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青木 森

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3.旅立ちの章-17

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 誰の事か分からないヤマトは、苦虫を噛み潰したよう顔するマシューに、
「誰なんだソレ?」
「あぁ。副長の言った通り、ダイバーズに多額の出資をしてる台湾の大金持ちなんだけどよぉ、とにかく悪い噂の絶えない、いけ好かないヤロォーなのさ」
 辟易した顔をすると、ルークも不愉快そうに、
「戦後のドタバタの中、火事場泥棒で財を成した喰えねぇヤロォーさ」
 日頃何があっても「女たらしな笑み」を絶やさないダニエルまでもが不愉快そうな顔で、
「金と権力を手に、町の人を苦しめてるんだ」
(へぇ~何だかんだ言っても、ダニエルも優しいんだなぁ)
 意外な一面に感心していると、
「しかも『可愛い女子達』も囲い集めてるって! なんて羨ま……もとい理不尽なんだ!」
「「言い直しても遅ぇってぇ!」」
 すかさずツッコム、マシューとルーク。
 ヤマトは感動泥棒ダニエルを批判する様なジト目で見つめつつ、
「ダイバーズは、ガルシアみたいな連中の集まりなんだろ? なんでそんなヤツを放って置くんだ?」
「「俺らは慈善団体じゃねぇ~よ」」
「まぁね。今時、珍しい話じゃないしね。僕達にちょっかい出して来たら話は別だけどね」
「…………」
 甘いと言われてしまえばそれまでなのだが、ガルシア内の空気に「正義の味方」の様な物を感じていたヤマトにとって、少なからず残念な答えであったが、副長ソフィアから語られた作戦内容に、嬉しそうな顔をした。
「表向きの依頼内容は、闇ルートで手に入れた「NAS(ネットワーク接続型記憶装置)」に施された特殊暗号をデコード(解除解析)して欲しいとの事ですが、アドミスターからもたらされた情報として、依頼主が当艦ガルシアの奪取を目論んでとあり、アドミスターからの真の依頼は「ダイバーズに弓引く者を撃破せよ」との事です!」
 問題児(依頼主)への協力依頼に困惑していたクルー達は、引き締まった表情の下、一斉に静まった。
 ソフィアはクルーの心が一つになった事を認識し、艦長にアイコンタクトを送りると、艦長は無言で頷き返し了承を確認。
 気合の入った表情で、大型モニタをバンと叩き、
「本作戦は『台湾悪徳大富豪撃滅撃破しちゃうぞ大作戦』と呼称しまぁす!」
 ドドンと映し出された作戦名に、満足気な笑みを浮かべた。
((((((((((相変わらず痛いネーミングセンス……))))))))))
 渋い顔して沈黙するクルー達。艦長までもが帽子で顔を隠しうつむいた。
 完璧な女性に思えたソフィアの意外なイタイ一面に、思わず苦笑いするヤマトとジゼ。

 作戦会議の終わった後、ヤマトの姿は後部上甲板にあった。
 艦が通った後の波間に引く、白く泡立つ航跡波をぼんやり眺め、背中に哀愁を漂わせていると、
「何であんな事言ったの?」
 背後から、気遣う様な優しいジゼの声がし、ヤマトは波間を見つめたまま、
「潜入しての破壊工作を一人でやるって言った話? それを言うならジゼだって」
 ジゼはヤマトの横に並び、共に波間を見つめ、
「私があんな事を言うの、意外だった?」
「てっきり「付いて来たい」って言うかと思ったら、「私がここで人質になるからヤマトを信じて」だもんなぁ」
 嬉しさを呆れ笑いで誤魔化すと、
「でも、アレはマズかったんじゃない?」
「ダニエルとのコンビを断った事?」
「「足手まといは要らない」なんて……ブレイク隊長が、せっかく気を遣ってくれたのに」
「事実だろ? やる気のないヤツを連れて行っても、成功確率が下がるだけで、」
「ウソ」
「…………」
「危険な任務でケガする人を、一人でも減らしたいんでしょ?」
 見透かされていたヤマトはギョッとし、波間を見つめたまま小さく笑い、
「そんな事をしたって相手が喜ばないのは分かってる。傷つけるだけの自己満足……ようするに俺は馬鹿なんだよ……」
「違よ」
「?」
 振り向くヤマトにジゼは笑みを浮かべ、
「優し過ぎるだけよ」
 内心嬉しくも、喜びの気持ちを抑える様に努めて冷静に、
「押し付けの優しさなんて、本当の優しさじゃないさ……」
(ありがとう、ジゼ……)
 小さく笑い、再び視線を海へと落とした。

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