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1.始まりの章-7
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ただならぬ空気が漂う中、二人は割れたガラスを若干残す窓枠を外し、兄貴分は「小さな鏡」と「ロープ」を手に、窓から上半身を乗り出し、地上に向けて鏡で光を反射。
ロープの端をスルスルと下した。
地上では同じ防護服を着た作業者四人が待ち構え、光を合図で下りて来たロープに、成人男性の腕程の太さがある二本のケーブルのうち、まず一本を括りつけた。
ケーブルは建屋から離れた所に停車する二トントレーラー二台から、各々一本ずつ延びている。一本は「電源ケーブル」で、もう一本は通信用の「LANケーブル」。
一般家庭用ならば二本とも指先でつまめるサイズのケーブルであるが、人を数秒で死に至らしめる程の放射線が飛び交う中、通常のケーブルでは放射能の影響でデータの送受信など不可能であり、特殊なシールド加工を施した為、大人二人がかりで抱きかかえなければならない程の重量物と化していた。
鏡を使った合図も無線機が影響を受け、使用出来ないからである。
車両も特殊で、一台は膨大な電力消費を可能とする「電源車両」、もう一台は高性能コンピュータを多数搭載した「解析車両」である。使用する電力が大きければ大きいほど隣接する電子機器に対する影響も大きくなる為、別車両としているのである。
地上の四人はケーブルを括り終えると、階上で半身乗り出す兄貴分に鏡で合図。
兄貴分はロープを掴み、
「引き上げんぞぉ」
子分と共に、手繰り寄せ始めた。
「あ、兄貴ィ~重てぇっスぅ~」
「金の為だ、気合入れねぇ~かぁ!」
「ヒィ~~~~~~」
二人が額に汗する中、男は床に積った埃を手で払いながら何かを探していたが、
「あぁったぁ~」
気味の悪い歓声を上げると、床に見つけたスイッチを押下。と、同時に差込口が二つある一斗缶を横にした程のサイズのパネルが、床からせり上がって来た。
『シールド付き電源コネクタ挿入口』と『シールド付きLANコネクタ挿入口』
それは緊急時、研究室のデータを安全に救出する為に作られたパネルであり、セキュリティ対策として、挿入口は一般規格と異なる特殊形状をもしていた。
肩で息する兄貴分はケーブの端を男に差し出し、
「ハァ~ハァ~ハァ~先生さんよぉ~、ケーブルが、来たぜぇ~」
しかし男はケーブル先端の保護カバーを外すと、「ここに挿せ」と無言でジェスチャー。
そして二本目も。
汗もぬぐえず肩で息する「何でも屋」の二人。
「チッ、こっちは重労働だってのに、ねぎらいの言葉もなしかよ」
聞こえる様に毒づいたが、男は気にする素振りも見せずフラリと立ち上がり、
「さぁ~ジゼちゃ~ん。本当のパパが、お迎えに来まちたよぉ~」
再び薄気味悪い笑顔を浮かべ起動ボタンを押すと、隣室のコンピュータ達が一斉に激しい明滅を開始した。
やがて「ジョセフ」の卓上パソコンから、
ピィコロッ!
