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青木 森

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3.旅立ちの章-19

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 眼前に迫った柵はいったい何メートルあるのか、想像以上に高くそびえ立ち、見張り付きのゲートをくぐった車は、林の中の一本道を更に一キロ近く走り、やっと宮殿様な、白亜の屋敷前で停車した。
 エントランスへ続くであろう両開き扉の前に立つ黒服男は、車の後部座席のドアを開け、
「お待ちしておりました」
 艦長たちを屋敷内へと導いた。
 無意味としか思えない、やたらと毛足の長い赤絨毯。
 そこかしこには、センスなくゴテゴテと置かれた絵画や壺などの美術品。
 価値は分からずとも、その成金主義的、見せつけ配置にマシューとルークは苛立ちつつ平静を装い、艦長と共に黒服男の後に続くと、男は細かな細工と金箔で飾りたてられた扉の前で足を止め、
「お客様をお連れしました!」
 すると扉の向こうから、
「スグに入ってもらえ」
 待ちわびていたかの様な、男の声。
(テメェーが来いや!)
(シッ! マシュー、聞かれると面倒くせぇぞ)
 小声で毒づくマシューと、自制を促すルーク。
 黒服は聞こえなかったのか、聞こえないフリをしたのか、
「失礼します」
 扉を開け、艦長達を室内へと促した。
 室内も過剰に豪華の一言。
 絵画は勿論の事、アチコチに年代物と思われるアンティークの家具達まで。
 依頼主と思われる小太りの男は上座に踏ん反り返ったまま、満面の笑みを浮かべ、
「ようこそ我が屋敷へ。とりあえず座って下さい」
「では、失礼します」
 艦長たちが着席すると、
「何か、お飲みになりますかな?」
「いえ。任務中ですのでお気持ちだけで結構」
 依頼主の男が少し残念そうな顔をするも、艦長は話を続け、
「早速ですが御依頼の件は?」
 男はつまらなそうに、
「おい! アレを持って来い!」
 座ったまま、黒服男の一人に顎で指示。
 黒服男は一旦部屋を出ると、アタッシュケースを持ち戻って来て、
「失礼します」
 艦長の前に置いた。
「これが?」
「中に、依頼のNASが入ってます」
「開けてもよろしいですかな?」
 どうぞと促す依頼主の男に、警戒しつつアタッシュケースを開けて見ると、中に入っていたのは何の変哲もない黒く四角い外部記憶装置。
「「「?」」」
 見慣れたリアクションであったのか、依頼主の男は呆れ顔で、
「見た目は普通なんです、見た目は……。ただ、中身が厄介極まりない」
「と、言いますと?」
「特殊な防壁プログラムで幾重にも守られていて、中身が何だか分からない。しかも迂闊にアクセスしようものなら反撃されて、コチラが繋いだシステムごと破壊される。ハリネズミの様なプログラムなのですよ」
「なるほど」
「ウチとしても商売柄、得体の知れない物を顧客に買わせる訳にもいかず、ダイバーズに何度か依頼したのですが、ことごとく失敗して逆に被害を被りましてねぇ」
 被害を受けた割に、ニヤニヤ顔の依頼主。
((それを口実に金をせしめやがったのかァ!))
 流石にルークも苛立ちを滲ませるも、依頼主の男は「それがどうした」と言わんばかり、フンと鼻先で笑い飛ばし、
「名高いガルシアの皆さんで、よろしくお願いしますよ。成功した暁には、ダイバーズへの出資額の増額も考えておりますので」
 しかし艦長は眉一つ動かさず、
「そうですか。ではコチラは一旦預からせていただきます」
 アタッシュケースを持ち立ち上がり、退出しようとしたが、
「持ち出されるのは困りますなぁ」
「……と、言いますと?」
「我が屋敷の設備を使い、解析していただきたいのですよ」
 不敵に笑う男に、双子のフラストレーションは爆発寸前。
「「んだとコラァ」」
 睨みを利かせるが、艦長は二人を制し、努めて平静に、
「仰る意味が分かりませんが」
「面倒ですなぁ~人質として、ココに残れと言っているのですよぉ」
 途端に、銃を手にした黒服男達が雪崩込み、艦長とマシュー、ルークを取り囲んだ。
 依頼主の男も銃口を向け、
「屋敷の入り口に設置した透過装置で武器を持っていない事は分かっている。大人しく、ガルシアを手に入れる為のエサになってもらいましょうか?」
「「て、てめぇ……!」」
 歯ぎしりさせるマシューとルーク。
 その頃、戦艦ガルシアの周辺でも異変が起き始めていた。
 気泡の出ない特殊な潜水服を纏い、海底から船底に近づく複数の影。

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