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4.偽りの新天地の章-15
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次の日の朝。
気持ちの良い陽射しの射しこむダイニングルームで、マリア達四人が食事を終えるのに合わせ、メイド達が入って来て一礼。
「食器をお下げ致します」
「ありがとう。料理長に「今日もおいしかったですわ」と、伝えていただけるかしら」
「かしこまりました」
メイド達は微笑みを浮かべて再び一礼、使用済み食器をワゴンにまとめ退室して行った。
白を基調としたアンティーク調の家具に囲まれたこのダイニングルームも、マリアが国民と汗を流し作った物であり、一見豪華に見える家具や壁も応接室同様、目を凝らせば素人が作った粗さが見て取れた。
マリアがテーブルの天板に残る、削り過ぎの痕に手を添え微笑んでいると、
「食後の……ハーブティーです……」
軍曹がティーカップを手元に、静かに置いた。
「この香り……今日はレモングラスですわねぇ。いつもありがとう」
爽やかな香りの湯気が立ち上るハーブティーを穏やかに見つめ、
「軍曹……」
「……はい」
「昨夜遅く、隊長が貴方を訪ねていらしたようだけど……」
「……特には……捜査状況の経過報告のような……」
「そう……」
一口飲むと、美味しそうに微笑んだ。
香りに魅かれ、興味津々見つめるジゼとヤマト。
「ジゼも飲んでみませんこと? 女性向きかもし知れませんが、ヤマトも」
二人が大きく頷くと、
「みな様、捜査もひと段落下した事ですし、今日はオフ日といたしましょう。わたくしも、個人的な用件がございますし」
「もしかしてデートォ!?」
ジゼが身を乗り出すと、
ガチャ!
軍曹が注ぐ手元を狂わせ、ハーブティーをこぼした。
「し、失礼しました……」
おしぼりで拭き取り、改めて注ぎ直す。
「なんですのジゼ、そのモノ言いは。わたくしにだって意中の方くらいおりますわよぉ」
ガチャチャ!
「し、失礼しましたぁ」
再び軍曹が手元を狂わせ、ハーブティーをこぼす。
おしぼりでテーブルを拭きつつ一呼吸してから、努めて平静に、
「そ、そうですよジゼさん! マリア程の器量良し、むしろ周りが放って置きませんよ!」
引きつる笑顔の軍曹が持つティーポットは、小刻みに揺れていた。
「ありがとう、軍曹」
素直に微笑むマリアの口元は、小悪魔的に小さくニヤリ。
ヤマトとジゼに、顔を寄せる様にジェスチャーし、声を潜め、
「恥ずかしいので内緒なのですが……わたくしの意中の方と言うのは……」
軍曹は興味なさげにティーポットのお湯を入れ直しつつ、耳には全神経を集中。
高鳴る鼓動。
(だ、誰なんだ……アノ人か……? いや、それともアノ人かぁ!?)
悶々と、様々な男の顔が脳裏を横切り、お茶を注ぐ事も忘れていると、マリアの艶やかな唇がゆっくりと開き、
「国民の皆様でございますわ!」
「そう言うのはイイからぁ!!」
軍曹、まんまと罠にはまり、食い気味で速攻ツッコミ。
「「「!?」」」
三人は予想以上の手応えに、ビックリ顔。
「あ……」
馬脚を露してしまった軍曹は、一瞬にして耳まで真っ赤に、
「しっ、しぃ、失礼しましたぁーーーーーー!」
ダイニングルームから飛び出して行き、
「ウフフフ。軍曹って、からかいがいあって本当に可愛いですわぁ~」
満足気なマリアはツヤツヤ顔。
「軍曹かわいそう……」
「だなぁ……」
ジゼとヤマトが冷ややかなジト目を向けると、
「さてぇ、ではわたくしは、ドライブにお出掛け致しますわ」
「もう行くの?」
「えぇ。ジゼは、ヤマトとデートでもなさったら?」
「でぇ、デートなんてする訳ないでしょ! や、ヤマトは家族で、単なる荷物持ちよ!」
「買い物は確定なんだなぁ……」
「なぁ~によぉ~。か弱い女子一人を買い物に行かせる気?」
((か弱い女子……))
町なかで、裸足で銃をぶっ放す姿を思い出し、苦笑いするヤマトとマリア。
ジゼがツンデレスキルを発動していた頃、集中治療室で書類に目を通す医師の下に、訪問者があった。
コンコンコンッ!
