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続章_80
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チカラなくうなだれ、事実の全てを語った加津佐。
「東ハヤテ……いつから私が怪しいと思っていたんだ……」
「確信を持ったのは、ツバサが襲撃を受けた後、新津屋先輩と俺達の教室に来た日ですよ」
「……?」
「女性の細腕で硬いパソコンにナイフを突き立てて、利き手の手首を痛めてたんですよね?」
「!」
「あの日だけ、千穂先輩を左手で叩いて痛がらせてましたから。仲の良い友達を、加減の難しい手で突っ込んでいたのが気になりましてね」
「…………」
「漫才で、ボケとツッコミの立ち位置はいつも一緒。まぁそれはともかく……違和感ダケは初めから感じてましたよ」
「それはどう言う、」
「サクラの家の周りをウロついていたストーカーが、学校の制服を着ていた事ですよ。わざわざ学校の制服を着て、身元バレのリスクを冒すのは無意味な行為っスからねぇ。私服でやってれば、ストーカー規制法違反で捕まったあの男に、放火の罪を着せられていたかも知れないっスから」
「なるほどな……私はやり過ぎてしまっていたと言う訳か……」
「心理を捻じ曲げた犯罪行為に完璧は無いんスよ、南先輩。まぁ、その綻びを見出せるかは別の話ですけど」
ハヤテは口元に微かな笑みを浮かべ、
「ですよねぇ、新津屋先輩」
「…………」
いつも通りの作り笑顔のまま、何も答えずハヤトを見つめる新津屋。
(ハヤテくん……? どう言う意味なんだろ……)
二人の間に漂う微妙な空気に、サクラが違和感を感じていると、
「ねぇ、ハーくん。どうでも良いけど、大事な彼女に、いつまで余所の男を押し倒させておくんだい?」
ハヤトを押さえつけた格好のまま、皮肉るヒカリ。
ハヤテは申し訳なさげな笑みを浮かべ、
「悪い悪い、ヒカリ。ほらぁ、お出迎えが来たから」
飛ばした視線の先、廊下の暗がりの奥から警察官達が姿を現した。
「連絡のあった生徒二人と言うのは?」
毅然とした表情の警察官の一人に、ハヤテはハンカチに包んだナイフを渡しつつ、
「あの子が取り押さえている男子生徒と……」
「私です……」
抜け殻の様にうつむいた加津佐が歩み出た。
「うむ。では行こうか」
警察官達はハヤトと加津佐を連れ立ち、
「後で君達にも事情を聞くので、理解はしておいてくれたまえ」
その場を去ろうとすると、
「ハッハッハッ。すみません、少々よろしいでしょうかな?」
新津屋が警察官達を立ち止まらせ、
「彼女は私の右腕として働いてくれた功労者なのです。一言だけ、話をさせていただいてよろしいかな?」
「「「「…………」」」」
警察官達は顔を見合わせ、
「良いだろう」
「ハッハッハッ。感謝します」
新津屋はうつむく加津佐に歩み寄り、彼女の耳元に、
『…………』
何かを囁いた。
加津佐が、魂の抜け殻の様であった表情から一転、
「ありがとうございました」
目元に薄っすら涙を浮かべて微笑むと、
「では、行こうか」
「……はい」
警察官の声に小さく頷き、無言のハヤトと共に暗闇の奥へ消えて行った。
立ち尽くすハヤテ達を前に、
「ハッハッハッ。残念ではあるが、これも彼女の選択。やむを得まい」
新津屋が、憂いも、陰りも感じさせない口調で振り返り、
「では、私達はこれで失礼するよ」
いつも通り、上着をマントの様にたなびかせて背を向けると、千穂もいつも通りの無表情のまま、同じように上着をたなびかせて背を向け、新津屋と共に暗がりへ消えて行った。
「「「「…………」」」」
何とも言葉に出来ない、複雑な表情で見送るハヤテ達。
するとミズホが、おもむろに深々と頭を下げ、
「皆皆様には、大変ご迷惑をお掛け致しました……この謝罪は日を改めて……」
上げた顔は、あまりに沈痛。ハヤテ達は何も言う事が出来なかった。
気休めの薄い言葉をいくら並べても、今の彼女を傷つけるだけとしか思えなかったから。
足取り重く、暗がりへと消えていくミズホの小さな背を、ただ見送った。
