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続章_52
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学校の中庭に出る四人。
沈み始めた陽に染まる校舎の中からは、吹奏楽部の演奏や、生徒達の笑い声が聞こえ、校庭には様々な運動部の声掛けが響き渡っていた。
そんな中、花壇の花や学校の設備、茜色の空など、思い思いに撮影するハヤテ達。
予め決めていた撮影時間の三十分を区切りに、保健室へと戻った。
それぞれカメラから記録カードを抜き取り、自分のノートパソコンに差し込んだ。撮影したデータを、直接ノートパソコンに取り込む為である。
基本的にはカメラとパソコンをケーブルで繋いでデータ転送しても問題ないのだが、データ転送中にトラブルを起こした場合、写真データを失う事になってしまったり、大量の写真を転送する事で発するカメラ本体の熱でカメラが負荷を追い、動作不良や故障の原因になったりと様々なリスクを伴う事がある為、ハヤテはあえてこの方式を三人娘に教えたである。
頭ごなしではなく、理由を説明した上で。
ハヤテは、三人娘が一通り写真データをパソコンに取り込み終わったタイミングを見計らい、
「自分で撮った写真を見てどうだ? イメージ通りに撮れなかったのとかあるかぁ?」
すると三人は口を揃えて、
「「「全部ぅ~~~」」」
ため息交じり。
ハヤテの写真を見た事があるのだから、比較し、そう思ってしまうのはやむを得ない事ではあるが、ハヤテは揃って嘆く三人娘の姿に思わず笑いながら、
「どんな事だって、最初からうまく出来たら世話ないさ。じゃあ、先ずサクラのから見せてくれよ」
サクラの周りに集まるハヤテ、ヒカリ、ツバサ。
「みょ、妙に緊張するね」
少し照れ臭そうなサクラに、ハヤテは笑みを浮かべ、
「記念写真と違って、自分の心を通して撮る、アート作品だからな。自分の心の一部を見られている気持ちになるんだよ」
「うぅ~そう聞くと、余計に恥ずかしい……」
赤面して両手で顔を隠すと、笑みを浮かべるハヤテが画面を覗き込み、
「でぇ? どの写真を、どうしたいんだ?」
「う、うん……」
頬をほんのり桜色に染めたサクラは、一枚のサムネイルをクリックして拡大表示させ、
「どの写真もそうなんだけど、私の写真って、ハヤテくんの写真と違って、みんな真ん中なの……どうすればハヤテくんの写真みたいに、主役? の場所を動かせるの?」
確かにサクラの言う通り、サクラが撮った花などは、みな写真のど真ん中にドンと写った物ばかり。
するとハヤテは一目見るなり、
「日の丸写真かぁ~」
「「「?」」」
「日の丸写真ってのは、撮りたい物が真ん中にデェンと写ってる写真の事さ。日本の国旗や、白米に梅干しが一個だけ乗った「弁当」みたいな写り方だろ?」
「なるほどねぇ」
「言われてみると、確かにそうでありますね」
「ハヤテくん、どうすれば良いの?」
「フォーカスロックを使えば簡単だぞ」
「「「?」」」
「サクラ、カメラを構えてファインダーを覗いてみな」
「「ふぁいんだ」って、覗き窓の事だよね」
「あぁ。それで黄先生にカメラを向けて見な」
「う、うん」
言われるがまま、カメラを黄に向けて構えるサクラ。
「ちょ、馬鹿ぁ、コッチ向けんじゃないよぉ!」
慌てて背を向ける黄に、
「背中を借りるだけっスよぉ」
ニッと笑うハヤテ。
「い、良いの?」
「ネットにアップする訳じゃないんだ。構わないさぁ」
「それをアンタが言うんじゃないよ!」
手で顔を隠しつつ、不服を漏らす黄。
「あはははは。それよりサクラ、黄先生の背中にピントが合ったら、指はそのままシャッターを切ら……えぇ~と、ボタンを押し込まないで、カメラを少し動かしてみな」
「う、うん……」
半信半疑のまま、先ずは黄の背中にレンズを向けてシャッターボタンを軽く押した。
ピィピィッと電子音を立て、ピントが合った事を知らせるカメラ。
サクラは言われた通り、それ以上ボタンを押し込まず、カメラを少し右へ動かしてみると、
「あれ? 画面がぼやけない?」
「それがフォーカスロックさ。撮影したい対象にピントを合わせたまま、構図を変える事が出来るんだ」
