CLOUD(クラウド)

青木 森

文字の大きさ
上 下
91 / 535

4.偽りの新天地の章-15

しおりを挟む
 次の日の朝。
 気持ちの良い陽射しの射しこむダイニングルームで、マリア達四人が食事を終えるのに合わせ、メイド達が入って来て一礼。
「食器をお下げ致します」
「ありがとう。料理長に「今日もおいしかったですわ」と、伝えていただけるかしら」
「かしこまりました」
 メイド達は微笑みを浮かべて再び一礼、使用済み食器をワゴンにまとめ退室して行った。
 白を基調としたアンティーク調の家具に囲まれたこのダイニングルームも、マリアが国民と汗を流し作った物であり、一見豪華に見える家具や壁も応接室同様、目を凝らせば素人が作った粗さが見て取れた。
 マリアがテーブルの天板に残る、削り過ぎの痕に手を添え微笑んでいると、
「食後の……ハーブティーです……」
 軍曹がティーカップを手元に、静かに置いた。
「この香り……今日はレモングラスですわねぇ。いつもありがとう」
 爽やかな香りの湯気が立ち上るハーブティーを穏やかに見つめ、
「軍曹……」
「……はい」
「昨夜遅く、隊長が貴方を訪ねていらしたようだけど……」
「……特には……捜査状況の経過報告のような……」
「そう……」
 一口飲むと、美味しそうに微笑んだ。
 香りに魅かれ、興味津々見つめるジゼとヤマト。
「ジゼも飲んでみませんこと? 女性向きかもし知れませんが、ヤマトも」
 二人が大きく頷くと、
「みな様、捜査もひと段落下した事ですし、今日はオフ日といたしましょう。わたくしも、個人的な用件がございますし」
「もしかしてデートォ!?」
 ジゼが身を乗り出すと、
 ガチャ!
 軍曹が注ぐ手元を狂わせ、ハーブティーをこぼした。
「し、失礼しました……」
 おしぼりで拭き取り、改めて注ぎ直す。
「なんですのジゼ、そのモノ言いは。わたくしにだって意中の方くらいおりますわよぉ」
 ガチャチャ!
「し、失礼しましたぁ」
 再び軍曹が手元を狂わせ、ハーブティーをこぼす。
 おしぼりでテーブルを拭きつつ一呼吸してから、努めて平静に、
「そ、そうですよジゼさん! マリア程の器量良し、むしろ周りが放って置きませんよ!」
 引きつる笑顔の軍曹が持つティーポットは、小刻みに揺れていた。
「ありがとう、軍曹」
 素直に微笑むマリアの口元は、小悪魔的に小さくニヤリ。
 ヤマトとジゼに、顔を寄せる様にジェスチャーし、声を潜め、
「恥ずかしいので内緒なのですが……わたくしの意中の方と言うのは……」
 軍曹は興味なさげにティーポットのお湯を入れ直しつつ、耳には全神経を集中。
 高鳴る鼓動。
(だ、誰なんだ……アノ人か……? いや、それともアノ人かぁ!?)
 悶々と、様々な男の顔が脳裏を横切り、お茶を注ぐ事も忘れていると、マリアの艶やかな唇がゆっくりと開き、
「国民の皆様でございますわ!」
「そう言うのはイイからぁ!!」
 軍曹、まんまと罠にはまり、食い気味で速攻ツッコミ。
「「「!?」」」
 三人は予想以上の手応えに、ビックリ顔。
「あ……」
 馬脚を露してしまった軍曹は、一瞬にして耳まで真っ赤に、
「しっ、しぃ、失礼しましたぁーーーーーー!」
 ダイニングルームから飛び出して行き、
「ウフフフ。軍曹って、からかいがいあって本当に可愛いですわぁ~」
 満足気なマリアはツヤツヤ顔。
「軍曹かわいそう……」
「だなぁ……」
 ジゼとヤマトが冷ややかなジト目を向けると、
「さてぇ、ではわたくしは、ドライブにお出掛け致しますわ」
「もう行くの?」
「えぇ。ジゼは、ヤマトとデートでもなさったら?」
「でぇ、デートなんてする訳ないでしょ! や、ヤマトは家族で、単なる荷物持ちよ!」
「買い物は確定なんだなぁ……」
「なぁ~によぉ~。か弱い女子一人を買い物に行かせる気?」
((か弱い女子……))
 町なかで、裸足で銃をぶっ放す姿を思い出し、苦笑いするヤマトとマリア。