「どうぞ」
「すみません、先生。お忙しいところを」
扉を開け入って来たのは、マリアの下から逃げ去った軍曹であった。
「そろそろ来ると思っていたよ。しかし毎日同じ時間に、君もマメだねぇ」
「ハハハハ。朝昼晩と一日三回、もう日課みたいなモノですから」
「じゃあ、何かあったらいつも通り、連絡をくれるかい」
笑顔を残し部屋を出て行く医師に、軍曹は微笑み頷いた。
戸が閉まり、静かになった室内でマイクの前に座り、スイッチを入れる。
スピーカーから聞こえて来る、集中治療室内の機器の電子音と、人工呼吸器の作動音。
今日まで、いったい何度同じ事を繰り返して来た事か。
しかし今日の軍曹の心だけは、いつもと違っていた。
「おはよう「何でも屋」。外は良い天気だよ」
分厚いガラスの向こうに微笑みかけると、
「…………」
しばし黙して意を決し、
「いよいよだ。でも……目覚めたお前は、私を恨むんだろうな」
悲し気な微笑みを浮かべた。
扉に寄り掛かる、立ち去った筈の医師。
「すまない軍曹……」
苦悶の表情で呟くと、うつむいたまま集中治療室の前から立ち去った。
軍曹が答えを返す事のない「何でも屋」に、時折冗談を交えながら、起きた出来事を語って聞かせていた頃、町ではジゼが満面の笑みを浮かべ、服や小物を物色。前言通り荷物持ちと化したヤマトが、渋々後をついて歩く姿があった。
そして、そんな二人を物陰から見つめる人影が。
気持ちの良い陽射しの射しこむダイニングルームで、マリア達四人が食事を終えるのに合わせ、メイド達が入って来て一礼。
「食器をお下げ致します」
「ありがとう。料理長に「今日もおいしかったですわ」と、伝えていただけるかしら」
「かしこまりました」
メイド達は微笑みを浮かべて再び一礼、使用済み食器をワゴンにまとめ退室して行った。
白を基調としたアンティーク調の家具に囲まれたこのダイニングルームも、マリアが国民と汗を流し作った物であり、一見豪華に見える家具や壁も応接室同様、目を凝らせば素人が作った粗さが見て取れた。
マリアがテーブルの天板に残る、削り過ぎの痕に手を添え微笑んでいると、
「食後の……ハーブティーです……」
軍曹がティーカップを手元に、静かに置いた。
「この香り……今日はレモングラスですわねぇ。いつもありがとう」
爽やかな香りの湯気が立ち上るハーブティーを穏やかに見つめ、
「軍曹……」
「……はい」
「昨夜遅く、隊長が貴方を訪ねていらしたようだけど……」
「……特には……捜査状況の経過報告のような……」
「そう……」
一口飲むと、美味しそうに微笑んだ。
香りに魅かれ、興味津々見つめるジゼとヤマト。
「ジゼも飲んでみませんこと? 女性向きかもし知れませんが、ヤマトも」
二人が大きく頷くと、
「みな様、捜査もひと段落下した事ですし、今日はオフ日といたしましょう。わたくしも、個人的な用件がございますし」
「もしかしてデートォ!?」
ジゼが身を乗り出すと、
ガチャ!
軍曹が注ぐ手元を狂わせ、ハーブティーをこぼした。
「し、失礼しました……」
おしぼりで拭き取り、改めて注ぎ直す。
「なんですのジゼ、そのモノ言いは。わたくしにだって意中の方くらいおりますわよぉ」
ガチャチャ!
