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3.旅立ちの章-52
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事態の呑み込めない三人が硬い面持ちでブリッジに入ると、正面上部の大型モニタに四十代後半と思える、深緑地に黄色のラインが入った軍服の様な制服を纏った、目つきの鋭い男性が映っていた。
「貴君が艦長かね?」
スピーカーを通してでも良く通る、低く、威厳に満ちた男の声。
「貴方は?」
「これは失礼、私はオーストラリア女王直轄特殊部隊所属、ウィリアム・ジョーンズと申します」
「まさか! ガーディアン……」
驚きのあまり思わず声がこぼれる艦長と、「ガーディアン」の名にザワつくクルー達。
ダイバーズの間で噂に上る事はあっても、その存在を見た者はおらず、鎖国し、外界との接触を絶っているオーストラリア軍への脅威から生まれた「ゴースト」ではないかとまで言われていた、頭に『超』が付く程の精鋭特殊部隊である。
艦長帽のツバで顔を隠しつつ、アイザックにガーディアン艦の位置を確認する様にアイコンタクト。
しかしアイザックは即座に小さく首を横に振り返す。
世界トップクラスの監視能力を持つガルシアを以てしても、周辺海域を映すレーダーに艦影は一切無く、海中のソナーにも潜水艦らしき艦影は確認出来なかったのである。
艦長は平静を装い、再び顔を上げ、
「私はロジャー・イノウエ。女王貴下の貴殿が、軍属でもない、いちダイバーズにすぎない我々に、どういったご用向きですかな?」
するとウィリアムは小さく笑い、
「ご謙遜を。貴艦の活躍ぶり、ダイバーズとは無縁の我が国内でも有名な話。今の時代、なまじその辺の軍隊と一戦交えるより、よほど手ごわい相手と認識して、」
艦長は褒め殺しをジェスチャーで制し、
「ご用件を伺いたい」
「……では単刀直入に。「ヤマト」と「ジゼ」両名を、こちらへ引き渡していただきたい」
どよめくブリッジクルー達。
ウィリアムは余談許さぬ空気を纏いつつ、話を続け、
「交換条件等はない。ただ貴艦のこれまでの経歴に敬意を表し、力による制圧を試みていない事は、お知り置きいただきたい」
淡々と語る彼の話を要約すれば「無条件でヤマトとジゼを渡せ。さもなくば沈めるぞ」と言う、いわゆる遠回しの脅迫である。
カメラの死角位置に座る操舵長ジョシュアが「戦いましょう!」とジェスチャーを見せるも、姿なき相手に戦う術などなく、艦長が微かに首を横に振ると、微妙な変化を察したウィリアムが不適にニヤリと笑い、
「賢明ですな、イノウエ艦長。我々はスグそばに居ります」
「まさかッ!?」
アイザックはソナーを下ではなく、全方位に「水平発射」。
間を置かずに返る、ビーコンの音。
信じ難い話ではあるが、ガルシアのセンサーは、敵艦が目の前の「空と海しかない空間」に居る事を示したのである。
(もしや!)
艦長帽の陰で、驚愕の表情見せる艦長。
「ワァハハハハ! 流石はイノウエ艦長ォ! 良いクルーをお持ちだァ!」
ウィリアムの大笑いと共に、ガルシアの船首数十メートル先、謎の戦艦が一瞬にして姿を現した。
しかも同型艦がガルシアを囲む様に、左右と後方にまで。
更に驚く事に、四方を囲む四隻は航行を続けるガルシアに速度を合わせ、今にも接触しそうな距離を、砲門を向けつつ並走していたのである。
「な、なんてこったぁ……」
アイザックは驚愕の表情でブリッジの窓に貼り付き、ドローン六機に直掩させつつ並走する敵艦を見つめ、
「こんなの電波を反射しにくいステルス艦なんてレベルじゃない……むしろ電波を吸収しているとしか思えない……」
操舵長ジョシュアも焦りの色を隠せず、
「あぁ……それに光学式なんだろうが、こんなデカイ規模の偽装迷彩なんて、見た事も、聞いた事もない……」
「しかもセンサーで、推進音、機関音、何の異常もキャッチ出来なかったんですよ……あり得ない……」
アイザックが改めて語らずも、敵艦が桁外れのスペックを有している事はブリッジクルーの誰もが感じた事であり、もはや一人として楽観を口にする者はいなかった。
「さてイノウエ艦長、どちらを選ぶか決まりましたかな?」
(私に、「二人の命」と「クルー全員の命」を秤に掛けろ言うのかぁ!)