自分たちの手で犯人を捕まえる事が出来たハヤテ達。
「なんか……釈然としないでありますね……」
胸の内に、モヤモヤを抱えた顔をするツバサ。
「うん……」
(なんで……こんなにスッキリしないんだろ……)
サクラも心に曇りを抱えたまま、ミズホ達が姿を消した暗がりを見つめていると、ヒカリが沈む空気を一変させる明るい口調で、
「ハーくん、一つ嘘をついたね」
イタズラっぽい声を上げた。
「ん? 何の事だ?」
しらばっくれるハヤテに、
「加津佐先輩が犯人なの、盗聴器の時点で気付いてたんだよねぇ?」
「「え!?」」
驚いて振り向くサクラとツバサ。
ハヤテは観念したように頭を掻き、
「まぁな」
「「!」」
サクラとツバサの胸の内に、「その時何か出来たのでは」との思いがよぎったが、ハヤテは二人の心の内を察し、
「あの時点では、世間的に認められる証拠が無かった。俺とサクラの能力を晒す訳にもいかないしな。俺にとっての最優先事項は……」
ヒカリ、サクラ、ツバサの三人を見つめた。
「ニヒヒヒヒィ」
嬉しそうに笑うヒカリ。
「…………」
恥ずかしそうに、無言ではにかむサクラ。
「いやぁ~あはははは」
照れ臭そうに笑って誤魔化すツバサ。
三人娘の三者三葉の反応に、少し赤い顔したハヤテが、
「俺達も帰るかぁ」
背を向けると、ヒカリ達は顔を見合わせ、
「そうだね!」
「そうしよ!」
「そうしましょう!」
四人は歩き始めた。
「ツバサちゃん、夜遅いから、うちに泊まって行きなよ」
「そうですかぁ? じゃあ、お泊りさせていただこうかなぁ~」
笑い合うヒカリとツバサ。ふと、無言でうつむき歩くサクラが気に掛かり、
「サクラちゃん、どうかした?」
「サクラさん、浮かない顔して、どうかしましたか?」
サクラはハッとした顔を上げ、
「う、ううん、何でもないよ! お泊り、楽しみだねぇ!」
「だねぇ~」
「ハイでぇす!」
心配させまいと二人に笑顔を向けたが、
(新津屋先輩が南先輩に何か囁いたあの時……奥に一瞬見えた「あの色」は何だったんだろ……)
心に微かな騒めきを残すサクラであった。
「東ハヤテ……いつから私が怪しいと思っていたんだ……」
「確信を持ったのは、ツバサが襲撃を受けた後、新津屋先輩と俺達の教室に来た日ですよ」
「……?」
「女性の細腕で硬いパソコンにナイフを突き立てて、利き手の手首を痛めてたんですよね?」
「!」
「あの日だけ、千穂先輩を左手で叩いて痛がらせてましたから。仲の良い友達を、加減の難しい手で突っ込んでいたのが気になりましてね」
「…………」
「漫才で、ボケとツッコミの立ち位置はいつも一緒。まぁそれはともかく……違和感ダケは初めから感じてましたよ」
「それはどう言う、」
「サクラの家の周りをウロついていたストーカーが、学校の制服を着ていた事ですよ。わざわざ学校の制服を着て、身元バレのリスクを冒すのは無意味な行為っスからねぇ。私服でやってれば、ストーカー規制法違反で捕まったあの男に、放火の罪を着せられていたかも知れないっスから」
「なるほどな……私はやり過ぎてしまっていたと言う訳か……」
「心理を捻じ曲げた犯罪行為に完璧は無いんスよ、南先輩。まぁ、その綻びを見出せるかは別の話ですけど」
ハヤテは口元に微かな笑みを浮かべ、
「ですよねぇ、新津屋先輩」
「…………」
いつも通りの作り笑顔のまま、何も答えずハヤトを見つめる新津屋。
(ハヤテくん……? どう言う意味なんだろ……)
二人の間に漂う微妙な空気に、サクラが違和感を感じていると、
「ねぇ、ハーくん。どうでも良いけど、大事な彼女に、いつまで余所の男を押し倒させておくんだい?」
ハヤトを押さえつけた格好のまま、皮肉るヒカリ。
ハヤテは申し訳なさげな笑みを浮かべ、
「悪い悪い、ヒカリ。ほらぁ、お出迎えが来たから」
飛ばした視線の先、廊下の暗がりの奥から警察官達が姿を現した。
「連絡のあった生徒二人と言うのは?」
毅然とした表情の警察官の一人に、ハヤテはハンカチに包んだナイフを渡しつつ、
「あの子が取り押さえている男子生徒と……」