 ジゼがツンデレスキルを発動していた頃、集中治療室で書類に目を通す医師の下に、訪問者があった。
 コンコンコンッ!
「どうぞ」
「すみません、先生。お忙しいところを」
 扉を開け入って来たのは、マリアの下から逃げ去った軍曹であった。
「そろそろ来ると思っていたよ。しかし毎日同じ時間に、君もマメだねぇ」
「ハハハハ。朝昼晩と一日三回、もう日課みたいなモノですから」
「じゃあ、何かあったらいつも通り、連絡をくれるかい」
 笑顔を残し部屋を出て行く医師に、軍曹は微笑み頷いた。
 戸が閉まり、静かになった室内でマイクの前に座り、スイッチを入れる。
 スピーカーから聞こえて来る、集中治療室内の機器の電子音と、人工呼吸器の作動音。
 今日まで、いったい何度同じ事を繰り返して来た事か。
 しかし今日の軍曹の心だけは、いつもと違っていた。
「おはよう「何でも屋」。外は良い天気だよ」
 分厚いガラスの向こうに微笑みかけると、
「…………」
 しばし黙して意を決し、
「いよいよだ。でも……目覚めたお前は、私を恨むんだろうな」
 悲し気な微笑みを浮かべた。
 扉に寄り掛かる、立ち去った筈の医師。
「すまない軍曹……」
 苦悶の表情で呟くと、うつむいたまま集中治療室の前から立ち去った。

 軍曹が答えを返す事のない「何でも屋」に、時折冗談を交えながら、起きた出来事を語って聞かせていた頃、町ではジゼが満面の笑みを浮かべ、服や小物を物色。前言通り荷物持ちと化したヤマトが、渋々後をついて歩く姿があった。
 そして、そんな二人を物陰から見つめる人影が。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

アンドロイドちゃんねる

kurobusi
SF
 文明が滅ぶよりはるか前。  ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。  アンドロイドさんの使命はただ一つ。  【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】  そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり  未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり  機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です  

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~3巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  第四巻は11月18日に発送。店頭には2~3日後くらいには並ぶと思われます。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ
SF
 人工知能を搭載した量子コンピュータセフィロトが自身の電子ネットワークと、その中にあるすべてのデータを物質化して創りだした電子による世界。通称、エデン。2075年の現在この場所はある事件をきっかけに、企業や国が管理されているデータを奪い合う戦場に成り果てていた。  そんな中かつて狩猟兵団に属していた十六歳の少年久遠レイジは、エデンの治安維持を任されている組織エデン協会アイギスで、パートナーと共に仕事に明け暮れる日々を過ごしていた。しかし新しく加入してきた少女をきっかけに、世界の命運を決める戦いへと巻き込まれていく。  かつての仲間たちの襲来、世界の裏側で暗躍する様々な組織の思惑、エデンの神になれるという鍵の存在。そして世界はレイジにある選択をせまる。彼が選ぶ答えは秩序か混沌か、それとも……。これは女神に愛された少年の物語。 <注意>①この物語は学園モノですが、実際に学園に通う学園編は中盤からになります。②世界観を強化するため、設定や世界観説明に少し修正が入る場合があります。  小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

SEVEN TRIGGER

匿名BB
SF
20xx年、科学のほかに魔術も発展した現代世界、伝説の特殊部隊「SEVEN TRIGGER」通称「S.T」は、かつて何度も世界を救ったとされる世界最強の特殊部隊だ。 隊員はそれぞれ1つの銃器「ハンドガン」「マシンガン」「ショットガン」「アサルトライフル」「スナイパーライフル」「ランチャー」「リボルバー」を極めたスペシャリストによって構成された部隊である。 その中で「ハンドガン」を極め、この部隊の隊長を務めていた「フォルテ・S・エルフィー」は、ある事件をきっかけに日本のとある港町に住んでいた。 長年の戦場での生活から離れ、珈琲カフェを営みながら静かに暮らしていたフォルテだったが、「セイナ・A・アシュライズ」との出会いをきっかけに、再び戦いの世界に身を投じていくことになる。 マイペースなフォルテ、生真面目すぎるセイナ、性格の合わない2人はケンカしながらも、互いに背中を預けて悪に立ち向かう。現代SFアクション&ラブコメディー

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

処理中です...