「し、失礼しましたぁ」
再び軍曹が手元を狂わせ、ハーブティーをこぼす。
おしぼりでテーブルを拭きつつ一呼吸してから、努めて平静に、
「そ、そうですよジゼさん! マリア程の器量良し、むしろ周りが放って置きませんよ!」
引きつる笑顔の軍曹が持つティーポットは、小刻みに揺れていた。
「ありがとう、軍曹」
素直に微笑むマリアの口元は、小悪魔的に小さくニヤリ。
ヤマトとジゼに、顔を寄せる様にジェスチャーし、声を潜め、
「恥ずかしいので内緒なのですが……わたくしの意中の方と言うのは……」
軍曹は興味なさげにティーポットのお湯を入れ直しつつ、耳には全神経を集中。
高鳴る鼓動。
(だ、誰なんだ……アノ人か……? いや、それともアノ人かぁ!?)
悶々と、様々な男の顔が脳裏を横切り、お茶を注ぐ事も忘れていると、マリアの艶やかな唇がゆっくりと開き、
「国民の皆様でございますわ!」
「そう言うのはイイからぁ!!」
軍曹、まんまと罠にはまり、食い気味で速攻ツッコミ。
「「「!?」」」
三人は予想以上の手応えに、ビックリ顔。
「あ……」
馬脚を露してしまった軍曹は、一瞬にして耳まで真っ赤に、
「しっ、しぃ、失礼しましたぁーーーーーー!」
ダイニングルームから飛び出して行き、
「ウフフフ。軍曹って、からかいがいあって本当に可愛いですわぁ~」
満足気なマリアはツヤツヤ顔。
「軍曹かわいそう……」
「だなぁ……」
ジゼとヤマトが冷ややかなジト目を向けると、
「さてぇ、ではわたくしは、ドライブにお出掛け致しますわ」
「もう行くの?」
「えぇ。ジゼは、ヤマトとデートでもなさったら?」
「でぇ、デートなんてする訳ないでしょ! や、ヤマトは家族で、単なる荷物持ちよ!」
「買い物は確定なんだなぁ……」
「なぁ~によぉ~。か弱い女子一人を買い物に行かせる気?」
((か弱い女子……))
町なかで、裸足で銃をぶっ放す姿を思い出し、苦笑いするヤマトとマリア。
ジゼがツンデレスキルを発動していた頃、集中治療室で書類に目を通す医師の下に、訪問者があった。
コンコンコンッ!
「どうぞ」
「すみません、先生。お忙しいところを」
扉を開け入って来たのは、マリアの下から逃げ去った軍曹であった。
「そろそろ来ると思っていたよ。しかし毎日同じ時間に、君もマメだねぇ」
「ハハハハ。朝昼晩と一日三回、もう日課みたいなモノですから」
「じゃあ、何かあったらいつも通り、連絡をくれるかい」
笑顔を残し部屋を出て行く医師に、軍曹は微笑み頷いた。
戸が閉まり、静かになった室内でマイクの前に座り、スイッチを入れる。
スピーカーから聞こえて来る、集中治療室内の機器の電子音と、人工呼吸器の作動音。
今日まで、いったい何度同じ事を繰り返して来た事か。
しかし今日の軍曹の心だけは、いつもと違っていた。
「おはよう「何でも屋」。外は良い天気だよ」
分厚いガラスの向こうに微笑みかけると、
「…………」
しばし黙して意を決し、
「いよいよだ。でも……目覚めたお前は、私を恨むんだろうな」
悲し気な微笑みを浮かべた。
扉に寄り掛かる、立ち去った筈の医師。
「すまない軍曹……」
苦悶の表情で呟くと、うつむいたまま集中治療室の前から立ち去った。
軍曹が答えを返す事のない「何でも屋」に、時折冗談を交えながら、起きた出来事を語って聞かせていた頃、町ではジゼが満面の笑みを浮かべ、服や小物を物色。前言通り荷物持ちと化したヤマトが、渋々後をついて歩く姿があった。
そして、そんな二人を物陰から見つめる人影が。
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