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青木 森

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4.偽りの新天地の章-2

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 足元の赤絨毯はフカフカで足音もせず、廊下の壁には中世の物と思われる絵画が何枚もかけられ、回廊に囲まれた明るい中庭の真ん中には、キラキラと輝く水を湛える噴水までも見えた。
 しばし歩くと、少女は白地に金の装飾が施された、ひと際煌びやかな扉の前に立ち、
「こちらへどうぞ」
 微笑みと共に扉を開けた。
 柔らかい陽射しの入る四十畳ほどの室内は白を基調とし、見上げるほど高い天井には荘厳なフレスコ画。
 室内に置かれた家具も、白いフレームに金糸で赤地の布を張った二人掛けソファー等々、どこを見ても絢爛豪華の一言に尽き、眩しいくらいであった。
 今まで暮して来た世界とのあまりの違いに、二人は警戒する事も忘れ、呆然と立ち尽くしていると少女がクスリ。
「お座りになって。紅茶でよろしくて?」
 ティーポットを手に、二人掛けソファーへと促した。
 ハッと我に返り、緊張した面持ちで、並んでソファーに腰掛けるヤマトとジゼ。
 しかし経験した事の無い沈み込みを見せるソファーに、二人は座りながらよろけてしまい、恥ずかしさから赤面しながら座り直した。
 少女は可笑しそうにクスクス笑うと、たおやかな笑みを浮かべつつ紅茶を注ぎ、
「そんなに緊張なさらないでぇ。今スグ貴方達をどうこうするつもりはございませんわぁ」
「「今スグ」……ですか……」
 言葉尻、敏感に反応するヤマトであったが、少女は変わらぬ笑みを浮かべたまま、
「ウフフフッ。言葉のあや……警戒させてしまったのなら謝罪いたしますわぁ。でもそうですわねぇ……色々な意味で「アナタ方次第」と言う点では変わりませんかしら?」
 微笑む少女は、ほんの一瞬だけ青い瞳の奥に、抗えない程の絶対的チカラを垣間見せた。
 思わず固唾を飲む二人。
「アラ? わたくしとした事が、ついイタズラ心を出して……悪い癖ですわぁ。遥か時を経た旧友との再会に、少々舞い上がっている様ですわぁ」
 たおやかに微笑むと、ティーポットをテーブルにそっと置き、
「ほら、こんなに」
 突如ヤマトの手を握り、自身の豊かな胸へと押し当てた。
「「!」」
 一瞬にして石化するヤマトと、
「ちょ、ちょっと何やってるのよォーーーッ!」
 激高して立ち上がるジゼ。
 少女はクスリと笑いヤマトの手を離し、
「少しは緊張がほぐれまして?」
「「え?」」
「ウフフフッ。そんなに警戒されては世間話も出来ませんですわ」
「まさかあなた……その為に?」
 恥じらいを捨ててまで気遣う少女に、ジゼが称嘆の声を漏らし静かに座ると、
「趣味ですわぁ」
「ちょっとォ!」
「だぁってぇ~、可愛らしい殿方の困る顔って、何度見ても堪りませんですものぉ~~~」
「うわぁ……ヘンタイだわぁ……」
 引き気味ジゼに、ティーカップを手にする少女は、たおやかに微笑み、
「お褒めの言葉として、受け取っておきますわぁ。それにしても、お二人とも……」
 二人を比べる様に見つめ、
「本当に記憶が無いようですわね」
「「?」」
 二人は顔を見合わせ、
「俺達と、本当に知り合い……だったんですか? その……女王陛下……」
「マリアでよろしくてよぉ。敬語もいりませんわぁ」
 少女は微笑むと、
「わたくしの名はマリア・ウィルソン、この国の女王をさせていただいていますわ。そしてこの国は、」
「オーストラリアでしょ」
 不機嫌に、話しを遮るジゼ。
 ヤマトにちょっかい出された事を、根に持っているのである。
 苦笑いのヤマトは、
「この時代にアレだけ発展していて、国民が笑顔を見せる国なんて他にないだろうしな」
「ウフフッ。お二人の目にそう映っていたのでしたら、嬉しい限りですわぁ」
 屈託ない笑顔を見せるマリアは、心から喜んでいる様であったが、
「ただ……」
 言葉を濁すヤマトに、ジゼも頷き、
「幸せそうな人達の奥に、厳しい暮しを強いられている人達の姿が、何人も見えたわ」
 責める様な眼差しに、マリアはうつむきカップの中の水面を見つめ、
「お二人共……この建物と家具、調度品を見て、どう思いまして?」
 するとジゼが先程の仕返しも含めてなのか容赦なく、
「日々の暮らしもままならない人達がいるって言うのに贅沢! これじゃ成金じゃない!」
「ジゼ、言い過ぎだぞ」
「だってぇ!」
「ジゼ!」
 強く自制を促されると不承不承黙り、プイッと横を向いた。
「贅沢に見えますか……」
 マリアはカップをゆっくりテーブルに置き、
「だとしたら光栄ですし、わたくしの誇りですわぁ」
「!」
 微笑むマリアにジゼは皮肉られたと思い、キツク睨む様に振り返ると、
「ウフフッ。このお屋敷にある物全て、わたくしが国民の皆様と作った、お手製ですもの」
「「えぇ!?」」
 改めて室内を見回すヤマトとジゼ。
 何度見回しても、どこを見ても、素人集団が作ったとは思えないレベルの品々。
 しかし座っているソファーの肘掛けや、目の前のテーブルの端々をよくよく見ると、確かに若干の粗さが。
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