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5.愁嘆の大地の章-29
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艦長から話には聞いてはいたが、普段の天真爛漫な彼女からは想像出来ず、内心半信半疑の部分が少なからずあったのだが、現実目の当たりにした鋭い眼は、正に歴戦の戦士そのもの。
考えて見れば彼女は幼いながらも反政府組織の元一員であり、壊滅した村で、たった一人で武器を手に弟達を護っていた兵士なのである。
中途半端なおためごかしなど通用する筈もなく、艦長は口からこぼれ出そうになる真実を、ぐっと飲み込み堪え、
「そうだ」
するとイサミは凛然とした表情は変えず、波間を真っ直ぐ見据え、
「そう。それが「オリビアのしごと」なら、しかたないわ。「へいし」なんだから」
「「「「「「!?」」」」」」
大人びた口調で、平然と言ってのけた。
ヤマトは、軍に「兵器」として育てられ、ジェイソンとエマに「人」として育てられた二面性を持つ自身の姿と、イサミの、兵士として育ち、ガルシアで普通の子供としてノビノビ暮らす二面の姿をダブらせ、
(本当に、本当にこれで良いのか……)
言葉として表現出来ない理不尽さと、掛ける言葉を見出せない自身に苛立ちを覚えていると、
「イサミちゃん!!」
マリアがいきなり背後から抱き締めた。
自身の悲しみであるかの様に表情を崩すマリアは、イサミの固く握られた小さな拳が、深い悲しみで小刻みに震えている事を見逃さなかったのである。
「泣かないのが強さ、なんて事はありませんわぁ!」
「でもね、マリアおねぇちゃん……オリビアは「てき」なの」
「関係ありませんわぁ!」
「!?」
「大切な人が亡くなった悲しみに、敵も味方もありませんわァ!」
泣かないイサミの心を代わる様に、悲痛な表情で大粒の涙を流すマリア。
それは自らも『軍曹』と言う、かけがえのないパートナーの裏切りに遭った上に、失う事になってしまった彼女だからこその発言であった。
しかしイサミは、
「ごめんなしゃい、マリアおねぇちゃん……」
「……え?」
涙を浮かべる事もなく、むしろ困惑した顔をし、
「イサミは……イサミは「なきかた」をしらないの。パパもママも、ゲリラのみんなも「たたかいかた」しか、おしえてくれなかったから……それに……「ないちゃダメ」って」
「「「「「「!」」」」」」
気恥ずかしそうに、それでいて困った様な笑顔を見せるも、その目の奥には確かな悲しみが溢れ、マリアは再びそっと抱き寄せると、
「考えなくて良いんですわ……心に委ねるだけで良いのですのよ……」
「ココロに?」
「そう……」
耳元で、優しく、穏やかに囁くマリアの声。
体から伝わるマリアの温もり。
優しさに包まれ、イサミの瞳は次第に潤み始める。
「だ、だめ……ないちゃだめ……なの……イサミはおねぇちゃん……だから……」
(良いんですわ……)
微笑むマリアが抱き寄せる両腕に思いを込めると、イサミの両目から大粒の涙がこぼれ、
「……いや……いやだよぉ、オリビアぁ……なんで、なんでオリビアまでおいてくのぉ~~~イサミもぉ、イサミも、パパとママのところにいくぅのぉおぉ!」
堪えようもなく溢れ出す、小さな体に押し込められていた大きな悲しみ。
声を上げて泣きじゃくる三つの幼子をマリアは優しく抱き締め、ジャックは背を向け奥歯を噛み鳴らし、
(クソがぁ! ぜってぇ許さねぇ!)
ジゼはたゆたう波間を見つめ、物悲し気なメロディーを口ずさみ、ヤマトは心を揺さぶる歌詞に、
「ジゼ……その曲は?」
「オリビアさんが、よく口ずさんでいたの……」
懐かしみ、目元に薄っすら涙を浮かべると、黙とうしていた艦長が静かに目を開け、
「男女の悲恋を歌った、大戦前の日本の流行歌だ。日本人であった私の父が、日本の古い曲が好きで……オリビア君に初めて出会った時、その曲の事をスグに思い出してね、教えたら甚く気に入った様だった……」
「「「「「…………」」」」」
「歌詞の中にカトレアが出て来るのだが、偶然にも彼女の誕生日花だった事も重なったようだ……しかし今にして思えば、何かしら自身の境遇と重ねていたのかも知れん……」
艦長は遠い目をした。
「「「「…………」」」」
それぞれが、それぞれの悲しみに暮れる中、無表情でペンダントを見つめるナクア。
(愛……人の為に泣く……分からない……ナクア……は、欠陥品……)
ヤマト達が様々な思いを胸に、オリビアが消えて逝った海を見つめる背後で、物陰から様子を窺い、立ち去る一つの影。
考えて見れば彼女は幼いながらも反政府組織の元一員であり、壊滅した村で、たった一人で武器を手に弟達を護っていた兵士なのである。
中途半端なおためごかしなど通用する筈もなく、艦長は口からこぼれ出そうになる真実を、ぐっと飲み込み堪え、
「そうだ」
するとイサミは凛然とした表情は変えず、波間を真っ直ぐ見据え、
「そう。それが「オリビアのしごと」なら、しかたないわ。「へいし」なんだから」
「「「「「「!?」」」」」」
大人びた口調で、平然と言ってのけた。
ヤマトは、軍に「兵器」として育てられ、ジェイソンとエマに「人」として育てられた二面性を持つ自身の姿と、イサミの、兵士として育ち、ガルシアで普通の子供としてノビノビ暮らす二面の姿をダブらせ、
(本当に、本当にこれで良いのか……)
言葉として表現出来ない理不尽さと、掛ける言葉を見出せない自身に苛立ちを覚えていると、
「イサミちゃん!!」
マリアがいきなり背後から抱き締めた。
自身の悲しみであるかの様に表情を崩すマリアは、イサミの固く握られた小さな拳が、深い悲しみで小刻みに震えている事を見逃さなかったのである。
「泣かないのが強さ、なんて事はありませんわぁ!」
「でもね、マリアおねぇちゃん……オリビアは「てき」なの」
「関係ありませんわぁ!」
「!?」
「大切な人が亡くなった悲しみに、敵も味方もありませんわァ!」
泣かないイサミの心を代わる様に、悲痛な表情で大粒の涙を流すマリア。
それは自らも『軍曹』と言う、かけがえのないパートナーの裏切りに遭った上に、失う事になってしまった彼女だからこその発言であった。
しかしイサミは、
「ごめんなしゃい、マリアおねぇちゃん……」
「……え?」
涙を浮かべる事もなく、むしろ困惑した顔をし、
「イサミは……イサミは「なきかた」をしらないの。パパもママも、ゲリラのみんなも「たたかいかた」しか、おしえてくれなかったから……それに……「ないちゃダメ」って」
「「「「「「!」」」」」」
気恥ずかしそうに、それでいて困った様な笑顔を見せるも、その目の奥には確かな悲しみが溢れ、マリアは再びそっと抱き寄せると、
「考えなくて良いんですわ……心に委ねるだけで良いのですのよ……」
「ココロに?」
「そう……」
耳元で、優しく、穏やかに囁くマリアの声。
体から伝わるマリアの温もり。
優しさに包まれ、イサミの瞳は次第に潤み始める。
「だ、だめ……ないちゃだめ……なの……イサミはおねぇちゃん……だから……」
(良いんですわ……)
微笑むマリアが抱き寄せる両腕に思いを込めると、イサミの両目から大粒の涙がこぼれ、
「……いや……いやだよぉ、オリビアぁ……なんで、なんでオリビアまでおいてくのぉ~~~イサミもぉ、イサミも、パパとママのところにいくぅのぉおぉ!」
堪えようもなく溢れ出す、小さな体に押し込められていた大きな悲しみ。
声を上げて泣きじゃくる三つの幼子をマリアは優しく抱き締め、ジャックは背を向け奥歯を噛み鳴らし、
(クソがぁ! ぜってぇ許さねぇ!)
ジゼはたゆたう波間を見つめ、物悲し気なメロディーを口ずさみ、ヤマトは心を揺さぶる歌詞に、
「ジゼ……その曲は?」
「オリビアさんが、よく口ずさんでいたの……」
懐かしみ、目元に薄っすら涙を浮かべると、黙とうしていた艦長が静かに目を開け、
「男女の悲恋を歌った、大戦前の日本の流行歌だ。日本人であった私の父が、日本の古い曲が好きで……オリビア君に初めて出会った時、その曲の事をスグに思い出してね、教えたら甚く気に入った様だった……」
「「「「「…………」」」」」
「歌詞の中にカトレアが出て来るのだが、偶然にも彼女の誕生日花だった事も重なったようだ……しかし今にして思えば、何かしら自身の境遇と重ねていたのかも知れん……」
艦長は遠い目をした。
「「「「…………」」」」
それぞれが、それぞれの悲しみに暮れる中、無表情でペンダントを見つめるナクア。
(愛……人の為に泣く……分からない……ナクア……は、欠陥品……)
ヤマト達が様々な思いを胸に、オリビアが消えて逝った海を見つめる背後で、物陰から様子を窺い、立ち去る一つの影。
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