最新鋭のコンピュータとは思えない起動音、「電子音(ビープ音)」がすると、
「異常終了した事により、ソフトウェアの一部に破損が見受けられます。ソフトウェアの修復、および現状況に応じたパッチファイルを自動作成、アップデートを実行します」
機械的なジゼの声に、
「うぇへへへ。動いてるねぇ~。シールド処理が機能してるようだねぇ~」
ニヤリと薄ら笑うと、
「すげぇッスねぇ~兄貴ィ~。これが人工知能って、奴ッスすかぁ~?」
感嘆する子分に男は瞬間的に激高、真っ赤な顔して振り返り、
「こぅれぇは、単なる「テキスト読み上げソフト」だァ!」
「ヒィ!」
常軌を逸した剣幕に、慌てて兄貴分の背中に隠れる子分。
「ふぅひぃ~! ふぅひぃ~! ふぅひぃ~!」
防護服の奥で呼気荒く、真っ赤に血走る男の眼。
「ジゼをこんな玩具ソフトと一緒にするんじゃないッ!! 馬鹿どもが! これだから無能な一般人は!」
唾棄する様に吐き捨てると、スピーカーから、
「システム、オールグリーン。「プロジェクト・ジゼ」スタートします」
ジゼの声に男の表情が一変、歓喜の表情をパソコン上部のカメラレンズへ異常に近づけ、
「ジゼ~、ジゼちゃ~ん。待ったかぁ~い? パパが、お迎えに来まちたよぉ~」
薄ら笑いを浮かべた。
「「うわぁ……」」
鳥肌の立つ嫌悪感が漏れ出る二人。
男が執拗に何か話しかけるも、ジゼはまったく返事を返す気配を見せず、
「うぅ~ん? どぅちたのかなぁ~? 恥ずかちぃ~のかなぁ~?」
カメラを指先でツンツン。
すると先程まで機械的な受け答えしかしていなかったジゼが、急に怒気を含んだ声で、
「パパ、ママ、何故、殺した!」
「「「えっ!?」」」
驚愕する三人。
子分は驚きのあまり「人がいるのでは」と周囲を見回し、驚愕し、固まる男の表情は高揚へと移り変わり、ついには爆発するかの様に、
「すっ、すばらぁすぅいぃいぃぃぃぃいぃぃ!」
狂喜の絶叫を上げると、
「何事だ!」
騒ぎを聞きつけた軍曹が駆け込んで来るなり、
「聞き覚え、ある声! パパ、ママ、みんな、ナゼ殺した!」
「な!?」
状況が理解出来ず、たじろぐ軍曹。
しかし喜びに打ち震える男は、ジョセフと白川の頭蓋骨を両手に持ち、
「ジョセフぅ、白川ぁ、お前達は本当に天才だよぉ~! この僕が認めてあげるぅ! 僕が不在の一週間に何をしたんだぁい!? 軍曹、凄いだろーーーッ! これがジゼだッ!」
二人の頭蓋骨を高々と持ち上げクルリと回り、喜びの感情を体現して見せた。
「何故! 答え、求める! 理解不能!」
責める様に問うジゼに、軍曹は封じていた後ろめたさを唐突にこじ開けられ、
「に、任務だ! 国民と国益を守る事が、軍人としての私の使命だからだ!」
「パパ、ママ、みんな、異常無い! 危険、ない!」
「そもそもオマエが他国に居る事が異常なのだ! オマエは本来我が国の所有物だ!」
生真面目に持論を展開するも、話に無理がある事は百も承知していた。
しかし言い返せる言葉が、それしかなかったのである。
「パパ、最期、あなた達を恨むな、殺すなと! 意味、理解不能!」
「クッ……」
ジゼの言葉は心に重くのしかかり、奥歯を噛み締め押し黙る事しか出来なくなった。
すると子分が呆れた様に、
「ねぇねぇ兄貴ぃ~話だけ聞いてると、どっちが人間的なのか分かんないっスねぇ」
すかさず睨む軍曹に、
「ヒッ!」
兄貴分の背後に隠れると、軍曹は悲し気に顔を歪めてうつむき、
「それでも……それでも私が、先に逝った軍曹や仲間達にたむけられる花はこれしか……」
「ハイハイハイッ、そこまでぇ~」
男が不愉快そうな顔して割り込んだ。
