134 / 535
5.愁嘆の大地の章-22
しおりを挟む
いつもなら夫婦漫才なみのツッコミを入れるマリアでさえ、悲し気な表情を浮かべ、黙ってジャックを見つめ、
「…………」
ジャックはその眼から逃れる様に顔を背けた。
しばしの沈黙が続く中、新たに近づいて来た足音が、床に転がるヒューズユニットを拾い上げた。
「艦長……」
物言いたげに見上げるオリビアを、凛然とした目で見下ろす艦長は背を向け、
「事の次第が判明するまで、ジャック君は営倉へ。オリビア君は、私の部屋に来なさい。以上、各員持ち場に戻れ」
待機命令に、クルー達が明らかな不満を滲ませ、
「お、お言葉ですが、艦長! これは現行犯なのでは!」
「事の次第なんて悠長なことを!」
「コイツの強さは!」
「私は『事の次第が判明するまで』と、言った筈だが?」
肩越しに、チラリと振り返った圧倒的存在感を放つ眼にクルー達は怯み、二の句を継げる事が出来なかった。
「行こうか、オリビア君」
歩き始める艦長の背に、
「…………はい」
ふらりと立ち上がり、死人の様に後へと続くオリビア。
クルー達はお互いの顔色を窺い、頷き合うと、ジャックの手錠に繋がれた「手綱」を強引に引き、
「さぁ来い! 裏切り者がァ!」
営倉へと引き連れて行った。
何も語らず去っていく背中を、悲し気に見つめるマリア。
「ジャック……」
そんな彼女に寄り添うヤマトは、去って行く背中を共に見つめる事しか出来ず、
(父さん……こんな時、俺は、なんて声を掛けてあげたら良いんだ……)
立ち尽くしていると、ブレイクが二人の肩にそっと手を添え、
「アイツはひねくれちゃ~いるが、性根まで腐っちゃいねぇ。それは艦長だって分かってる。営倉送りも、いきり立った連中から守る為だろうさ」。
「「ブレイク隊長……」」
少なからず理解者がいる事に、安堵するヤマトとマリア。
そしてブレイクの言葉通りジャックはその日のうちに釈放され、艦長立ち合いの下、犯人扱いしたクルー達は深々と謝罪した。
「す、すまなかった、ジャック!」
「申し訳ない! 言い訳のしようもない!」
「すまん!」
真摯に頭を下げるクルー達に、ジャックは少し照れ臭そうにソッポを向きつつ、
「ひ、人を見た目で判断すんじゃねぇよ……こっ、今後は気を付けるんだなぁ」
するとマシューとルークがからかう様に、
「「お~おぉ~お~、『狂気神様』が照れてらっしゃるぜぇ」」
「て、照れてねぇ!」
「ほぅ、じゃあアンタ……なんで赤くなってんだぁい?」
ブレイクがイタズラっぽい笑みを浮かべ、ジャックの首に腕を掛け回すと、
「こ、ココ(ブリッジ)がアチィ~からだよォ!」
「照れギレ」するジャックに、ブリッジ内に明るい笑いが上がった。
安堵顔を見合わせるマリアとヤマト、そしてジゼ。通常運転無表情のナクアと、やれやれ顔のシセ達が見守る中、笑顔に包まれるジャック。
自身の心の変化に戸惑いを感じつつ、ガルシアクルーとかかわる事で、徐々に心を軟化させていく。
一方、家族同然であった筈の仲間への裏切りが知れ、仄暗い船底の営倉で床に座り、うつむくオリビア。光の消えた両目からは、なんの感情も読み取る事は出来ない。
「…………」
ジャックはその眼から逃れる様に顔を背けた。
しばしの沈黙が続く中、新たに近づいて来た足音が、床に転がるヒューズユニットを拾い上げた。
「艦長……」
物言いたげに見上げるオリビアを、凛然とした目で見下ろす艦長は背を向け、
「事の次第が判明するまで、ジャック君は営倉へ。オリビア君は、私の部屋に来なさい。以上、各員持ち場に戻れ」
待機命令に、クルー達が明らかな不満を滲ませ、
「お、お言葉ですが、艦長! これは現行犯なのでは!」
「事の次第なんて悠長なことを!」
「コイツの強さは!」
「私は『事の次第が判明するまで』と、言った筈だが?」
肩越しに、チラリと振り返った圧倒的存在感を放つ眼にクルー達は怯み、二の句を継げる事が出来なかった。
「行こうか、オリビア君」
歩き始める艦長の背に、
「…………はい」
ふらりと立ち上がり、死人の様に後へと続くオリビア。
クルー達はお互いの顔色を窺い、頷き合うと、ジャックの手錠に繋がれた「手綱」を強引に引き、
「さぁ来い! 裏切り者がァ!」
営倉へと引き連れて行った。
何も語らず去っていく背中を、悲し気に見つめるマリア。
「ジャック……」
そんな彼女に寄り添うヤマトは、去って行く背中を共に見つめる事しか出来ず、
(父さん……こんな時、俺は、なんて声を掛けてあげたら良いんだ……)
