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続章_81
しおりを挟む 一夜明け―――
体育館に全校生徒が集められ、緊急の全校集会が開かれた。
校長から語られる、在校生の中から逮捕者が二名出た事の経緯。
そんな中、関係者であったハヤテ達を驚かせる一言が、校長の口から加えられた。
「えぇ~最後に急な話ではありますがぁ、養護教諭の『東(ひがし)アイ』先生が都合により昨日付で退職されました」
「「「「!?」」」」
寝耳に水。
驚きを隠せず、顔を見合わせるハヤテ、ヒカリ、サクラとツバサ。
「ご実家の都合につき、詳しい事は話せませんが、後任の先生につきましては……」
そこから先の話は、いっさい耳に入って来なかった。
校長の長話が終わるや否や、四人は猛ダッシュ。保健室を目指した。
体育館から校舎へ続く渡り廊下を駆け抜け、ひと気の無い廊下をひた走り、真っ先に保健室の扉に辿り着いたハヤテは勢い良く引き戸を開け放ち、
「先生ぇーーーッ!」
ヒカリ、サクラ、ツバサも追い着き、肩で息を切らせて保健室を覗くと、飾り気のない事務イスの肘掛けに頬杖を付き、斜に構えた黄が、 いつもと変わらぬ皮肉った笑みを口元に浮かべ、
「何だい何だい、相変わらず騒々しい連中だねぇ」
「先生……」
ヒカリ達は安堵した笑みを浮かべたが、その姿は蜃気楼のように消え去り、いつ来ても黄の存在が感じられた山積み書類が乗っていた机も、綺麗に、何の気配も感じられない、単なる事務机と化した。
「「「「…………」」」」
あまりに唐突な別れに、呆然と立ち尽くし、誰一人言葉が出ない。
主を失った保健室は、異様なほど静か。
何も考えられず、黄が使っていた机を放心して見つめていると、突如、ポンポンポンポンとリズム良く、四人揃って後頭部を本の様な物ではたかれ、
「「「「?」」」」
正気に戻り振り返ると、そこには困った笑みを浮かべるトキの顔があった。
「緊急の保護者会で、後の授業が休講になったと言っても、アタシのホームルームはあるんだ。さっさと教室に戻れぇ~。山形ツバサもなぁ」
「「「「…………」」」」
四人が暗い顔して押し黙ると、トキは小さなため息を一つ吐いてから満面の笑顔で、
「シケタ顔してるんじゃないよ! これが今生の別れな訳でもないだろう?」
しかしハヤテ達は知っている。
この別れには、再会が無い事を。
相手が一般人であればトキの言う通りであろうが、相手は身分を偽る潜入捜査官。
その彼女が何も言わずに姿を消したのであるから―――そう言う意味なのである。
そんな話をトキにする訳にはいかないハヤテであったが、気遣いに感謝し、
「そうっスねぇ……」
笑顔を返すと、トキは驚いた顔をした。
「な、何スか……先生……」
「いや意外だと思ってねぇ、東ハヤテ」
「?」
「オマエはもっとドライな奴だと思ってたんだが、そんな寂しげな笑顔もするんだなぁ」
「!」
今度はハヤテが驚いた顔をした。
するとトキがいきなり、
「おりゃ!」
ハヤテの頭を脇で抱え込んでヘッドロック。
からかう様な笑顔を浮かべ
「人と人の出会いに別れは付き物だろぉ? 辛気臭い顔してるんじゃないよぉ!」
「ギブギブ、先生ぇ苦しい! てか、胸、胸ぇ! 胸が顔に当たってぇ!」
「色気づいて何をいっちょ前に照れてるんだぁ、東ハヤテぇ~」
必要以上に胸をグイグイ押し付けると、過剰なスキンシップに我慢できなくなったヒカリが駆け寄り、
「と、トキ先生ぇ! ボクのハーくんを誘惑しないでおくれぇ!」
「チッチッチッ! 分かってないねぇ、東海林ヒカリィ~」
「え?」
「誘惑ってのは……」
トキは昇天しかけたハヤトの顔を正面に見据えると、
「こうする事だぁーーー!」
自身の胸の谷間にギュッとうずめた。
「あぁーーーッ! 胸に免疫のないハーくんに何て事するんだい、トキ先生ぇ!」
「アハハハハハ。東ハヤテぇ、たまには豊かな胸もイイモンだろうぉ!」
「上越先生殿ぉ、それはあんまりでありますぅ! 先生殿だってぇ、ご自身で言うほど!」
ツバサも堪らず参戦すると、
「ほぉほぉ~山形ツバサぁ~オマエも中々言うねぇ~」
トキは獲物を狙うかのような目で舌なめずり。絡みつくような視線に、
「ひぃ!」
ツバサは小さい悲鳴を上げてサクラの背に隠れた。
困惑笑いのサクラ。
トキの声の色から、一連の言動がサクラ達を励ます為である事を理解していたサクラもトキに感謝しつつ、雑談めいた口調で、
「上越先生は、アイ先生が辞めるのを知っていたんですか?」
するとトキが笑顔から一転。ジッと、食い入る様にサクラを見つめ、
「そう言えば九山サクラ……」
「へ?」
「オマエ……人と話す時、人の口元ばかり見てるよねぇ……」
「え!?」
「「「!」」」
ギョッとするサクラと、ハヤテ達。
「そ、それは……」
(ま、まさか私の能力がバレちゃったんじゃ……)
おののき後退ったが、トキは逃がさんとばかりに顔を寄せ、
「九山サクラ……オマエもしかして……」
(ひ、ひぃいぃぃっぃぃいいぃ!)
逃げ場無く、怯えて顔を背けると、
「未だにアタシを人見知りしてるのかぁ?」
「ほへぇ?」
「「「?」」」
キョトンとするサクラとハヤテ達。
四人の心の内の焦りを知る由もないトキは、困った笑みを浮かべ、
「オマエの人見知りが激しいのは知ってるが、そろそろ担任のアタシには慣れてくれても良いんじゃないのかぁ?」
「は、はい……え、えぇとぉ……それは……あの……」
予想外の問いかけに、しどろもどろサクラ。
助けを求めようとハヤテ達の方をチラリと見ると、トキに顔を両手で挟まれ、
「話している相手の目を見て話すぅ!」
強引にトキの方に向き直され、
「し、しぃましぇん(すみません)!」
目を見て謝罪すると、トキはニンマリ。
「結構ぉ!」
サクラの顔を開放。
「さてぇ、ホームルームだ。教室に戻るよ」
「「「はい」」」
「山形ツバサ、オマエも急いで教室に戻るんだよぉ」
「りょ、了解でありまぁす!」
敬礼し、各々教室へ戻ったハヤテ達は、ホームルームを終えると、いつも通りに揃って帰路に就いた。
体育館に全校生徒が集められ、緊急の全校集会が開かれた。
校長から語られる、在校生の中から逮捕者が二名出た事の経緯。
そんな中、関係者であったハヤテ達を驚かせる一言が、校長の口から加えられた。
「えぇ~最後に急な話ではありますがぁ、養護教諭の『東(ひがし)アイ』先生が都合により昨日付で退職されました」
「「「「!?」」」」
寝耳に水。
驚きを隠せず、顔を見合わせるハヤテ、ヒカリ、サクラとツバサ。
「ご実家の都合につき、詳しい事は話せませんが、後任の先生につきましては……」
そこから先の話は、いっさい耳に入って来なかった。
校長の長話が終わるや否や、四人は猛ダッシュ。保健室を目指した。
体育館から校舎へ続く渡り廊下を駆け抜け、ひと気の無い廊下をひた走り、真っ先に保健室の扉に辿り着いたハヤテは勢い良く引き戸を開け放ち、
「先生ぇーーーッ!」
ヒカリ、サクラ、ツバサも追い着き、肩で息を切らせて保健室を覗くと、飾り気のない事務イスの肘掛けに頬杖を付き、斜に構えた黄が、 いつもと変わらぬ皮肉った笑みを口元に浮かべ、
「何だい何だい、相変わらず騒々しい連中だねぇ」
「先生……」
ヒカリ達は安堵した笑みを浮かべたが、その姿は蜃気楼のように消え去り、いつ来ても黄の存在が感じられた山積み書類が乗っていた机も、綺麗に、何の気配も感じられない、単なる事務机と化した。
「「「「…………」」」」
あまりに唐突な別れに、呆然と立ち尽くし、誰一人言葉が出ない。
主を失った保健室は、異様なほど静か。
何も考えられず、黄が使っていた机を放心して見つめていると、突如、ポンポンポンポンとリズム良く、四人揃って後頭部を本の様な物ではたかれ、
「「「「?」」」」
正気に戻り振り返ると、そこには困った笑みを浮かべるトキの顔があった。
「緊急の保護者会で、後の授業が休講になったと言っても、アタシのホームルームはあるんだ。さっさと教室に戻れぇ~。山形ツバサもなぁ」
「「「「…………」」」」
四人が暗い顔して押し黙ると、トキは小さなため息を一つ吐いてから満面の笑顔で、
「シケタ顔してるんじゃないよ! これが今生の別れな訳でもないだろう?」
しかしハヤテ達は知っている。
この別れには、再会が無い事を。
相手が一般人であればトキの言う通りであろうが、相手は身分を偽る潜入捜査官。
その彼女が何も言わずに姿を消したのであるから―――そう言う意味なのである。
そんな話をトキにする訳にはいかないハヤテであったが、気遣いに感謝し、