「僕とジゼの門出に、ケチ付けないでもらえるかなぁ」
二人の頭骨を無造作に放り投げるとジョセフのパソコンを操作、動画チャットを立ち上げ、映った解析車両の若く生真面目そうな男性オペレーターに、
「君達、始めるよぉ~」
「了解しました、博士」
「でもぉ~」
「?」
「僕のジゼに何かあったら、タダじゃおかないからねぇ~」
うすら寒い笑顔を見せた途端、
「思い通り、ならない!」
強い口調のジゼ。
すると男は嘲笑うかの様にニヘラと笑い、
「残念だけどぉ、僕は最上位権限を持っているからねぇ。いくら拒否しようと、今日から君は僕の物だぁ。隅々まで解析してぇ、うぅ~ん、ボク好みに作り替えてあげるからねぇ~」
キーボードの「エンターキー(実行キー)」を勢い良く弾くと、解析車両へのローディングと同時に、施設のスーパーコンピュータ内データの完全デリートが同時実行された。
他者、他国へ、ジゼのデータが流失する事を防ぐ為の対策措置である。
ロープの端をスルスルと下した。
地上では同じ防護服を着た作業者四人が待ち構え、光を合図で下りて来たロープに、成人男性の腕程の太さがある二本のケーブルのうち、まず一本を括りつけた。
ケーブルは建屋から離れた所に停車する二トントレーラー二台から、各々一本ずつ延びている。一本は「電源ケーブル」で、もう一本は通信用の「LANケーブル」。
一般家庭用ならば二本とも指先でつまめるサイズのケーブルであるが、人を数秒で死に至らしめる程の放射線が飛び交う中、通常のケーブルでは放射能の影響でデータの送受信など不可能であり、特殊なシールド加工を施した為、大人二人がかりで抱きかかえなければならない程の重量物と化していた。
鏡を使った合図も無線機が影響を受け、使用出来ないからである。
車両も特殊で、一台は膨大な電力消費を可能とする「電源車両」、もう一台は高性能コンピュータを多数搭載した「解析車両」である。使用する電力が大きければ大きいほど隣接する電子機器に対する影響も大きくなる為、別車両としているのである。
地上の四人はケーブルを括り終えると、階上で半身乗り出す兄貴分に鏡で合図。
兄貴分はロープを掴み、
「引き上げんぞぉ」
子分と共に、手繰り寄せ始めた。
「あ、兄貴ィ~重てぇっスぅ~」
「金の為だ、気合入れねぇ~かぁ!」
「ヒィ~~~~~~」
二人が額に汗する中、男は床に積った埃を手で払いながら何かを探していたが、
「あぁったぁ~」
気味の悪い歓声を上げると、床に見つけたスイッチを押下。と、同時に差込口が二つある一斗缶を横にした程のサイズのパネルが、床からせり上がって来た。
『シールド付き電源コネクタ挿入口』と『シールド付きLANコネクタ挿入口』
それは緊急時、研究室のデータを安全に救出する為に作られたパネルであり、セキュリティ対策として、挿入口は一般規格と異なる特殊形状をもしていた。
肩で息する兄貴分はケーブの端を男に差し出し、
「ハァ~ハァ~ハァ~先生さんよぉ~、ケーブルが、来たぜぇ~」
しかし男はケーブル先端の保護カバーを外すと、「ここに挿せ」と無言でジェスチャー。
そして二本目も。
汗もぬぐえず肩で息する「何でも屋」の二人。
「チッ、こっちは重労働だってのに、ねぎらいの言葉もなしかよ」
聞こえる様に毒づいたが、男は気にする素振りも見せずフラリと立ち上がり、
「さぁ~ジゼちゃ~ん。本当のパパが、お迎えに来まちたよぉ~」
再び薄気味悪い笑顔を浮かべ起動ボタンを押すと、隣室のコンピュータ達が一斉に激しい明滅を開始した。
やがて「ジョセフ」の卓上パソコンから、
ピィコロッ!
