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4.偽りの新天地の章-3
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マリアは自身が座るソファーの肘掛けにある削りそこないを、愛おしむかの様に撫で、
「この国には核戦争の直接被害こそありませんでしたが、影響は少なからずありましたの。人々は目に見えぬ不安から疑心暗鬼に囚われ、道徳が崩壊」
「「…………」」
「理性を失った人々は欲という業に駆られて国内の治安は乱れ、政治は汚職にまみれ、経済、産業ともにボロボロ。ひどい有様でしたわ……」
当時の苦悩を思い出してか、悲し気な遠い目をしたが、パッと希望に満ちた明るい表情になり、
「ですがそれ以上に、平和を求める人々も沢山おりましたのぉ!」
興奮気味に身を乗り出し、
「わたくしはそんな方々と共に駆け足で国の立て直しを図りましわ! この建物は迎賓館と、わたくしの住居を兼ね、そんな皆さんと作り上げた想いの象徴ですの! ですが……」
次第に、尻つぼみに意気消沈。置いたティーカップに視線を落とし、察したヤマトが、
「全力で走れば走るほど、ついて来れない人も当然出て来る……」
マリアは悲し気に頷き、
「国の形がある程度出来て、やっとこれから「置き去りにしてしまった方々へ手を差し伸べられる」と思っていた矢先、戦後のパワーバランスが決まり始めた諸外国が、脅迫まがいの開国を迫り始めましたの。本当の国造りは、これからと言う大事な時に……」
悔しさを滲ませるマリアに、ジゼは未だ根に持っているのか妙に突っかかった物言いで、
「あなたの苦悩は、よぉ~く分かったわぁ。でもそれと私達に何の関係があるのよぉ!」
するとマリアは「ウフフ」と笑い、
「あなた方には、わたくしの警護をお願いしたいんですの。ウィリアム隊長には国防に専念していただく為に」
「「警護?」」
「警護と言うより……そう、「お話相手」ですわねぇ」
微笑むマリアに、腹の虫の治まらないジゼは皮肉交じり、
「学校でも、町でも、議会でも、どこへ行っても人気者で、話し相手になんて事欠かないでしょ。なんで私達なの!」
露骨な反発姿勢に、ヤマトが困惑気味に苦笑い。
「確かに……仲良くさせていただいております方は、幸せな事に、沢山おりますわぁ」
「なぁに? 自慢話ぃ?」
「こら、ジゼぇ」
「ふん!」
「……ご学友だった皆様は、すでに家庭を持っている方や、仕事で重要なポストにいる方もいらっしゃいますから……」
「「!」」
笑みの中に、陰りを感じさせるマリアにハッとするヤマトとジゼ。
時間に取り残された彼女は、どれだけ仲の良い友達がいても、どれだけ相手を大切に想っていても、共に年齢と言う時間を重ねる事は出来ないのである。
まして彼女は、この国の女王。
相手に余分な気遣いをさせてしまう事は必至であり、マリアが見せた陰りは、彼女がいかに周囲の人々を大切に想っているかの裏返しでもあり、その事を想うと、ヤマトとジゼは自分達のこれからの姿とを重ね合わせ、何も言えなくなった。
「ウフフッ。お二人とも、お優しいのですねぇ」
「「…………」」
マリアは改めて紅茶をひと啜り。
「わたくしの正体にも……薄々気付いているのではなくて?」
「……サイボーグ……」
呟くヤマトに、
「はい」
可愛らしく頷いて見せると、再びティーカップをテーブルに置き、
「わたくしは、かつてあなた方と同じ時間(時代)を生きた者でございますの……」
おもむろに立ち上がると、凛とした表情に変わり、
「アクセス! リストォ!」
ジャックがしたのと同じ動きを見せ、
「ロードォ!」
叫ぶと同時に両手にレイピアを出現、振りかざしてクルリと一回転立ち回り、構えてニコリと微笑んだ。
「この国には核戦争の直接被害こそありませんでしたが、影響は少なからずありましたの。人々は目に見えぬ不安から疑心暗鬼に囚われ、道徳が崩壊」
「「…………」」
「理性を失った人々は欲という業に駆られて国内の治安は乱れ、政治は汚職にまみれ、経済、産業ともにボロボロ。ひどい有様でしたわ……」
当時の苦悩を思い出してか、悲し気な遠い目をしたが、パッと希望に満ちた明るい表情になり、
「ですがそれ以上に、平和を求める人々も沢山おりましたのぉ!」
興奮気味に身を乗り出し、
「わたくしはそんな方々と共に駆け足で国の立て直しを図りましわ! この建物は迎賓館と、わたくしの住居を兼ね、そんな皆さんと作り上げた想いの象徴ですの! ですが……」
次第に、尻つぼみに意気消沈。置いたティーカップに視線を落とし、察したヤマトが、
「全力で走れば走るほど、ついて来れない人も当然出て来る……」
マリアは悲し気に頷き、
「国の形がある程度出来て、やっとこれから「置き去りにしてしまった方々へ手を差し伸べられる」と思っていた矢先、戦後のパワーバランスが決まり始めた諸外国が、脅迫まがいの開国を迫り始めましたの。本当の国造りは、これからと言う大事な時に……」
悔しさを滲ませるマリアに、ジゼは未だ根に持っているのか妙に突っかかった物言いで、
「あなたの苦悩は、よぉ~く分かったわぁ。でもそれと私達に何の関係があるのよぉ!」
するとマリアは「ウフフ」と笑い、
「あなた方には、わたくしの警護をお願いしたいんですの。ウィリアム隊長には国防に専念していただく為に」
「「警護?」」
「警護と言うより……そう、「お話相手」ですわねぇ」
微笑むマリアに、腹の虫の治まらないジゼは皮肉交じり、
「学校でも、町でも、議会でも、どこへ行っても人気者で、話し相手になんて事欠かないでしょ。なんで私達なの!」
露骨な反発姿勢に、ヤマトが困惑気味に苦笑い。
「確かに……仲良くさせていただいております方は、幸せな事に、沢山おりますわぁ」
「なぁに? 自慢話ぃ?」
「こら、ジゼぇ」
「ふん!」
「……ご学友だった皆様は、すでに家庭を持っている方や、仕事で重要なポストにいる方もいらっしゃいますから……」
「「!」」
笑みの中に、陰りを感じさせるマリアにハッとするヤマトとジゼ。
時間に取り残された彼女は、どれだけ仲の良い友達がいても、どれだけ相手を大切に想っていても、共に年齢と言う時間を重ねる事は出来ないのである。
まして彼女は、この国の女王。
相手に余分な気遣いをさせてしまう事は必至であり、マリアが見せた陰りは、彼女がいかに周囲の人々を大切に想っているかの裏返しでもあり、その事を想うと、ヤマトとジゼは自分達のこれからの姿とを重ね合わせ、何も言えなくなった。
「ウフフッ。お二人とも、お優しいのですねぇ」
「「…………」」
マリアは改めて紅茶をひと啜り。
「わたくしの正体にも……薄々気付いているのではなくて?」
「……サイボーグ……」
呟くヤマトに、
「はい」
可愛らしく頷いて見せると、再びティーカップをテーブルに置き、
「わたくしは、かつてあなた方と同じ時間(時代)を生きた者でございますの……」
おもむろに立ち上がると、凛とした表情に変わり、
「アクセス! リストォ!」
ジャックがしたのと同じ動きを見せ、
「ロードォ!」
叫ぶと同時に両手にレイピアを出現、振りかざしてクルリと一回転立ち回り、構えてニコリと微笑んだ。
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