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続章_74
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数日後の深夜、ハヤテ達の通う高校―――
人気のなくなった暗い構内を歩く、一つの人影。
何故か足音はしない。
やがて人影は迷う事無く、とある部屋の扉の前で止まった。
扉の上に掲げられた教室札には『生徒会室』の文字。
人影はズボンのポケットから鍵を取り出し、扉を解錠すると、物音をたてないよう慎重に引き戸を開け、室内へ入った。
引き戸を静かに閉めると、月明りしか差し込まない薄暗い室内で、どこに何が置かれているのか熟知しているかの様に、壁に据え付けられた棚に向かって一直線。
ライトも点けずに物色し始めると、突如入り口の引き戸が「ガラッ!」っと勢いよく開き、戸口に女子生徒と思われるシルエットが姿を露わにした。
「!」
驚きのあまりにビクリと身を震わす侵入者は、小型のナイフを取り出し女子生徒に向かって猛突進。
しかし月明りを背にした女子生徒は、怯むどころか迫る侵入者と交錯しそうになった瞬間、月に神楽でも奉納するかのように舞い、侵入者を巻き込む動作で刃物を持った腕を取って、その場にねじ伏せた。
「グッ!」
短い悲鳴を上げる侵入者。
その声は男であったが、月明りの下に晒されたその顔は、目と口しか開いていないニット帽で隠されていた。
「大丈夫かぁ?」
廊下の奥、暗がりの中から姿を現すハヤテ。
「愚問だねぇ、誰に言ってるんだい?」
押さえつけられた肩越し、空いた穴から背に乗る女子生徒を見て、ギョッとする侵入者。
押さえつけたのはヒカリであった。
「ハーくんの隣に立つことを決めた時から、覚悟なんて出来てるさぁ♪」
月明りに、キラキラと輝く笑顔を見せ、
「そ、そうかよぉ……」
ハヤテは照れ臭そうに赤い顔して視線を逸らしつつ、懐からハンカチを取り出し、不審者の手にするナイフを包む様に取り上げた。
すると廊下の奥の暗がりから、
「でも、ヒカリちゃんにケガがなくて良かったぁ~」
姿を現すサクラであったが、ヒカリのあられもない姿にギョッとした。
制服のミニスカートであるにもかかわらず、大股開きで、侵入者の腕を取り、背中で押さえつけていたのである。
「ひっ、ヒカリちゃん! スカート! スカートォ!」
真っ赤な顔して慌てると、暗がりからツバサも慌てて飛び出して来て、
「つっ、月明りで見えちゃいますよぉ、ヒカリちゃん!」
しかし右腕一本で不法侵入者を押さえつけているヒカリは、どこ吹く風。
空いている左手でスカートの裾をヒラヒラめくり、
「(下に)履いてるから大丈夫だよぉ♪ 荒事になるのは目に見えていたからねぇ」
気にした素振りも見せずに屈託ない笑顔。
((さすが……))
思わず感嘆を漏らす女子のサクラとツバサであったが、男子のハヤテは自分の事の様に赤面して顔をそむけ、
「だ、だからって、女が人前でスカートをヒラヒラめくり上げてんじゃねぇよぉ」
「ニヒヒヒヒ。怒られちゃったぁ」
さして身に応えていない笑顔を返すヒカリ。
何とも微笑ましく思えるやり取りではあるが、ケラケラと笑うヒカリの下には、一昔前のレスラーの様なニット帽を被った不法侵入者。
そんな不可思議な光景を繰り広げるハヤテ達の下へ、廊下の奥の暗がりの中から、更なる何者か達が近づいて来た。
人気のなくなった暗い構内を歩く、一つの人影。
何故か足音はしない。
やがて人影は迷う事無く、とある部屋の扉の前で止まった。
扉の上に掲げられた教室札には『生徒会室』の文字。
人影はズボンのポケットから鍵を取り出し、扉を解錠すると、物音をたてないよう慎重に引き戸を開け、室内へ入った。
引き戸を静かに閉めると、月明りしか差し込まない薄暗い室内で、どこに何が置かれているのか熟知しているかの様に、壁に据え付けられた棚に向かって一直線。
ライトも点けずに物色し始めると、突如入り口の引き戸が「ガラッ!」っと勢いよく開き、戸口に女子生徒と思われるシルエットが姿を露わにした。
「!」
驚きのあまりにビクリと身を震わす侵入者は、小型のナイフを取り出し女子生徒に向かって猛突進。
しかし月明りを背にした女子生徒は、怯むどころか迫る侵入者と交錯しそうになった瞬間、月に神楽でも奉納するかのように舞い、侵入者を巻き込む動作で刃物を持った腕を取って、その場にねじ伏せた。
「グッ!」
短い悲鳴を上げる侵入者。
その声は男であったが、月明りの下に晒されたその顔は、目と口しか開いていないニット帽で隠されていた。
「大丈夫かぁ?」
廊下の奥、暗がりの中から姿を現すハヤテ。
「愚問だねぇ、誰に言ってるんだい?」
押さえつけられた肩越し、空いた穴から背に乗る女子生徒を見て、ギョッとする侵入者。
押さえつけたのはヒカリであった。
「ハーくんの隣に立つことを決めた時から、覚悟なんて出来てるさぁ♪」
月明りに、キラキラと輝く笑顔を見せ、
「そ、そうかよぉ……」
ハヤテは照れ臭そうに赤い顔して視線を逸らしつつ、懐からハンカチを取り出し、不審者の手にするナイフを包む様に取り上げた。
すると廊下の奥の暗がりから、
「でも、ヒカリちゃんにケガがなくて良かったぁ~」
姿を現すサクラであったが、ヒカリのあられもない姿にギョッとした。
制服のミニスカートであるにもかかわらず、大股開きで、侵入者の腕を取り、背中で押さえつけていたのである。
「ひっ、ヒカリちゃん! スカート! スカートォ!」
真っ赤な顔して慌てると、暗がりからツバサも慌てて飛び出して来て、
「つっ、月明りで見えちゃいますよぉ、ヒカリちゃん!」
しかし右腕一本で不法侵入者を押さえつけているヒカリは、どこ吹く風。
空いている左手でスカートの裾をヒラヒラめくり、
「(下に)履いてるから大丈夫だよぉ♪ 荒事になるのは目に見えていたからねぇ」
気にした素振りも見せずに屈託ない笑顔。
((さすが……))
思わず感嘆を漏らす女子のサクラとツバサであったが、男子のハヤテは自分の事の様に赤面して顔をそむけ、
「だ、だからって、女が人前でスカートをヒラヒラめくり上げてんじゃねぇよぉ」
「ニヒヒヒヒ。怒られちゃったぁ」
さして身に応えていない笑顔を返すヒカリ。
何とも微笑ましく思えるやり取りではあるが、ケラケラと笑うヒカリの下には、一昔前のレスラーの様なニット帽を被った不法侵入者。
そんな不可思議な光景を繰り広げるハヤテ達の下へ、廊下の奥の暗がりの中から、更なる何者か達が近づいて来た。
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