなんだよぉ！」
「なによぉ！」
　言い合いしていると、
「僕が教えてあげますよ？」
　野球帽を目深に被った先程のクルーが、医療室に入って来た。
「……あなた……だれ？」
　弟二人を背に隠し、警戒感露わに立ちはだかるイサミと、
「「おねぇぢぁ～ん」」　
　見知らぬ人物の登場に、怯えた表情でしがみ付くトシゾウとソウシ。
　守ってくれたであろうオリビアは、もう居ない。
　クルーは見える口元に笑みを浮かべ、
「どうしたんですか？　僕は整備班の、」
「せいびはんに、あなたなんかいないもん！」
　言い切るイサミをクスリと笑い、
「なるほど……賢く、勇敢ですね。流石は「僕の大事なアノ人」を縛る「かすがい」と言ったところですか」
　見下ろしたまま、扉の鍵に手を伸ばした。