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続章_59

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 数日後の放課後―――
「さぁ皆さん! 今日は部活も無いので帰りましょう!」
 この世の終わりの様な顔から一変、全く不安を感じさせない幸福に満ち足りた、満面の笑顔のツバサ。
 昨日、落ち込むツバサを気遣ったハヤテが「俺が守ってやるか大丈夫だ」と発言した結果、ツバサの不安は消し飛び、有頂天に逆戻りしたのである。
 帰り道、幸せいっぱいの緩んだ笑顔でハヤテと並び歩くツバサ。
 そして二人の少し後ろを、少し遅れて歩くヒカリとサクラ。
「ツバサちゃんは、たくましいねぇ」
 半ば呆れた様に笑うヒカリに、
「う、うん……」
(少し羨ましい……なんて思うのは、不謹慎だよねぇ……)
 内心では羨ましさを隠しきれず、そんな事を思う自身を自嘲するサクラ。
 やがて四人は駅へ向かう分かれ道に差し掛かり、ハヤテは満面の笑顔のツバサと共に振り返り、
「ヒカリ、サクラ、また明日なぁ」
「では、ヒカリちゃん! サクラさん! また明日!」
「うん、また明日ねぇ。ハーくん、ツバサちゃんを頼んだよ!」
「ツバサちゃん、ハヤテくん、また明日」
 二人が手を振ると、
「ではハヤテ君、行きましょう!」
 ツバサはハヤテと共に、夕陽に赤く染まる家路を駅へと向かい遠ざかって行った。
(いつまで続くんだろう……)
 サクラが胸の奥に微かな痛みを感じていると、
「いつまで続くんだろ……」
「え!?」
 ヒカリの呟きに、サクラはギョッとした。
(私、声に出してないよねぇ!?)
 心を見透かされた様な思いに囚われ、おののいていると、期せずして呟いてしまったヒカリも慌てた様子で、
「あ、ごめん、サクラちゃん! 何か聞こえちゃったぁ!?」
 フルフルと、首を横に振るサクラに、
「な、何でもないんだ! ホント! だからさぁ、ボク達も家に帰ろう!」
 屈託ない笑顔を見せて歩き出すヒカリであったが、声の色を見なくても分かる、笑顔の中に滲む、言葉に余る寂しさ。
 理解出来るのは、サクラも同じ気持ちだから。
(ヒカリちゃんも、(ツバサちゃんの為に)必死に我慢してるんだ……)
 それが分かるとクヨクヨしていられず、サクラは精一杯の笑顔で、
「ヒカリちゃん! もうプレゼント用意した?」
 その笑顔に、
「まだだけど、なんでも良いんじゃなぁい?」
 精一杯の笑顔を返すヒカリ。
「ちゃんと気持ちを込めないとダメだよ~」
「えぇ~面倒臭いなぁ~~~」
 心に寂しさを抱えた二人の少女は、お互いの心を支え合う様に寄り添い、夕陽の中へ消えて行った。

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