不敵に微笑むウィリアムに、悔しくも返す言葉が見つからずにいると、
「「艦長、副長、皆さん、お世話になりました」」
ヤマトとジゼが、穏やかな笑みを浮かべ頭を下げた。
「決まりのようですな、イノウエ艦長。では後ほど」
勝ちを匂わし通信を切るウィリアム。
艦長は帽子のツバで顔を隠し、奥歯をグッと噛み締め、
「す、すまない……」
言葉少なに呟き、ブリッジクルー達が神妙な面持ちでうつむくと、
「厄介払いが出来て、皆さん、さぞ御満足でしょうね?」
シセの呆れ声にギクリ。
心の片隅に隠した弱さをえぐり出され、絶句し、青ざめた。
「いつの時代も人と言うモノは、」
「良いのシセ」
ジゼは憂いを感じさせない笑みを浮かべ、
「私達の代わりに、ガルシアのみんなを守ってね」
「……それがジゼ姉様の望みなら」
ジゼは安堵した様に頷き、ヤマトと共にブリッジを出ようとすると、
「シセは、今のアナタの方が大好きです。かつてのアナタより、ずっと……」
「え?」
驚き振り返るも、シセは静かに、
「独り言です、ジゼ姉様。良きご武運を……」
「貴君が艦長かね?」
スピーカーを通してでも良く通る、低く、威厳に満ちた男の声。
「貴方は?」
「これは失礼、私はオーストラリア女王直轄特殊部隊所属、ウィリアム・ジョーンズと申します」
「まさか! ガーディアン……」
驚きのあまり思わず声がこぼれる艦長と、「ガーディアン」の名にザワつくクルー達。
ダイバーズの間で噂に上る事はあっても、その存在を見た者はおらず、鎖国し、外界との接触を絶っているオーストラリア軍への脅威から生まれた「ゴースト」ではないかとまで言われていた、頭に『超』が付く程の精鋭特殊部隊である。
艦長帽のツバで顔を隠しつつ、アイザックにガーディアン艦の位置を確認する様にアイコンタクト。
しかしアイザックは即座に小さく首を横に振り返す。
世界トップクラスの監視能力を持つガルシアを以てしても、周辺海域を映すレーダーに艦影は一切無く、海中のソナーにも潜水艦らしき艦影は確認出来なかったのである。
艦長は平静を装い、再び顔を上げ、
「私はロジャー・イノウエ。女王貴下の貴殿が、軍属でもない、いちダイバーズにすぎない我々に、どういったご用向きですかな?」
するとウィリアムは小さく笑い、
「ご謙遜を。貴艦の活躍ぶり、ダイバーズとは無縁の我が国内でも有名な話。今の時代、なまじその辺の軍隊と一戦交えるより、よほど手ごわい相手と認識して、」
艦長は褒め殺しをジェスチャーで制し、
「ご用件を伺いたい」
「……では単刀直入に。「ヤマト」と「ジゼ」両名を、こちらへ引き渡していただきたい」
どよめくブリッジクルー達。
ウィリアムは余談許さぬ空気を纏いつつ、話を続け、
「交換条件等はない。ただ貴艦のこれまでの経歴に敬意を表し、力による制圧を試みていない事は、お知り置きいただきたい」
淡々と語る彼の話を要約すれば「無条件でヤマトとジゼを渡せ。さもなくば沈めるぞ」と言う、いわゆる遠回しの脅迫である。
カメラの死角位置に座る操舵長ジョシュアが「戦いましょう!」とジェスチャーを見せるも、姿なき相手に戦う術などなく、艦長が微かに首を横に振ると、微妙な変化を察したウィリアムが不適にニヤリと笑い、
「賢明ですな、イノウエ艦長。我々はスグそばに居ります」
「まさかッ!?」
アイザックはソナーを下ではなく、全方位に「水平発射」。
間を置かずに返る、ビーコンの音。
信じ難い話ではあるが、ガルシアのセンサーは、敵艦が目の前の「空と海しかない空間」に居る事を示したのである。
(もしや!)
艦長帽の陰で、驚愕の表情見せる艦長。
「ワァハハハハ! 流石はイノウエ艦長ォ! 良いクルーをお持ちだァ!」
ウィリアムの大笑いと共に、ガルシアの船首数十メートル先、謎の戦艦が一瞬にして姿を現した。
しかも同型艦がガルシアを囲む様に、左右と後方にまで。
更に驚く事に、四方を囲む四隻は航行を続けるガルシアに速度を合わせ、今にも接触しそうな距離を、砲門を向けつつ並走していたのである。
「な、なんてこったぁ……」
アイザックは驚愕の表情でブリッジの窓に貼り付き、ドローン六機に直掩させつつ並走する敵艦を見つめ、
「こんなの電波を反射しにくいステルス艦なんてレベルじゃない……むしろ電波を吸収しているとしか思えない……」
操舵長ジョシュアも焦りの色を隠せず、
「あぁ……それに光学式なんだろうが、こんなデカイ規模の偽装迷彩なんて、見た事も、聞いた事もない……」
「しかもセンサーで、推進音、機関音、何の異常もキャッチ出来なかったんですよ……あり得ない……」
アイザックが改めて語らずも、敵艦が桁外れのスペックを有している事はブリッジクルーの誰もが感じた事であり、もはや一人として楽観を口にする者はいなかった。
「さてイノウエ艦長、どちらを選ぶか決まりましたかな?」
(私に、「二人の命」と「クルー全員の命」を秤に掛けろ言うのかぁ!)
不敵に微笑むウィリアムに、悔しくも返す言葉が見つからずにいると、
「「艦長、副長、皆さん、お世話になりました」」
ヤマトとジゼが、穏やかな笑みを浮かべ頭を下げた。
「決まりのようですな、イノウエ艦長。では後ほど」
勝ちを匂わし通信を切るウィリアム。
艦長は帽子のツバで顔を隠し、奥歯をグッと噛み締め、
「す、すまない……」
言葉少なに呟き、ブリッジクルー達が神妙な面持ちでうつむくと、
「厄介払いが出来て、皆さん、さぞ御満足でしょうね?」
シセの呆れ声にギクリ。
心の片隅に隠した弱さをえぐり出され、絶句し、青ざめた。
「いつの時代も人と言うモノは、」
「良いのシセ」
ジゼは憂いを感じさせない笑みを浮かべ、
「私達の代わりに、ガルシアのみんなを守ってね」
「……それがジゼ姉様の望みなら」
ジゼは安堵した様に頷き、ヤマトと共にブリッジを出ようとすると、
「シセは、今のアナタの方が大好きです。かつてのアナタより、ずっと……」
「え?」
驚き振り返るも、シセは静かに、
「独り言です、ジゼ姉様。良きご武運を……」
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