「私です……」
抜け殻の様にうつむいた加津佐が歩み出た。
「うむ。では行こうか」
警察官達はハヤトと加津佐を連れ立ち、
「後で君達にも事情を聞くので、理解はしておいてくれたまえ」
その場を去ろうとすると、
「ハッハッハッ。すみません、少々よろしいでしょうかな?」
新津屋が警察官達を立ち止まらせ、
「彼女は私の右腕として働いてくれた功労者なのです。一言だけ、話をさせていただいてよろしいかな?」
「「「「…………」」」」
警察官達は顔を見合わせ、
「良いだろう」
「ハッハッハッ。感謝します」
新津屋はうつむく加津佐に歩み寄り、彼女の耳元に、
『…………』
何かを囁いた。
加津佐が、魂の抜け殻の様であった表情から一転、
「ありがとうございました」
目元に薄っすら涙を浮かべて微笑むと、
「では、行こうか」
「……はい」
警察官の声に小さく頷き、無言のハヤトと共に暗闇の奥へ消えて行った。
立ち尽くすハヤテ達を前に、
「ハッハッハッ。残念ではあるが、これも彼女の選択。やむを得まい」
新津屋が、憂いも、陰りも感じさせない口調で振り返り、
「では、私達はこれで失礼するよ」
いつも通り、上着をマントの様にたなびかせて背を向けると、千穂もいつも通りの無表情のまま、同じように上着をたなびかせて背を向け、新津屋と共に暗がりへ消えて行った。
「「「「…………」」」」
何とも言葉に出来ない、複雑な表情で見送るハヤテ達。
するとミズホが、おもむろに深々と頭を下げ、
「皆皆様には、大変ご迷惑をお掛け致しました……この謝罪は日を改めて……」
上げた顔は、あまりに沈痛。ハヤテ達は何も言う事が出来なかった。
気休めの薄い言葉をいくら並べても、今の彼女を傷つけるだけとしか思えなかったから。
足取り重く、暗がりへと消えていくミズホの小さな背を、ただ見送った。
自分たちの手で犯人を捕まえる事が出来たハヤテ達。
「なんか……釈然としないでありますね……」
胸の内に、モヤモヤを抱えた顔をするツバサ。
「うん……」
(なんで……こんなにスッキリしないんだろ……)
サクラも心に曇りを抱えたまま、ミズホ達が姿を消した暗がりを見つめていると、ヒカリが沈む空気を一変させる明るい口調で、
「ハーくん、一つ嘘をついたね」
イタズラっぽい声を上げた。
「ん? 何の事だ?」
しらばっくれるハヤテに、
「加津佐先輩が犯人なの、盗聴器の時点で気付いてたんだよねぇ?」
「「え!?」」
驚いて振り向くサクラとツバサ。
ハヤテは観念したように頭を掻き、
「まぁな」
「「!」」
サクラとツバサの胸の内に、「その時何か出来たのでは」との思いがよぎったが、ハヤテは二人の心の内を察し、
「あの時点では、世間的に認められる証拠が無かった。俺とサクラの能力を晒す訳にもいかないしな。俺にとっての最優先事項は……」
ヒカリ、サクラ、ツバサの三人を見つめた。
「ニヒヒヒヒィ」
嬉しそうに笑うヒカリ。
「…………」
恥ずかしそうに、無言ではにかむサクラ。
「いやぁ~あはははは」
照れ臭そうに笑って誤魔化すツバサ。
三人娘の三者三葉の反応に、少し赤い顔したハヤテが、
「俺達も帰るかぁ」
背を向けると、ヒカリ達は顔を見合わせ、
「そうだね!」
「そうしよ!」
「そうしましょう!」
四人は歩き始めた。
「ツバサちゃん、夜遅いから、うちに泊まって行きなよ」
「そうですかぁ? じゃあ、お泊りさせていただこうかなぁ~」
笑い合うヒカリとツバサ。ふと、無言でうつむき歩くサクラが気に掛かり、
「サクラちゃん、どうかした?」
「サクラさん、浮かない顔して、どうかしましたか?」
サクラはハッとした顔を上げ、
「う、ううん、何でもないよ! お泊り、楽しみだねぇ!」
「だねぇ~」
「ハイでぇす!」
心配させまいと二人に笑顔を向けたが、
(新津屋先輩が南先輩に何か囁いたあの時……奥に一瞬見えた「あの色」は何だったんだろ……)
心に微かな騒めきを残すサクラであった。
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