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青木 森

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3.旅立ちの章-53

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 やがて左舷側のオーストラリア艦艇からガルシア後部上甲板にタラップが渡され、ヤマトとジゼの身柄を引き取りに、ウィリアムとその部下二名が乗艦して来た。
 後部上甲板、マシュー達とプライドをかけた試合をし、悩みがあると佇んだ場所。
 懐かしさに、目を細めるヤマトとジゼ。
 艦長を先頭にヤマトとジゼ、数メートル離れて対峙するウィリアムと部下達。
 その光景を、複雑な表情で遠巻きに見守るだけのガルシアクルー達。
 するとウィリアムの部下の一人、茶髪をした新兵にも見える若者が不快感を露わ、
「仲間が連れ去られるってのに全員傍観! 噂の船も、所詮は寄せ集め! やはり、ただのダイバーズなんですかねぇ、隊長」
 わざと全員に聞こえる様に話し、それでも無反応なクルー達に苛立ちを募らせると、
「そう言うな、ルーカス。彼等も、今の時代を生きるのに必死なのさぁ。我等が祖国とて、女王陛下の加護が無ければ今頃どうなっていた事かぁ」
 笑って見せた。
 ヤマトとジゼは、集まったクルー達に、
「「お世話になりました」」
 深々頭を下げ、ウィリアム達の方へ向かおうとし、
「お前ら……」
「どうして……」
 足を止めた。
 マシューとルーク、そしてイサミ、トシゾウ、ソウシが群衆から飛び出し、通せん坊でもする様に、ドカリと胡坐をかいて座ったのである。
 鬼の様な形相でマシュー達を見下ろす、ウィリアム。
「何のつもりだ……小僧ども」
 眼光だけで押し潰されそうなプレッシャーの中、マシュー達はひるまず睨み上げ、
「軍人としての名を懸けて、二人の命を約束しろォ!」
 部下の二人が剣の柄に手を掛け、
「ガキ共がァ!」
「調子に乗るなッ!」
 いきり立つと、ウィリアムが二人の剣を押さえるに様に制し、
「「隊長?」」
 不思議そうな顔をすると、突如大笑い。
 二人の背中を何度も叩き、
「ワァハハハハ! 良かったじゃねぇ~かぁ、ルーカス! ご希望通りの馬鹿が、こんなに居たじゃねぇ~か!」
「「「「「馬鹿じゃねぇ(もん)!」」」」」
「ワァハハハハ。分かった分かった、悪かったよぉ。しっかしぃ~オマエ等五人も連れて帰りてぇ~なぁ~」
 憤慨する五人を品定めでもするかの様に、まじまじ見つめるウィリアムに、
「「隊長ぉ~」」
 困惑顔の部下二人と、一戦覚悟ですかさず立ちはだかるヤマトとジゼ。
「冗談だよ冗談。んな事したら陛下にドヤされちまうからな。じゃ、お二人さん行こうかね」
 するとジゼは、ルーカスの目の前で「形見の銃」から弾丸を抜き取り、弾だけ渡し、
「お母さんの形見なの」
 しかし聞く耳持たず銃に手を伸ばそうとすると、ウィリアムがニヤリ。
「母親の形見がマグナム(銃)とは、中々親近感が持てるじゃねぇ~かぁ」
「隊長?」
「鈍いねぇ~。そんくらい「イイじゃねぇか」と言ってんだよ」
「イヤ、しかし万が一が!」
「俺が「良い」と言ってんだ」
「!」
 穏やかな口調とは裏腹、ウィリアムが場の空気を一瞬にして凍てつかせ、かいくぐって来た修羅場の数と、戦闘力の高さを匂わせ、
「し、失礼しました、隊長ぅ!」
 部下達は弾かれる様に背筋を伸ばして直立不動。
 その姿に、ウィリアムは急に緩んだ表情に戻り、
「ワァハハハハ、そうビビんなってぇ。銃持って暴れりゃ、この船(ガルシア)がどうなるか、理解出来ねぇガキ共じゃねぇ~よと、言ってんのさ」
 笑って見せながらも、それは暗にヤマトとジゼに対する「だから大人しくしろ」との、遠回しの脅迫でもある事は明白であり、
(このオッサン、強いだけじゃない……)
 したたかさも兼ね備えた中年男に、ヤマトは警戒感を新たにした。
「んじゃ改めてぇお二人さん、行こうかねぇ」
 ヤマトとジゼが硬い表情で頷くと、マシューがガッと立ち上がり、
「待てぇ、オッサン! 返事はァ!?」
 先にヤマトとジゼにタラップを渡らせ、部下達と続くウィリアムは後ろ手に手を振り、
「わぁ~たよ、約束しといてやるよぉ!」
 渡り終えると振り返り、
「それからオマエ等ぁ! もし気が向いたら俺んとこに来な! ガーディアンのウィリアムの紹介と言やぁ~スグに通してくれる! じゃあなガキ共ォ!」
 少年の様にニカッと歯を見せ笑うと、ガルシアに掛けられたタラップが格納され、二人を乗せたオーストラリア艦がゆっくり離艦。
 悔し気なマシューとルーク、イサミ達は泣きながら甲板の柵に駆け寄った。
「ヤマトォーッ! ジゼェーッ! 死んで勝ち逃げなんて許さねぇからなァーーーッ!」
「絶てぇ死ぬんじゃねぇぞォーーー!」
「「「ヤマトぉ~~~! ジゼぇ~~~!」」」
 一隻分幅ほど離れると、各艦六機のドローンが四方を囲みステルス迷彩を発動、オーストラリア艦四隻は手品の様に、一瞬にして姿を消した。
 ドローンで領域ごと偽装しているのか、船が海面に描く航跡すら消えた様に見え、現行、オーストラリア艦を発見するには、音波の水平発射以外不可能である事実を突き付け、改めて間近で見た迷彩兵装は驚異の一言につきた。
 身柄を拘束され、仄暗い船底の、営倉の様な部屋に監禁されるヤマトとジゼ。
 最悪のタイミングでガルシアを降りる羽目になった二人は、一様に無言であった。

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