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2.邂逅と別れの章-9
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自室に移動したエマとジゼは部屋に入ると壁面ボタンを押し、スライドドアをロック。
「さぁジゼちゃん、ここに座って」
エマは鏡台前のチェストの座面をポンポン叩きジゼを座らせると、「静かに」とジェスチャーポーズ。
音を立てない様にスライドドアの前に移動すると、そっと壁面ボタンを押しロック解除。
スッと開くドア。
「「あ……」」
そこには、扉に耳を当てた格好でフリーズするジェイソンとヤマトが。
「「…………」」
恐る恐る顔を上げる二人。
見下ろすエマの顔は、怒りでみるみる赤へと変わり、
「女子部屋の前で何をしてるのぉーーーーーー!」
「「ごめんなさぁ~~~い!」」
男二人は一目散に逃げ出した。
「まったくぅ! 油断も隙も無いんだからァ!」
怒り心頭、今度は扉のロックをかけなかった。
扉の前に誰か来たら開いてスグに分かる、「盗み聞き対策」をしたのである。
「エママ……昼に話してた、ヤマトが「先輩」、どういう意味?」
「? あぁ~それは……そうねぇ……」
エマはジゼのツインテールをほどき、櫛でとかしながら、
「ヤマトとジゼちゃんは、似ているの」
「似てる?」
「そう。ヤマトもね、ジゼちゃんと形は違うけど「棺」から出て来たの」
「ヤマトも!?」
「でもあの子の意識はAIではないわ。容姿は、あの頃のままだけど……」
不可解そうな顔をするジゼに、
「ウフフフ。順を追って説明するわね」
コクリと頷く。
「核戦争前、アメリカ軍が大西洋沖で特殊スーツの運用実験を行っていたの」
「とくしゅすーつ?」
「そう。揚陸艇……えぇ~と船を使わないで、兵隊さんに海底を歩かせて、戦場に上陸させて、そのまま戦争に参加させる為の」
「スーツ?」
「そうねぇ……あえて言うなら、兵隊さんがロボットを着るイメージかしら」
「…………」
眉間にシワを寄せ、悩むジゼ。
「ま、まぁその話は一先ず置いておきましょ。続けるわね。規格通りにそのスーツが、水深千メートル以上に耐えられるか運用実験が行われた時、事故が起こったの」
「事故?」
「そう。実験に参加していた隊員の一人が、海底の割れ目に脚を滑らせて滑落してしまったの。極秘裏に行われた試験だから他国に救助要請は出来ないし、救助に行くには深海用の潜水艇が必要な深さだったの」
「それで、どうしたの?」
「隊員達が「運用試験も兼ねるから」と上層部を説得して、試験中のスーツを着て救助に向かったの」
「その人達は?」
「幸運にも全員生還したわ。で、その時、割れ目の底で「棺」が偶然発見されたの」
「それが……」
「そう。ヤマトの眠る棺だったの。サルベージされた棺は、極秘裏にハワイの基地へ運び込まれたんだけど……ジゼちゃんの棺と同じで何をしても開かなかったの」
「じゃあ、どうやってヤマトは出て来たの?」
「それがね、映画みたいな話なんだけど、基地にハリケーンが直撃した時に雷が落ちて、大きな電気が研究棟にまで流れ込んで、その時のショックで棺が開いたそうよ。そして中から出て来たのがヤマトだった。でも初めは大変だったと聞いてるわぁ~」
「大変?」
「そうなの。ヤマトってば起きはしたけど瞬き以外、何の動きも感情も示さなくて、しかも見た事の無いエネルギーフィールドを張って、誰も近づけなかったそうなの」
「…………」
「無理やり近づこうとした研究者や兵士がフィールドに弾かれて、何人もケガをしたそうよ。一時は研究の凍結も考えられていたそうなの。そんな時に白羽の矢が立ったのが「軍のお荷物」になっていた私とジェイソン」
「お荷物?」
エマは微かに、悲し気に微笑むと、
「その頃の私とジェイソンは、ただ軍に居るだけで、何の役にも立っていなかったの。まぁ正確には、「生きる気力」を失っていたのだけど」
「?」
不思議そうに見つめるジゼに、エマは自嘲気味な笑みを浮かべ、