立ち尽くしていると、ブレイクが二人の肩にそっと手を添え、
「アイツはひねくれちゃ~いるが、性根まで腐っちゃいねぇ。それは艦長だって分かってる。営倉送りも、いきり立った連中から守る為だろうさ」。
「「ブレイク隊長……」」
少なからず理解者がいる事に、安堵するヤマトとマリア。
そしてブレイクの言葉通りジャックはその日のうちに釈放され、艦長立ち合いの下、犯人扱いしたクルー達は深々と謝罪した。
「す、すまなかった、ジャック!」
「申し訳ない! 言い訳のしようもない!」
「すまん!」
真摯に頭を下げるクルー達に、ジャックは少し照れ臭そうにソッポを向きつつ、
「ひ、人を見た目で判断すんじゃねぇよ……こっ、今後は気を付けるんだなぁ」
するとマシューとルークがからかう様に、
「「お~おぉ~お~、『狂気神様』が照れてらっしゃるぜぇ」」
「て、照れてねぇ!」
「ほぅ、じゃあアンタ……なんで赤くなってんだぁい?」
ブレイクがイタズラっぽい笑みを浮かべ、ジャックの首に腕を掛け回すと、
「こ、ココ(ブリッジ)がアチィ~からだよォ!」
「照れギレ」するジャックに、ブリッジ内に明るい笑いが上がった。
安堵顔を見合わせるマリアとヤマト、そしてジゼ。通常運転無表情のナクアと、やれやれ顔のシセ達が見守る中、笑顔に包まれるジャック。
自身の心の変化に戸惑いを感じつつ、ガルシアクルーとかかわる事で、徐々に心を軟化させていく。
一方、家族同然であった筈の仲間への裏切りが知れ、仄暗い船底の営倉で床に座り、うつむくオリビア。光の消えた両目からは、なんの感情も読み取る事は出来ない。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件
藤岡 フジオ
ファンタジー
四十一世紀の地球。殆どの地球人が遺伝子操作で超人的な能力を有する。
日本地区で科学者として生きるヒジリ(19)は転送装置の事故でアンドロイドのウメボシと共にとある未開惑星に飛ばされてしまった。
そこはファンタジー世界そのままの星で、魔法が存在していた。
魔法の存在を感知できず見ることも出来ないヒジリではあったが、パワードスーツやアンドロイドの力のお陰で圧倒的な力を惑星の住人に見せつける!
超克の艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
「合衆国海軍ハ 六〇〇〇〇トン級戦艦ノ建造ヲ計画セリ」
米国駐在武官からもたらされた一報は帝国海軍に激震をもたらす。
新型戦艦の質的アドバンテージを失ったと判断した帝国海軍上層部はその設計を大幅に変更することを決意。
六四〇〇〇トンで建造されるはずだった「大和」は、しかしさらなる巨艦として誕生する。
だがしかし、米海軍の六〇〇〇〇トン級戦艦は誤報だったことが後に判明。
情報におけるミスが組織に致命的な結果をもたらすことを悟った帝国海軍はこれまでの態度を一変、貪欲に情報を収集・分析するようになる。
そして、その情報重視への転換は、帝国海軍の戦備ならびに戦術に大いなる変化をもたらす。
左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!
武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。
電子世界のフォルトゥーナ
有永 ナギサ
SF
人工知能を搭載した量子コンピュータセフィロトが自身の電子ネットワークと、その中にあるすべてのデータを物質化して創りだした電子による世界。通称、エデン。2075年の現在この場所はある事件をきっかけに、企業や国が管理されているデータを奪い合う戦場に成り果てていた。
そんな中かつて狩猟兵団に属していた十六歳の少年久遠レイジは、エデンの治安維持を任されている組織エデン協会アイギスで、パートナーと共に仕事に明け暮れる日々を過ごしていた。しかし新しく加入してきた少女をきっかけに、世界の命運を決める戦いへと巻き込まれていく。
かつての仲間たちの襲来、世界の裏側で暗躍する様々な組織の思惑、エデンの神になれるという鍵の存在。そして世界はレイジにある選択をせまる。彼が選ぶ答えは秩序か混沌か、それとも……。これは女神に愛された少年の物語。
<注意>①この物語は学園モノですが、実際に学園に通う学園編は中盤からになります。②世界観を強化するため、設定や世界観説明に少し修正が入る場合があります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる