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青木 森

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4.偽りの新天地の章-12

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 しかし軍曹の不安を余所に、夕刻を迎えた屋敷内は明るい笑い声に包まれていた。
「「「「「「「「「「アハハハハハハハハ!」」」」」」」」」」
 両頬をパンパンに腫らせたヤマトの姿に、マリアや使用人達から爆笑が起こっていたのである。
「あ、あなたに、そんな笑いのセンスがあるとは存じませんでしたわ! お、お願い、コッチを見ないでぇ! アハハハハ、お、お、お腹が痛いですわぁ!」
 恨めしそうな目をしてジゼを見るヤマトに、
「じっ、自業自得でしょ!」
 プイッと横を向くジゼ。
 未だご機嫌斜めな様である。
 するとヤマトが無言で歩み寄り、
「な、何よぉ」
 ジゼが仏頂面を上げると、目の前に、可愛らしロゴが入った、白く小さな手提げ袋を差し出した。
「?」
 戸惑いつつも受け取るジゼ。
「!」
 中を見るなり、一気に表情が和らいだ。
「軍曹に買ってもらったその服に、似合うかと思ってさ……」
 入っていたのはワンピースと同じ色の、二つのシュシュであった。
「あ、ありがとう……」
 シュシュを見つめ、久々の笑顔を見せるジゼであったが、ヤマトの視線に気付くと、
「こっ、これ位じゃ許さないんだから!」
 照れを誤魔化す様に、再びプイッと横を向いた。
 先程とは違うニュアンスの反応に、ヤマトは多分、喜んだ。
 腫れた顔のせいで表情が読めず、感情が今一つ分からないのである。
 二人を微笑ましく見つめる軍曹であったが、思い出した様に表情を曇らせ、
「……しかし気になります」
「ひったくり男さんの言っていた事?」
 見上げるマリアに、静かに頷くと、
「そうですわねぇ、軍曹がそこまで気になるのでしたら……少々調べてみましょうか?」
 微笑むと、機嫌が上向き、ヤマトと他愛ない会話を交わし笑顔を見せるジゼに、
「ジゼ、お願いがありますわ」
「どうしたの?」
「調べていただきたい事がございますの」
 レトロ感漂う黒縁眼鏡を手渡した。
「「?」」
 不思議そうな顔を見合わせるジゼとヤマト。
「かけてみて下さいですわ」
 促され、ジゼは意味も分からず眼鏡をかけてみた。
 すると突然眼鏡から、
「初めましてジゼ様、どういった御用でしょうか?」
 若干機械的な女性の声がした。
「その眼鏡は支援型AI端末ですの。それを使って、汚職話の信憑性が高い議員の情報を収集していただきたいんですわ。ただし、気付かれないようにねぇ♪」
 依頼の内容とそぐわぬ笑みを浮かべるマリアに、
「分かったわ」
「ジゼ様、音声認識を使用しますか? サブオペレートをいたしますか?」
「繊細な操作が必要になりそうだから、全部私がやるわ」
「かしこまりました」
 機械的な返事が返ると、ジゼの手元に半透明のキーボードが浮かび上がって見え始めた。
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