「気力を無くす前はね、お互い会った事は無かったけど、名前を耳にするくらい活躍していたのよぉ。私は犯罪行動心理学者として幾つもの事件解決に貢献してたし、ジェイソンなんて勲章を幾つも貰って「英雄」なんて呼ばれてたんだからぁ。今は見る影もないでしょ?」
クスクスと笑って見せた。
「エママは、何でも出来て、何でも知っていて、とても凄い。なのにどうして?」
「ありがとう、ジゼちゃん。私はね、夫と娘を犯罪者の逆恨みで殺害されたの」
「え……」
ジゼの脳裏をよぎる、襲撃を受けた時の光景。
「ジェイソンもね、子供だけで構成された「エレメンタリースクール立て籠もりテロ」の首謀者の子供を射殺して、それをマスコミに 糾弾された上に、世間からは「堕ちた英雄」、「チャイルドキラー」と罵られて、挙句に唯一の家族だった娘さんを交通事故で亡くしてしまったの。まったく……何の為に戦って来たのか本当に分からなくなったわぁ」
当時の苦悩を思い出しているのか遠い目をし、
「軍は私達を解雇するとマスコミに糾弾されると思って、失敗する事を見越してヤマトの教育係に任命したの。失敗したら責任を取らせて即解雇。でも、ざまぁ見ろだわ!」
笑って見せるエマの目に、うっすら涙が浮かんでいた。
「エママ……」
衝動的に手を握るジゼ。何故そうしたかは自分でも分からない。
「ありがとう、ジゼちゃん。でも当時のヤマトには、本当に困ったわぁ~全然、なんにも反応してくれないの。でもそんな時、ジェイソンてば何をしたと思う?」
「?」
「研究室の中に、バーベキューセットを持って来たの」
「……私の記憶違いでないなら、外でお肉を焼く?」
「そうよ。「籠りっきりで腹減った!」って言い出して、部屋の中でソーセージを焼いてパンに挟めて、ホットドッグにして食べ始めたの。研究員達の渋い顔、今でも忘れないわぁ~」
可笑しそうにクスリと笑うと、
「そうしたら?」
「それまで見向きもしなかったヤマトが、初めてジェイソンの方を向いたの。そうしたらジェイソンてば、私の制止も聞かずホットドッグ両手に、ヤマトに近づいて行って」
「ふむふむ」
「目の前で食べて見せたの」
「?」
「でも全ては、そこから始まったのよぉ……受け取ったヤマトも見よう見真似で食べ始めて……。ヤマトが最初に覚えた言葉は「ホットドッグ」で、次が「おいしい」なの」
溺愛する我が子の成長を喜ぶ様に微笑むと、
「エママ。もう一つ聞いて良い?」
「んん? 何かしらぁ~?」
「いなくなったりしない?」
「!」
笑顔が一転硬直して、たじろぎ、
「な、何を言ってるのぉ~ジゼちゃん? もぅ、当たり前でしょ~」
「私は介護用として作られたAI。様々な症例データが、私の中に保存されている。その症例と全てが合致する病名が一つ。それは、」
言いかけたジゼは、突如強く抱き寄せられ、
「ジゼちゃん、ごめんねぇ! 私は……私は約束を守れないの!」
「一緒に居てくれるって言ったのに……」
言葉を涙声で詰まらせ、
「また胸の奥が苦しい……こんな……こんなに辛い思いばかりするなら、感情なんて持ちたくなかった。あの時、消えてしまえば、」
「そんな事はないわ!」
今にも涙が溢れ出しそうなジゼの目を、真っ直ぐ見つめ、
「確かにジゼちゃんは、これからも辛い思いを幾つも経験するわ。でもそれと同じ位、いえそれ以上に、沢山の楽しい発見と新しい出会いが、あなたを待っているの!」
「でも……」
人として生きていく為の経験や知識と言った、年齢と共に積み上げて行く下支えの無いジゼは戸惑い、返す言葉を見出せないでいると、エマは不安を打ち砕く様に再び抱き寄せ、
「自分を否定しないで! あなたは確かに愛され、生まれ来たのだから! 愛するあなたの存在は、消え行く私達の生きた証でもあるの! だからお願い……生きて……」
涙を流しつつも微笑み、生きて行く為に大切な何かを与えてもらった気がしたジゼは、潤んだ瞳で微笑み、
「ありがとう、エママ」
「忘れないでジゼちゃん。例え姿が見えなくなっても、私達は二人を見守っているのよ」
