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青木 森

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2.邂逅と別れの章-1

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 そして現在―――
 見知らぬ少女を連れたヤマトに、ジェイソンとエマが驚きを隠せない中、
「この子、「開かずの石棺」から出て来たんだ」
「マジか!? あの透過装置も拒否する、破壊不能のオーパーツの石棺からぁ?」
 半信半疑の表情を見せるジェイソン。
 すると疑問を先行させる男二人を置き去りに、エマがニコリと微笑み、
「そんな格好じゃ風邪をひいてしまうわ。とりあえず着替えましょ。私について来て」
 少女について来るよう促した。
 表情は全く変わらないものの、何も言わずにエマの後に続く少女。
 部屋を出て、前を行くエマが妙に嬉しそうな口調で、
「えぇ~と、何ちゃんと呼べばいいのかしら?」
「ジゼだよ」
「そう、「ジゼちゃん」て言う……」
 ヤマトの声に車イスを止めるエマ。笑顔をこわばらせると鬼の形相で振り返り、
「女の子の着替えに、何をゾロゾロついて来てるの! ハウスッ!(帰れの意味)」
 ヤマトと共に後をついて来ていたジェイソンは、あまりの剣幕に恐れおののき、
「わ、分かったよぉ~。んなに、怒んなくったてぇよ~」
 スゴスゴと部屋に戻って行ったが、ヤマトは微動だにせず、帰る素振りも見せなかった。
「やぁ~まぁ~とぉ~。あなた、いつからジェイソンみたいな悪い子になったのぉ~?」
 困り顔したエマが顔を見上げると、
「でも、エマ母さん……これ……」
 ヤマトは自身の左手を、エマに見える様に上げた。
「!」
 無表情のジゼは無言でヤマトの手を握り続け、離す素振りも見せない。
 エマは困惑顔で小さく笑い、
「ジゼちゃ~ん……ちょ~っとの間だけ離しましょうかぁ~?」
 促すも、無表情で激しく首を横に振り、断固拒否。
 エマは大きなため息を一つ、
「あのねぇ、ジゼちゃん。あなたは今から、お着替えをするの。「女の子」が「男の子」に、簡単に肌を見せてはだめよぉ」
 優しくたしなめる様に言うと、ジゼはしばし考え、チラリとヤマトを見て、静かに手を離した。
 変わらぬ無表情に、どこまで理解してもらえたかは不明なものの、エマは一先ずホッと胸をなで下ろし、
「じゃあヤマト、ジゼちゃんがどんなに可愛く変身するか、楽しみにしてるのよぉ~」
 意味ありげな微笑みを残すと、無表情のジゼを連れ立ち、施設の奥へと消えて行った。
 ポツンと残されるヤマト。
 しばしジゼと握り合った手を見つめ、
「…………」
 胸の奥に初めて感じる理解不能の揺らぎに戸惑いつつも一人では答えは出せず、仕方なく部屋に戻ると、待っていたのはジェイソン先生による「女性への接し方講座」であった。
「良いかヤマト、いつも言ってる様に、女の子とお近づきになる為の最初の一歩は自己紹介だ! 何はともあれ、マズは自分を知ってもらわないとな!」
 から始まり、以降は流暢に立て板に水の如く、嘘か本当か分からない自慢めいた話を織り交ぜながら延々と熱く語られ、「いつもの事」と聞き流すヤマトは、ジゼの帰りを今か遅しと待ちわびていた。
 数十分後、エマがため息を吐きながら一人で戻って来た。
「よぅ、ジゼちゃんのお着替えは終わったのか?」
 言いたい事を散々言いまくったジェイソンはスッキリ、ツヤツヤ顔。
 対してエマは、
「ま、まぁ……ねぇ……」
 なんとも歯切れが悪い。
「?」
 不思議そうな顔をするも、後から入って来たジゼを見るなり合点がいった。
 ジゼは首にアメジストのループタイを下げ、上は何の飾り気もない白いYシャツの上にライトグレーのベスト。下にはベストとお揃いのミニスカートをはき、足下には茶色いロングブーツ。そして最後の仕上げと言わんばかり、それら全てを覆い隠す様に、床を引きずりそうなほど長い白衣を纏っていたのである。
 そんな装いをする低身長のジゼの姿は、エマがまとめたツインテールと相まって、さながら、何とか先生の実験の助手をする「チビッ子研究員」の様。
「アハハハハ。一部のマニアは喜ぶかもなぁ」
ケラケラと笑うジェイソンと、
「「これが良い」って、きかなくて……」
 困惑するエマ。
 無表情のジゼは自身の装いを改めて見つめ、
「人の服装、あまり……見ない……。へん……?」
 小首を傾げると、ヤマトがポォ~~~と赤い顔してジゼを見つめ、
「……良いと思う……」
「「マニアがいた!?」」
 ギョッとするジョセフとエマ。
 ジゼを見つめるヤマトは、再び理解不能の感覚に囚われていた。
(なんだろう……ジゼから目が離せなくて……顔と胸が熱い……)
 すると赤い顔をして見つめるヤマトの下に、うつむいたままのジゼがゆっくり歩みより、そっとヤマトの手を握り、
「……手って……大きくて……温かい……」
「「!」」
 驚きを隠せないエマはジェイソンの服を引っ張り、小声で、
(ねぇねぇジェイソン! これってこれって、もしかしてぇ!)
(し、知るかよ! あっ、あれか? 目を覚ました時に初めて見た者を親と思うって言う)
(鳥のすりこみ?)
 徐々に近づくジゼとヤマトの顔。
 エマは二人の微妙な空気に当てられ顔を赤くしつつも、パァンと両手を打ち鳴らし、
「ハイッ! 二人とも、そこまでよ!」
 ハッと我に返るヤマト。
 何とも言えない空気が漂う中、ジェイソンが機転を利かせ、
「色々すっ飛ばしてぇ、自己紹介も済んでなかったよなぁ! 俺の名前はジェイソン・テイラー。コイツのオヤジだ!」
 ヤマトの頭を鷲掴みにすると、無造作にクシャクシャ撫で回し、
「で、彼女はコイツの母親!」
 エスコートする様に車イスを押し、ジゼの前に連れ出すと、
「改めまして、エマ・トマソンよ。よろしくね、ジゼちゃん」
 エマは優しく微笑んだ。
「で、最後がコイツ。俺とエマの息子の」
「自己紹介なら、もう済んでるよ」
「えぇ!? いつ!?」
「可愛い子と出会ったら「何を差し置いても自己紹介」……なんだろ?」
「グッジョブ、流石は我が息子! 日頃の教育の賜物だな!」
 爽やかな笑顔で親指立てて見せるジェイソンと、冷やかに見つめるエマ。
 ファミリーネームの違う二人の関係性を不思議そうに見つめるジゼ。
「……夫婦……ですか?」
「そう見えるかぁ?」
 まんざらでもなさそうな顔をジェイソンがするも、
「違うわよ」
 エマは笑顔でバッサリ。
 ジゼが眉間にシワを寄せ、小首を傾げ、深く、深く困惑した表情を見せると、三人は顔を見合わせ、
「「「のちのち、な(ね)」」」
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