「そうっスねぇ……」
笑顔を返すと、トキは驚いた顔をした。
「な、何スか……先生……」
「いや意外だと思ってねぇ、東ハヤテ」
「?」
「オマエはもっとドライな奴だと思ってたんだが、そんな寂しげな笑顔もするんだなぁ」
「!」
今度はハヤテが驚いた顔をした。
するとトキがいきなり、
「おりゃ!」
ハヤテの頭を脇で抱え込んでヘッドロック。
からかう様な笑顔を浮かべ
「人と人の出会いに別れは付き物だろぉ? 辛気臭い顔してるんじゃないよぉ!」
「ギブギブ、先生ぇ苦しい! てか、胸、胸ぇ! 胸が顔に当たってぇ!」
「色気づいて何をいっちょ前に照れてるんだぁ、東ハヤテぇ~」
必要以上に胸をグイグイ押し付けると、過剰なスキンシップに我慢できなくなったヒカリが駆け寄り、
「と、トキ先生ぇ! ボクのハーくんを誘惑しないでおくれぇ!」
「チッチッチッ! 分かってないねぇ、東海林ヒカリィ~」
「え?」
「誘惑ってのは……」
トキは昇天しかけたハヤトの顔を正面に見据えると、
「こうする事だぁーーー!」
自身の胸の谷間にギュッとうずめた。
「あぁーーーッ! 胸に免疫のないハーくんに何て事するんだい、トキ先生ぇ!」
「アハハハハハ。東ハヤテぇ、たまには豊かな胸もイイモンだろうぉ!」
「上越先生殿ぉ、それはあんまりでありますぅ! 先生殿だってぇ、ご自身で言うほど!」
ツバサも堪らず参戦すると、
「ほぉほぉ~山形ツバサぁ~オマエも中々言うねぇ~」
トキは獲物を狙うかのような目で舌なめずり。絡みつくような視線に、
「ひぃ!」
ツバサは小さい悲鳴を上げてサクラの背に隠れた。
困惑笑いのサクラ。
トキの声の色から、一連の言動がサクラ達を励ます為である事を理解していたサクラもトキに感謝しつつ、雑談めいた口調で、
「上越先生は、アイ先生が辞めるのを知っていたんですか?」
するとトキが笑顔から一転。ジッと、食い入る様にサクラを見つめ、
「そう言えば九山サクラ……」
「へ?」
「オマエ……人と話す時、人の口元ばかり見てるよねぇ……」
「え!?」
「「「!」」」
ギョッとするサクラと、ハヤテ達。
「そ、それは……」
(ま、まさか私の能力がバレちゃったんじゃ……)
おののき後退ったが、トキは逃がさんとばかりに顔を寄せ、
「九山サクラ……オマエもしかして……」
(ひ、ひぃいぃぃっぃぃいいぃ!)
逃げ場無く、怯えて顔を背けると、
「未だにアタシを人見知りしてるのかぁ?」
「ほへぇ?」
「「「?」」」
キョトンとするサクラとハヤテ達。
四人の心の内の焦りを知る由もないトキは、困った笑みを浮かべ、
「オマエの人見知りが激しいのは知ってるが、そろそろ担任のアタシには慣れてくれても良いんじゃないのかぁ?」
「は、はい……え、えぇとぉ……それは……あの……」
予想外の問いかけに、しどろもどろサクラ。
助けを求めようとハヤテ達の方をチラリと見ると、トキに顔を両手で挟まれ、
「話している相手の目を見て話すぅ!」
強引にトキの方に向き直され、
「し、しぃましぇん(すみません)!」
目を見て謝罪すると、トキはニンマリ。
「結構ぉ!」
サクラの顔を開放。
「さてぇ、ホームルームだ。教室に戻るよ」
「「「はい」」」
「山形ツバサ、オマエも急いで教室に戻るんだよぉ」
「りょ、了解でありまぁす!」
敬礼し、各々教室へ戻ったハヤテ達は、ホームルームを終えると、いつも通りに揃って帰路に就いた。
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