言葉の意味は分からずも、気持ちは伝わり、
「うん……」
頷くと、
「ヤマトは知ってるの?」
「…………」
「?」
「……話していないの」
「どうして!?」
納得いかない面持ちでエマから離れるジゼ。
「あの子には考え、感じて欲しいから……」
「何を?」
「人の死には、どう言いう意味が伴うのかを」
「?」
「軍はね、実験段階からヤマトの秘めた戦闘力に目を付けていて、ヤマトに自我が芽生え始めた途端、ジェイソンに兵士としての英才教育を命令したの。忠実な生体兵器とする為に」
「拒否は?」
「拒否すればヤマトは即廃棄処分だって。だからジェイソンは命令に従い教育したの。せめて戦場で命を落さないようにって。お陰でヤマトは数々の戦績をあげたわ。でも……」
「でも?」
「精神的成長の発展途上だったヤマトは、ひとたび敵と判断した相手には死をもいとわない、冷酷な面を持ってしまったの」
「だから?」
「そう。だからこの身を以てヤマトに知ってもらうの。人が死んだ時、遺された人達は、心にどんな痛みを負うのかを。これは、軍の言いなりにヤマトを兵器にしてしまった、母親である私の贖罪」
「…………」
信念を感じさせるエマの強い目に、かける言葉が見つからないジゼであったが、
「それでね、ジゼちゃんに、お願いがあるの」
「私に?」
エマは小さく頷き、
「ジゼちゃんは本当の悲しみを乗り越え、ここに居るわ。でもあの子は、身を裂かれる様な本当の悲しみをまだ知らない。だから私が居なくなった後、そばにいる間だけで良いから、あの子を支えてあげて欲しいの」
「人でもない、未熟な私が?」
「ウフフフフ。私の自慢の息子だけど、ジゼちゃんになら譲ってあげてもいいわよぉ」
エマが笑顔を見せると、ジゼは急に耳まで真っ赤になりうつむいた。
「あれれぇ~? どうしたのかなぁ~?」
うつむくジゼの顔を、悪戯っぽく覗き込むエマ。
「な、何でもない! 知らない! 分からない!」
必死に顔をそむけるも、
「うん? うぅ~ん?」
ニヤニヤしながら追い掛ける様に覗き込むエマに、
「むぅ~っ! エママいじわる!」
二人きりの女子会の夜は、ゆっくりと更けて行った。
「さぁジゼちゃん、ここに座って」
エマは鏡台前のチェストの座面をポンポン叩きジゼを座らせると、「静かに」とジェスチャーポーズ。
音を立てない様にスライドドアの前に移動すると、そっと壁面ボタンを押しロック解除。
スッと開くドア。
「「あ……」」
そこには、扉に耳を当てた格好でフリーズするジェイソンとヤマトが。
「「…………」」
恐る恐る顔を上げる二人。
見下ろすエマの顔は、怒りでみるみる赤へと変わり、
「女子部屋の前で何をしてるのぉーーーーーー!」
「「ごめんなさぁ~~~い!」」
男二人は一目散に逃げ出した。
「まったくぅ! 油断も隙も無いんだからァ!」
怒り心頭、今度は扉のロックをかけなかった。
扉の前に誰か来たら開いてスグに分かる、「盗み聞き対策」をしたのである。
「エママ……昼に話してた、ヤマトが「先輩」、どういう意味?」
「? あぁ~それは……そうねぇ……」
エマはジゼのツインテールをほどき、櫛でとかしながら、
「ヤマトとジゼちゃんは、似ているの」
「似てる?」
「そう。ヤマトもね、ジゼちゃんと形は違うけど「棺」から出て来たの」
「ヤマトも!?」
「でもあの子の意識はAIではないわ。容姿は、あの頃のままだけど……」
不可解そうな顔をするジゼに、
「ウフフフ。順を追って説明するわね」
コクリと頷く。
「核戦争前、アメリカ軍が大西洋沖で特殊スーツの運用実験を行っていたの」
「とくしゅすーつ?」
「そう。揚陸艇……えぇ~と船を使わないで、兵隊さんに海底を歩かせて、戦場に上陸させて、そのまま戦争に参加させる為の」
「スーツ?」
「そうねぇ……あえて言うなら、兵隊さんがロボットを着るイメージかしら」
「…………」
眉間にシワを寄せ、悩むジゼ。
「ま、まぁその話は一先ず置いておきましょ。続けるわね。規格通りにそのスーツが、水深千メートル以上に耐えられるか運用実験が行われた時、事故が起こったの」