最新鋭のコンピュータとは思えない起動音、「電子音(ビープ音)」がすると、
「異常終了した事により、ソフトウェアの一部に破損が見受けられます。ソフトウェアの修復、および現状況に応じたパッチファイルを自動作成、アップデートを実行します」
機械的なジゼの声に、
「うぇへへへ。動いてるねぇ~。シールド処理が機能してるようだねぇ~」
ニヤリと薄ら笑うと、
「すげぇッスねぇ~兄貴ィ~。これが人工知能って、奴ッスすかぁ~?」
感嘆する子分に男は瞬間的に激高、真っ赤な顔して振り返り、
「こぅれぇは、単なる「テキスト読み上げソフト」だァ!」
「ヒィ!」
常軌を逸した剣幕に、慌てて兄貴分の背中に隠れる子分。
「ふぅひぃ~! ふぅひぃ~! ふぅひぃ~!」
防護服の奥で呼気荒く、真っ赤に血走る男の眼。
「ジゼをこんな玩具ソフトと一緒にするんじゃないッ!! 馬鹿どもが! これだから無能な一般人は!」
唾棄する様に吐き捨てると、スピーカーから、
「システム、オールグリーン。「プロジェクト・ジゼ」スタートします」
ジゼの声に男の表情が一変、歓喜の表情をパソコン上部のカメラレンズへ異常に近づけ、
「ジゼ~、ジゼちゃ~ん。待ったかぁ~い? パパが、お迎えに来まちたよぉ~」
薄ら笑いを浮かべた。
「「うわぁ……」」
鳥肌の立つ嫌悪感が漏れ出る二人。
男が執拗に何か話しかけるも、ジゼはまったく返事を返す気配を見せず、
「うぅ~ん? どぅちたのかなぁ~? 恥ずかちぃ~のかなぁ~?」
カメラを指先でツンツン。
すると先程まで機械的な受け答えしかしていなかったジゼが、急に怒気を含んだ声で、
「パパ、ママ、何故、殺した!」
「「「えっ!?」」」
驚愕する三人。
子分は驚きのあまり「人がいるのでは」と周囲を見回し、驚愕し、固まる男の表情は高揚へと移り変わり、ついには爆発するかの様に、
「すっ、すばらぁすぅいぃいぃぃぃぃいぃぃ!」
狂喜の絶叫を上げると、
「何事だ!」
騒ぎを聞きつけた軍曹が駆け込んで来るなり、
「聞き覚え、ある声! パパ、ママ、みんな、ナゼ殺した!」
「な!?」
状況が理解出来ず、たじろぐ軍曹。
しかし喜びに打ち震える男は、ジョセフと白川の頭蓋骨を両手に持ち、
「ジョセフぅ、白川ぁ、お前達は本当に天才だよぉ~! この僕が認めてあげるぅ! 僕が不在の一週間に何をしたんだぁい!? 軍曹、凄いだろーーーッ! これがジゼだッ!」
二人の頭蓋骨を高々と持ち上げクルリと回り、喜びの感情を体現して見せた。
「何故! 答え、求める! 理解不能!」
責める様に問うジゼに、軍曹は封じていた後ろめたさを唐突にこじ開けられ、
「に、任務だ! 国民と国益を守る事が、軍人としての私の使命だからだ!」
「パパ、ママ、みんな、異常無い! 危険、ない!」
「そもそもオマエが他国に居る事が異常なのだ! オマエは本来我が国の所有物だ!」
生真面目に持論を展開するも、話に無理がある事は百も承知していた。
しかし言い返せる言葉が、それしかなかったのである。
「パパ、最期、あなた達を恨むな、殺すなと! 意味、理解不能!」
「クッ……」
ジゼの言葉は心に重くのしかかり、奥歯を噛み締め押し黙る事しか出来なくなった。
すると子分が呆れた様に、
「ねぇねぇ兄貴ぃ~話だけ聞いてると、どっちが人間的なのか分かんないっスねぇ」
すかさず睨む軍曹に、
「ヒッ!」
兄貴分の背後に隠れると、軍曹は悲し気に顔を歪めてうつむき、
「それでも……それでも私が、先に逝った軍曹や仲間達にたむけられる花はこれしか……」
「ハイハイハイッ、そこまでぇ~」
男が不愉快そうな顔して割り込んだ。
「僕とジゼの門出に、ケチ付けないでもらえるかなぁ」
二人の頭骨を無造作に放り投げるとジョセフのパソコンを操作、動画チャットを立ち上げ、映った解析車両の若く生真面目そうな男性オペレーターに、
「君達、始めるよぉ~」
「了解しました、博士」
「でもぉ~」
「?」
「僕のジゼに何かあったら、タダじゃおかないからねぇ~」
うすら寒い笑顔を見せた途端、
「思い通り、ならない!」
強い口調のジゼ。
すると男は嘲笑うかの様にニヘラと笑い、
「残念だけどぉ、僕は最上位権限を持っているからねぇ。いくら拒否しようと、今日から君は僕の物だぁ。隅々まで解析してぇ、うぅ~ん、ボク好みに作り替えてあげるからねぇ~」
キーボードの「エンターキー(実行キー)」を勢い良く弾くと、解析車両へのローディングと同時に、施設のスーパーコンピュータ内データの完全デリートが同時実行された。
他者、他国へ、ジゼのデータが流失する事を防ぐ為の対策措置である。
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