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青木 森

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5.愁嘆の大地の章-8

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 オーストラリアを脱出し、マリアが教育係に就いて数日―――
 ガルシアは息をひそめる様にゆっくり北上を続け、南太平洋のメラネシアの南端付近に、やっと差し掛かっていた。
 ステルスモードで船体は隠せ、電波吸収塗料の効果によりレーダーの監視網に引っ掛かりはしないものの、オーストラリア艦の様にドローンを使用して領域を作ってのステルスモードではない為、海に描く航跡ばかりは消す事が出来ず、派手な白波を立て「人の目による監視網」に掛かる事を避ける為、低速で北上を続けていたのである。

 穏やかな微笑みを浮かべ、ホワイトボードの前に立つマリアと、対面する様に横一列、難しい顔して座るイサミ達。
「それでは、今日は「算数」のお勉強をいたしましょう」
 マリアが指揮棒を手に微笑むと、
「うげぇ……さんすう……」
 露骨に嫌そうな顔するイサミ達。
「算数が、そんなに嫌いですの?」
「「たす」とか「ひく」とか……もぅイサミ、わぁってなる!」
「なるよなぁ!」
「なるぅ!」
 三人が「算数嫌い」な事はオリビアから聞いてはいたが、噂通り、一様に不平の一句。
「イサミちゃん、レディーが「うげぇ」などと言ってはいけませんですわ。それに算数は、大事ですのよぉ」
「えぇ~イサミ、ちがうべんきょうがイイ~~~」
「おれもぉ~」
「ぼ、ぼく……も……」
 するマリアは、さも困った風を装い、
「困りましたわぁ~。算数をしてくれたら「おやつ」を出そうと思っていましたのにぃ~」
「「「おやつ!?」」」
 三人の眼の色が変わり、
「「「さんすう、やるぅ!」」」
「うふふ。良い子ですわぁ。そんな三人には、クッキーを二枚ずつどうぞ」
 マリアはクッキーの乗った皿を三人の前に一枚ずつ置いた。
 しかし皿を見たイサミ達の表情は一変、不服そうな顔を上げ、
「いちまいしか、はいってなぁい!」
「え? おかしいですわねぇ?」
 白々しく首を傾げるマリアに、
「「「いちまいたりなぁい!」」」
 ブーイング。
 するとマリアは急にニコリ。
「良く出来ましたわぁ」
 三人の頭をナデナデ。
「「「?」」」
 何故撫でられたのか分からずキョトンとしていると、
「それが「さんすう」ですのよぉ」
「「「へ?」」」
「二枚ある筈ですのに一枚しか無くて、だから一枚足りない。算数を知らないと「何枚足りない!」って、文句も言えませんでしょ~そしてぇ」
「正解した三人には、ご褒美ですわぁ」
 微笑むマリアは三人の皿に一枚ずつクッキーを乗せ、
「これで二枚になりましたわね」
「「「「ひく」と「たす」!」」」
 子供ながらに何かを感じたのか、神妙な面持ちで二枚のクッキーを見つめる三人。
 医療室から、今日も青い顔して机に突っ伏すオリビアが、子供達とマリアのやり取りに目を細めていると、
ビィーーーッ!
 室内スピーカーから呼び出し音が鳴り、
「オリビア、ソフィアです。マリアさんは、そちらにいますか?」
(う、うぅ……起き上がるの、めんどぉい……気持ち悪ぅ……)
 オリビアが突っ伏したままインターフォンに手を伸ばそうとしていると、マリアが駆け寄り、
「出ますから、大丈夫ですわ」
 通話ボタンを押下。
「……あ、ありがと、マリ……うぷっ」
 オリビアは口元を抑えた。
「「「「…………」」」」
 毎度の事ながら、呆れるマリア達。
 マイクが拾ったオリビアの体たらくに、ソフィアはイラッ!
「オリビア、アナタまた二日酔いぃ!? だらけ過ぎよ! 子供達が見てるのよぉ!」
 スピーカーが割れしそうな金切り声に、
「さ、叫ばないで副長ぉ~~~頭にぃ~キンキン響くぅ~~~」
「まったくアナタと言う人は!」
 長引きそうな言い合いに、マリアが間に割って入り、
「ま、まぁそれはそうとしてソフィアさん、わたくしに御用とはぁ?」
 スピーカーの向こうから、文句が言い足りないのかブツブツ聞こえていたが、急に早口になり、
「航路について相談したい事がありますのでブリッジへお願いします! では!」
 言葉少なに、慌てた様子で通話を終了した。
(ふふふふ。艦長さんに、何か言われましたのねぇ)
 焦るソフィアの姿を想像し、小さく笑っていると、
「マリアぁ、ふくちょうのところに、いくの?」
「「いくのぉ?」」
 妙に嬉しそうな顔するイサミ達。
 三人の表情から、サボリの気配を察するも、
「ですので、お昼まで自習していて下さい」
「「「分かった!」」」
 わざとらしい程の元気な返事が返る。
しかしマリアの方が一枚上手、部屋を出て行こうとするなり振り返り、
「そうそう。後で、やった所まで答え合わせをするので、頑張って下さいですわぁ」
「「「えぇ~~~!」」」
 見透かされていた事に気付き、露骨な不満顔を見せると、マリアはオリビアにアイコンタクトで申し送りをし、笑顔を残してブリッジへ向かった。

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