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青木 森

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5.愁嘆の大地の章-22

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 いつもなら夫婦漫才なみのツッコミを入れるマリアでさえ、悲し気な表情を浮かべ、黙ってジャックを見つめ、
「…………」
 ジャックはその眼から逃れる様に顔を背けた。
 しばしの沈黙が続く中、新たに近づいて来た足音が、床に転がるヒューズユニットを拾い上げた。
「艦長……」
 物言いたげに見上げるオリビアを、凛然とした目で見下ろす艦長は背を向け、
「事の次第が判明するまで、ジャック君は営倉へ。オリビア君は、私の部屋に来なさい。以上、各員持ち場に戻れ」
 待機命令に、クルー達が明らかな不満を滲ませ、
「お、お言葉ですが、艦長! これは現行犯なのでは!」
「事の次第なんて悠長なことを!」
「コイツの強さは!」
「私は『事の次第が判明するまで』と、言った筈だが?」
 肩越しに、チラリと振り返った圧倒的存在感を放つ眼にクルー達は怯み、二の句を継げる事が出来なかった。
「行こうか、オリビア君」
 歩き始める艦長の背に、
「…………はい」
 ふらりと立ち上がり、死人の様に後へと続くオリビア。
クルー達はお互いの顔色を窺い、頷き合うと、ジャックの手錠に繋がれた「手綱」を強引に引き、
「さぁ来い! 裏切り者がァ!」
 営倉へと引き連れて行った。
 何も語らず去っていく背中を、悲し気に見つめるマリア。
「ジャック……」
 そんな彼女に寄り添うヤマトは、去って行く背中を共に見つめる事しか出来ず、
(父さん……こんな時、俺は、なんて声を掛けてあげたら良いんだ……)
 立ち尽くしていると、ブレイクが二人の肩にそっと手を添え、
「アイツはひねくれちゃ~いるが、性根まで腐っちゃいねぇ。それは艦長だって分かってる。営倉送りも、いきり立った連中から守る為だろうさ」。
「「ブレイク隊長……」」
 少なからず理解者がいる事に、安堵するヤマトとマリア。
 そしてブレイクの言葉通りジャックはその日のうちに釈放され、艦長立ち合いの下、犯人扱いしたクルー達は深々と謝罪した。
「す、すまなかった、ジャック!」
「申し訳ない! 言い訳のしようもない!」
「すまん!」
 真摯に頭を下げるクルー達に、ジャックは少し照れ臭そうにソッポを向きつつ、
「ひ、人を見た目で判断すんじゃねぇよ……こっ、今後は気を付けるんだなぁ」
 するとマシューとルークがからかう様に、
「「お~おぉ~お~、『狂気神様』が照れてらっしゃるぜぇ」」
「て、照れてねぇ!」
「ほぅ、じゃあアンタ……なんで赤くなってんだぁい?」
 ブレイクがイタズラっぽい笑みを浮かべ、ジャックの首に腕を掛け回すと、
「こ、ココ(ブリッジ)がアチィ~からだよォ!」
 「照れギレ」するジャックに、ブリッジ内に明るい笑いが上がった。
 安堵顔を見合わせるマリアとヤマト、そしてジゼ。通常運転無表情のナクアと、やれやれ顔のシセ達が見守る中、笑顔に包まれるジャック。
 自身の心の変化に戸惑いを感じつつ、ガルシアクルーとかかわる事で、徐々に心を軟化させていく。
 一方、家族同然であった筈の仲間への裏切りが知れ、仄暗い船底の営倉で床に座り、うつむくオリビア。光の消えた両目からは、なんの感情も読み取る事は出来ない。

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