「事故?」
「そう。実験に参加していた隊員の一人が、海底の割れ目に脚を滑らせて滑落してしまったの。極秘裏に行われた試験だから他国に救助要請は出来ないし、救助に行くには深海用の潜水艇が必要な深さだったの」
「それで、どうしたの?」
「隊員達が「運用試験も兼ねるから」と上層部を説得して、試験中のスーツを着て救助に向かったの」
「その人達は?」
「幸運にも全員生還したわ。で、その時、割れ目の底で「棺」が偶然発見されたの」
「それが……」
「そう。ヤマトの眠る棺だったの。サルベージされた棺は、極秘裏にハワイの基地へ運び込まれたんだけど……ジゼちゃんの棺と同じで何をしても開かなかったの」
「じゃあ、どうやってヤマトは出て来たの?」
「それがね、映画みたいな話なんだけど、基地にハリケーンが直撃した時に雷が落ちて、大きな電気が研究棟にまで流れ込んで、その時のショックで棺が開いたそうよ。そして中から出て来たのがヤマトだった。でも初めは大変だったと聞いてるわぁ~」
「大変?」
「そうなの。ヤマトってば起きはしたけど瞬き以外、何の動きも感情も示さなくて、しかも見た事の無いエネルギーフィールドを張って、誰も近づけなかったそうなの」
「…………」
「無理やり近づこうとした研究者や兵士がフィールドに弾かれて、何人もケガをしたそうよ。一時は研究の凍結も考えられていたそうなの。そんな時に白羽の矢が立ったのが「軍のお荷物」になっていた私とジェイソン」
「お荷物?」
エマは微かに、悲し気に微笑むと、
「その頃の私とジェイソンは、ただ軍に居るだけで、何の役にも立っていなかったの。まぁ正確には、「生きる気力」を失っていたのだけど」
「?」
不思議そうに見つめるジゼに、エマは自嘲気味な笑みを浮かべ、
「気力を無くす前はね、お互い会った事は無かったけど、名前を耳にするくらい活躍していたのよぉ。私は犯罪行動心理学者として幾つもの事件解決に貢献してたし、ジェイソンなんて勲章を幾つも貰って「英雄」なんて呼ばれてたんだからぁ。今は見る影もないでしょ?」
クスクスと笑って見せた。
「エママは、何でも出来て、何でも知っていて、とても凄い。なのにどうして?」
「ありがとう、ジゼちゃん。私はね、夫と娘を犯罪者の逆恨みで殺害されたの」
「え……」
ジゼの脳裏をよぎる、襲撃を受けた時の光景。
「ジェイソンもね、子供だけで構成された「エレメンタリースクール立て籠もりテロ」の首謀者の子供を射殺して、それをマスコミに 糾弾された上に、世間からは「堕ちた英雄」、「チャイルドキラー」と罵られて、挙句に唯一の家族だった娘さんを交通事故で亡くしてしまったの。まったく……何の為に戦って来たのか本当に分からなくなったわぁ」
当時の苦悩を思い出しているのか遠い目をし、
「軍は私達を解雇するとマスコミに糾弾されると思って、失敗する事を見越してヤマトの教育係に任命したの。失敗したら責任を取らせて即解雇。でも、ざまぁ見ろだわ!」
笑って見せるエマの目に、うっすら涙が浮かんでいた。
「エママ……」
衝動的に手を握るジゼ。何故そうしたかは自分でも分からない。
「ありがとう、ジゼちゃん。でも当時のヤマトには、本当に困ったわぁ~全然、なんにも反応してくれないの。でもそんな時、ジェイソンてば何をしたと思う?」
「?」
「研究室の中に、バーベキューセットを持って来たの」
「……私の記憶違いでないなら、外でお肉を焼く?」
「そうよ。「籠りっきりで腹減った!」って言い出して、部屋の中でソーセージを焼いてパンに挟めて、ホットドッグにして食べ始めたの。研究員達の渋い顔、今でも忘れないわぁ~」
可笑しそうにクスリと笑うと、
「そうしたら?」
「それまで見向きもしなかったヤマトが、初めてジェイソンの方を向いたの。そうしたらジェイソンてば、私の制止も聞かずホットドッグ両手に、ヤマトに近づいて行って」
「ふむふむ」
「目の前で食べて見せたの」
「?」
