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青木 森

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3.旅立ちの章-6

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 そこは簡易ベッドが設置してあったり、医薬品の入った棚が並ぶ『治療室』であった。
 しかし漂って来たのは、消毒用と明らかに違うアルコールの強烈なニオイ。
 思わず鼻をつまむジゼとヤマト。
「や、ヤマト……何このニオイィィィ」
「た、確かに軍艦内とは思えないなぁ……」
「あははは……そう言う意味ではなかったのだけど……」
 苦笑いするソフィアは、机の上に上半身を投げ出す白衣の女性を呆れ顔で見つめた。
「オリビア……あなた、なんて有様なのぉ……」
 年齢はソフィアより少し上くらいであろうか、ボリューム感のある艶やかな黒髪の隙間から美しい小顔がのぞくも、その顔は、無残にも二日酔いで青く歪んでいた。
 そこへ五、六歳くらいの女の子がコップを持ってやって来た。
「オリビア! ふくちょうさんが「おきゃくさま」をつれてきてるのに、しっかりしてぇ!」
 金切り声を上げると、
「あ、頭に響くぅ~~~。い、イサミ~み、水、お水ちょ~~~だ~~~い……」
「だらしないわねぇ~。もってきてるから、はい、のんでぇ!」
 大人の女性は、幼女からコップを受け取り一口飲むと、
「スポーツドリンクじゃ~ん。あぁ~もうイサミってば本当に気が利くぅんだからぁ~」
 幼女に抱きつき頬擦り。
「おさけくしゃい! 「ふくちょうさん」と「おきゃくさま」のまえよ、ちゃんとして! ごあいさつがおわったら、カトレア(花)に、おみずもあげるのよ!」
「はぁ~~~い!」
 ユルイ笑顔で手を挙げ、イサミを開放した。
 もはやどちらが大人か分からない状況に、ヤマトとジゼは苦笑い。
「あらぁ~噂には聞いていたけど、可愛い新人さんじゃなぁ~~~い」
 すまし顔で足を組み換えし、今更出来る女をアピールするかの様にポーズを決め、
「私が船医のオリ、うっぷぅっ」
 今にも吐きそうな青い顔して、両手で口を抑えた。
 すかさずイサミが背中をさすり、
「ハイハイ。だいじょうぶぅですよぉ~~~」
「い、イサ……お願……さ、さすらないで……でぇ、でちゃ、うぷぅっ」
「「「…………」」」
 色々ツッコミどころはあるが、グラマーな八頭身美人ではある。
 とても話の出来る状態ではないオリビアに、ソフィアはため息一つ、
「彼女は船医のオリビア・マイヤーズで、この子は……」
「「ほごしゃ」のイサミでぇす! オリビアともども、よろしくおねがいしまぁす!」
 丁寧にお辞儀をして見せた。
「俺はヤマト、こっちはジゼって言うんだ、よろしく。イサミちゃんはえらいなぁ」
 感心しきりのヤマトがイサミの頭を撫でると、イサミは目を輝かせてヤマトを見上げた。
 しかし背後に立つジゼから瞬間的に何かを感じキリっと睨む。
 乙女センサーが反応、大人げなく睨み返すジゼ。
 ヤマトの気付かぬ所で乙女のバトルが勃発する中、隣接する「キッズルーム」と書かれた部屋から、
「にぃちゃんたちをイジメたヤツらなんかと、ナニなかよくしてるんだよぉ!」
 怒気を含んだ声に振り向くと、そこにはイサミと同い年くらいの男の子の姿が。
 怒れる男の子は、背中に隠れる年下風の男の子を前に押し出し、
「ソウシ! おまえも、ナニかいってやれ!」
 しかしソウシは今にも泣き出しそうな顔をして、男の子の背後に隠れてしまった。
「トシゾウ! ソウシ! ちゃんと、ごあいさつしてぇ!」
 血のつながりは不明だが、イサミが長女の様である。
 トシゾウは膨れ面でプイッと横を向き、
「イヤだ!」
 絶対拒否の姿勢。
 イサミはムッとし、
「ねてる「おんなのひと」の、オッパイさわろうとしたからでしょ!」
 話の流れから、トシゾウはマシュー達が負かされた事に、腹を立てている様である。
 膨れっ面のトシゾウはオリビア、ソフィア、ジゼの三人を見比べ、
「こんなに「ちっちゃい」の、さわるわけないだろぉ!」
「「「ん?」」」
 オリビア(美乳)、ソフィア(巨乳)、そして……誠に遺憾ながら、残念なジゼ。
 勝ち誇った様な笑みを見せるオリビアに、イラっとした顔をするジゼと、笑ってお茶を濁すソフィア。
 すると怒れるイサミは流れに便乗、
「そうかもしれないけど!」
 ジゼが落ち込むに十分な、不必要と思える前置きをした上で、
「れでぃーに、なんてこというの!」
 トシゾウの頭をバシリ。
「なにすんだ!」
 トシゾウも負けじと叩き返す。
「おう、やれやれぇ~」
 青い顔したオリビアが煽り立て、
「何を言っているの、オリビア!」
 ソフィアは取っ組み合う二人の間に割って入り、
「二人とも、そこまでよ!」
 母親の様に諭した。
 憤慨し、「フン!」と言わんばかりに背を向け合うイサミとトシゾウ。
 ソフィアは長引きそうな気配に、
「や、ヤマトくん、ジゼさん、次の場所へ行きましょうか?」
 すると不機嫌だったイサミが元気よく手を上げ、
「イサミもいく!」
「……イサミ、これはお仕事なの。あなたにも、お勉強と言うお仕事がまだあるでしょ?」
 促すソフィアに対し、イサミが一枚うわ手。
「せんせいがこんなじゃ、べんきょうできないもん!」
 顔面蒼白で机に上半身投げ出すオリビアを指さした。
 しかし、残念ながらソフィアは更にその上、
「みんなはエライから、昨日の宿題の答え合わせを一人で出来るわよねぇ~?」
「「「えぇ~っ!」」」
 一斉に不服声を上げる三人。
 するとソフィアは、激しい怒りを「過剰な程の笑顔」で覆い隠し、
「自分の仕事しない子は、営倉にブチ込んじゃうぞぉ♪」
 イサミ達は一瞬にして硬直。
「「「いっ、いぇす、まぁむぅ!」」」
 引きつった表情で背筋を伸ばし敬礼すると、キッズルームの自席に駆け座りノートを開き、猛勉強を開始した。
「よろしい♪」
 満足気に微笑むソフィアに、青い顔したオリビアは机に突っ伏したまま、
「あんたのソレ、ほんとにコワイから止めてぇ」
「そう?」
 いつも通りの微笑みを見せるソフィアと、彼女が垣間見せた闇に「気を付けよう」と、心に固く誓うヤマトとジゼ。

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