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続章_32

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 しかし教室へ戻ったハヤテを待っていたのは、副会長からの追及の代わりに、ツバサの問い詰めであった。
 自席でうつむくサクラを宥めていたツバサは、ハヤテを見るなり気色ばんだ表情に変わり、
「ハヤテ君、さっきのはどう言う了見ですか! サクラさんが身を削ってまで会長殿とやり合っていたのに! 何故、どうして何も言ってくれなかったんでぇす!」
「…………」
 うつむくだけで、何も答えないハヤテ。
 ツバサは苛立ちを募らせ、
「昔のハヤテ君は、そんな人ではありませんでした! 正しいと思った信念を通す為には、クラスメイト全員を敵に回す事さえいとわなかったのに!」
「…………」
「歳月は……やはり残酷ですね……私の知っているハヤテ君は、もう思い出の中だけにしか居ないんですね……」
 悲し気な目を向けるも、ハヤテは言葉少なに、
「悪い……」
 うつむいたままツバサ、サクラ、ヒカリの横を通り過ぎ、自席へ向かった。
 物言いたげに、ハヤテを見つめるヒカリ。
 そんな中、ハヤテに助け舟を出したのはサクラであった。
「保健室の先生に、何か言われたんでしょ?」
 自席のカバンに伸ばした手が、一瞬止まるハヤテ。
(やっぱり……)
 しかしハヤテは言い訳するでもなく、
「俺にはかかわらない方が良い」
 短く言い残すと、一人で教室から出て行ってしまった。
「…………」
 ハヤテの消えた背中を、悲しげに見つめるツバサ。
 すると微笑むヒカリが傍らに歩み寄り、
「ハーくんは、昔と何も変わってないよ。いつも自分より周り人の事ばかり。もう少し、ボク達を頼ってくれれば良いのにねぇ」
 その何の憂いも感じさせない微笑みに、ツバサは一瞬キョトンとしたが、自嘲する様な小さな笑みを浮かべ、
「ほんと……ヒカリちゃんには、かないませんねぇ」
「でしょ?」
 女子三人は顔を見合わせ笑い合った。
「ところでサクラさん、先程のお話に出ていましたお「世話係の方」って……」
「うん。大学の長期の休みを利用して、アルバイトに来た人なの」
「学生なんだ、その人。凄いね」
「「?」」
 サクラとツバサがキョトンとすると、ヒカリは笑みを浮かべ、
「だって、そうでしょ? 地元の有力者で、雇い主でもあるサクラちゃんの両親に反発する行為だよ? 普通、中々出来ないよぉ」
「言われてみれば、確かにそうですねぇ……」
「うん。そうだね……なんか東京で、侍女みたいな仕事をしてたみたいだよぉ」
「へぇ~侍女の仕事を辞めてまで大学にぃ……」
 夢を追う女性の姿を想像して感嘆するヒカリの脳裏に、一人の人物の横顔が浮かんだ。
(まさかね……)
 と、思いつつ、
「あはははは。その人、獣医を目指してたりなんてしないよねぇ」
 するとサクラがギョッとした顔をヒカリに向け、
「なんで分かるの?」
「へ?」
「「…………」」
 ヒカリとサクラはしばし見つめ合うと声を揃え、
「「『山陽(かげとも)のぞみ』さん!」」
 驚く二人。
「えぇーーー! 本当かい!?」
「ヒカリちゃんの家で働いていた人なのぉおぉぉ!?」
 サクラの家で世話係として働き、サクラを籠の外へと導いた人物は、ヒカリの家でメイド長として働いていたのぞみであった。
 世間は狭いとよく言うが、そうではない。
 世間を狭く感じるのは、天の導きと言う言葉ある様に、何かを成そうとする人の下には、自覚無く導き手となる人が現れ、その人物が「道を指し示す」と同時に「新たな人物」へと導くからである。
「人の人との繋がりとは凄いモノですねぇ……私、お二人の話を聞いて身震いしましたぁ」
 電子機器に囲まれ、人との関わりの薄い生活しているツバサにとって、目から鱗の様な話であった。
「そっかぁ~「のぞみさん」だったんだぁ~ビックリだよぉ」
「うん。私もぉ」
「のぞみさん、今はどうしてるんだい?」
「私が家を出るのと一緒に、大学のある北海道に戻ったよ」
 するとツバサが恐る恐る、
「雇い主にあからさまに逆らって……給料は貰えたんでしょうか……?」
 しかしサクラは憂いを感じさせない笑みを浮かべ、
「私がこの学校に来れるように、のぞみさんが両親を説得してくれた時、私が自由になる為なら給料は要らないとまで言ってくれたんだけど、私が両親を脅して払わせたの」
「「そう(なんだぁ・なんですねぇ)」」
 笑顔を返すヒカリとツバサであったが、
((サクラ(ちゃん・さん)て……キレるとコワイ……))
 サクラの内に秘めた強さを改めて知る二人であった。
 
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