「でも全ては、そこから始まったのよぉ……受け取ったヤマトも見よう見真似で食べ始めて……。ヤマトが最初に覚えた言葉は「ホットドッグ」で、次が「おいしい」なの」
溺愛する我が子の成長を喜ぶ様に微笑むと、
「エママ。もう一つ聞いて良い?」
「んん? 何かしらぁ~?」
「いなくなったりしない?」
「!」
笑顔が一転硬直して、たじろぎ、
「な、何を言ってるのぉ~ジゼちゃん? もぅ、当たり前でしょ~」
「私は介護用として作られたAI。様々な症例データが、私の中に保存されている。その症例と全てが合致する病名が一つ。それは、」
言いかけたジゼは、突如強く抱き寄せられ、
「ジゼちゃん、ごめんねぇ! 私は……私は約束を守れないの!」
「一緒に居てくれるって言ったのに……」
言葉を涙声で詰まらせ、
「また胸の奥が苦しい……こんな……こんなに辛い思いばかりするなら、感情なんて持ちたくなかった。あの時、消えてしまえば、」
「そんな事はないわ!」
今にも涙が溢れ出しそうなジゼの目を、真っ直ぐ見つめ、
「確かにジゼちゃんは、これからも辛い思いを幾つも経験するわ。でもそれと同じ位、いえそれ以上に、沢山の楽しい発見と新しい出会いが、あなたを待っているの!」
「でも……」
人として生きていく為の経験や知識と言った、年齢と共に積み上げて行く下支えの無いジゼは戸惑い、返す言葉を見出せないでいると、エマは不安を打ち砕く様に再び抱き寄せ、
「自分を否定しないで! あなたは確かに愛され、生まれ来たのだから! 愛するあなたの存在は、消え行く私達の生きた証でもあるの! だからお願い……生きて……」
涙を流しつつも微笑み、生きて行く為に大切な何かを与えてもらった気がしたジゼは、潤んだ瞳で微笑み、
「ありがとう、エママ」
「忘れないでジゼちゃん。例え姿が見えなくなっても、私達は二人を見守っているのよ」
言葉の意味は分からずも、気持ちは伝わり、
「うん……」
頷くと、
「ヤマトは知ってるの?」
「…………」
「?」
「……話していないの」
「どうして!?」
納得いかない面持ちでエマから離れるジゼ。
「あの子には考え、感じて欲しいから……」
「何を?」
「人の死には、どう言いう意味が伴うのかを」
「?」
「軍はね、実験段階からヤマトの秘めた戦闘力に目を付けていて、ヤマトに自我が芽生え始めた途端、ジェイソンに兵士としての英才教育を命令したの。忠実な生体兵器とする為に」
「拒否は?」
「拒否すればヤマトは即廃棄処分だって。だからジェイソンは命令に従い教育したの。せめて戦場で命を落さないようにって。お陰でヤマトは数々の戦績をあげたわ。でも……」
「でも?」
「精神的成長の発展途上だったヤマトは、ひとたび敵と判断した相手には死をもいとわない、冷酷な面を持ってしまったの」
「だから?」
「そう。だからこの身を以てヤマトに知ってもらうの。人が死んだ時、遺された人達は、心にどんな痛みを負うのかを。これは、軍の言いなりにヤマトを兵器にしてしまった、母親である私の贖罪」
「…………」
信念を感じさせるエマの強い目に、かける言葉が見つからないジゼであったが、
「それでね、ジゼちゃんに、お願いがあるの」
「私に?」
エマは小さく頷き、
「ジゼちゃんは本当の悲しみを乗り越え、ここに居るわ。でもあの子は、身を裂かれる様な本当の悲しみをまだ知らない。だから私が居なくなった後、そばにいる間だけで良いから、あの子を支えてあげて欲しいの」
「人でもない、未熟な私が?」
「ウフフフフ。私の自慢の息子だけど、ジゼちゃんになら譲ってあげてもいいわよぉ」
エマが笑顔を見せると、ジゼは急に耳まで真っ赤になりうつむいた。
「あれれぇ~? どうしたのかなぁ~?」
うつむくジゼの顔を、悪戯っぽく覗き込むエマ。
「な、何でもない! 知らない! 分からない!」
必死に顔をそむけるも、
「うん? うぅ~ん?」
ニヤニヤしながら追い掛ける様に覗き込むエマに、
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