「へぇ~~~」
興味深げに、部屋のあちこちにレンズを向け、フォーカスロックを試すサクラ。
「今のカメラには同じフォーカスロックでも、追従型とか……まぁ、それはおいおいな」
沈み始めた陽に染まる校舎の中からは、吹奏楽部の演奏や、生徒達の笑い声が聞こえ、校庭には様々な運動部の声掛けが響き渡っていた。
そんな中、花壇の花や学校の設備、茜色の空など、思い思いに撮影するハヤテ達。
予め決めていた撮影時間の三十分を区切りに、保健室へと戻った。
それぞれカメラから記録カードを抜き取り、自分のノートパソコンに差し込んだ。撮影したデータを、直接ノートパソコンに取り込む為である。
基本的にはカメラとパソコンをケーブルで繋いでデータ転送しても問題ないのだが、データ転送中にトラブルを起こした場合、写真データを失う事になってしまったり、大量の写真を転送する事で発するカメラ本体の熱でカメラが負荷を追い、動作不良や故障の原因になったりと様々なリスクを伴う事がある為、ハヤテはあえてこの方式を三人娘に教えたである。
頭ごなしではなく、理由を説明した上で。
ハヤテは、三人娘が一通り写真データをパソコンに取り込み終わったタイミングを見計らい、
「自分で撮った写真を見てどうだ? イメージ通りに撮れなかったのとかあるかぁ?」
すると三人は口を揃えて、
「「「全部ぅ~~~」」」
ため息交じり。
ハヤテの写真を見た事があるのだから、比較し、そう思ってしまうのはやむを得ない事ではあるが、ハヤテは揃って嘆く三人娘の姿に思わず笑いながら、
「どんな事だって、最初からうまく出来たら世話ないさ。じゃあ、先ずサクラのから見せてくれよ」
サクラの周りに集まるハヤテ、ヒカリ、ツバサ。
「みょ、妙に緊張するね」
少し照れ臭そうなサクラに、ハヤテは笑みを浮かべ、
「記念写真と違って、自分の心を通して撮る、アート作品だからな。自分の心の一部を見られている気持ちになるんだよ」
「うぅ~そう聞くと、余計に恥ずかしい……」
赤面して両手で顔を隠すと、笑みを浮かべるハヤテが画面を覗き込み、
「でぇ? どの写真を、どうしたいんだ?」
「う、うん……」
頬をほんのり桜色に染めたサクラは、一枚のサムネイルをクリックして拡大表示させ、
「どの写真もそうなんだけど、私の写真って、ハヤテくんの写真と違って、みんな真ん中なの……どうすればハヤテくんの写真みたいに、主役? の場所を動かせるの?」
確かにサクラの言う通り、サクラが撮った花などは、みな写真のど真ん中にドンと写った物ばかり。
するとハヤテは一目見るなり、
「日の丸写真かぁ~」
「「「?」」」
「日の丸写真ってのは、撮りたい物が真ん中にデェンと写ってる写真の事さ。日本の国旗や、白米に梅干しが一個だけ乗った「弁当」みたいな写り方だろ?」
「なるほどねぇ」
「言われてみると、確かにそうでありますね」
「ハヤテくん、どうすれば良いの?」
「フォーカスロックを使えば簡単だぞ」
「「「?」」」
「サクラ、カメラを構えてファインダーを覗いてみな」
「「ふぁいんだ」って、覗き窓の事だよね」
「あぁ。それで黄先生にカメラを向けて見な」
「う、うん」
言われるがまま、カメラを黄に向けて構えるサクラ。
「ちょ、馬鹿ぁ、コッチ向けんじゃないよぉ!」
慌てて背を向ける黄に、
「背中を借りるだけっスよぉ」
ニッと笑うハヤテ。
「い、良いの?」
「ネットにアップする訳じゃないんだ。構わないさぁ」
「それをアンタが言うんじゃないよ!」
手で顔を隠しつつ、不服を漏らす黄。
「あはははは。それよりサクラ、黄先生の背中にピントが合ったら、指はそのままシャッターを切ら……えぇ~と、ボタンを押し込まないで、カメラを少し動かしてみな」
「う、うん……」
半信半疑のまま、先ずは黄の背中にレンズを向けてシャッターボタンを軽く押した。
ピィピィッと電子音を立て、ピントが合った事を知らせるカメラ。
サクラは言われた通り、それ以上ボタンを押し込まず、カメラを少し右へ動かしてみると、
「あれ? 画面がぼやけない?」
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