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続章_24
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一夜明け―――
サクラははやる気持ちを抑えつつ、身支度を整え部屋を出ると、隣室の女性が部屋の前でゴミ出しの準備をしていた。
「おはようございます」
昨日までの緊張に引きつらせた笑顔とは一転、サクラが晴れやかな笑顔で挨拶すると、
「おや、お隣ちゃん。おはよう。学校かい?」
「はい」
「気を付けてねぇ」
「はい! ありがとうございます」
横を通り過ぎると、
「そうそう、お隣ちゃん」
「?」
「昨日アパートの前に怪しい男が居てね「ちょっとアンタ!」つったら逃げてったんだよ。最近この辺に不審者がウ口ついてるって聞くから、お隣ちゃんも気を付けるんだよ」
「私は狙われる程可愛くないから大丈夫です。お金も持って無いし、それに、」
「何言ってんだぁい。お隣ちゃんは十分可愛いよぉ。もしお隣ちゃんを「可愛くない」なんて言うヤツがいたら、おばさんに言うんだよぉ。いつでもとっちめてやるからねぇ!」
(私は、こんなに優しい人と距離を置こうとしていたんだ……)
顔には出さず心の内で猛省し、
「ありがとうございます。気を付けます。では、行って来ます!」
笑顔で一礼すると、
「気を付けて行っておいでぇ」
サクラは隣室女性の温かい声を背に、学校へ向かって走り出した。
(みんなが待ってる!)
足は、逸る気持ちを抑えきれないかの様に、学校へ、学校へと疲れを知らず前に出る。
隣室女性の不審者の話は、心の隅に小さな不安の影を落としはしたが、自分とのかかわりは皆無と思うサクラ意識は、既にヒカリ達が待つ教室の中へ飛んでいた。
正門を駆けくぐり、走る事が禁止されている廊下は、気持ちを抑えつつ早歩きで、教室の扉の前に立つと一呼吸し、
(少し遅くなったら、みんな待って居てくれてる筈……)
若干の不安を抱きつつ、気持ちを落ち着かせてから引き戸を開けた。
そこには、
「サクラちゃん、おはよぅ! でも遅いよぉ~」
「お早うございますでぇす、サクラさん」
「よぅ」
空席であったサクラの席を取り囲む、笑顔のヒカリ、ツバサ、ハヤテの顔があった。
自身の不安が杞憂であった事に内心ホッとしつつ、
「みんな、おはよう。隣の部屋のおばさんと……少し世間話をしてて遅くなっちゃった」
(ヘンな心配させちゃうから、不審者の話はしない方が良いよね……)
あえて話さず、不安も顔に出さず、
「何を話してたの?」
するとツバサが身を乗り出し、
「聞いて下さいよ、サクラさん! ハヤテ君が、顧問になってくれそうな先生のあてがあるそうなんです!」
「本当!? 何て言う、どこの先生ぇ!?」
サクラも身を乗り出すが、ヒカリはムクレ顔して、
「ボクにも教えてくれないだよぉ。昼休みまでの内緒だって。ハーくんのケチッ!」
「ハーくん、言うな。言ったらサプライズにならないからなぁ」
八ヤテが女子三人にイタズラっぽい笑顔を見せると、教室の入り口から、
「このクラスに、東海林ヒカリ君と言う女子はいるかい!」
大きな声ではないのに教室内に良く通る男の声がし、ヒカリ達は振り向いた。
そこには女子生徒二人を後ろに従え、笑顔全開で両手を腰にあて、肩に軽くかかる髪をたなびかせる男子生徒が立っていた。
色白の小顔で、目鼻立ちが整い、普通にしていれば女子からモテそうな容姿であるが、笑いっぱなしの顔が何とも残念。襟章から判断して、この学校の三年生の様である。
サクラははやる気持ちを抑えつつ、身支度を整え部屋を出ると、隣室の女性が部屋の前でゴミ出しの準備をしていた。
「おはようございます」
昨日までの緊張に引きつらせた笑顔とは一転、サクラが晴れやかな笑顔で挨拶すると、
「おや、お隣ちゃん。おはよう。学校かい?」
「はい」
「気を付けてねぇ」
「はい! ありがとうございます」
横を通り過ぎると、
「そうそう、お隣ちゃん」
「?」
「昨日アパートの前に怪しい男が居てね「ちょっとアンタ!」つったら逃げてったんだよ。最近この辺に不審者がウ口ついてるって聞くから、お隣ちゃんも気を付けるんだよ」
「私は狙われる程可愛くないから大丈夫です。お金も持って無いし、それに、」
「何言ってんだぁい。お隣ちゃんは十分可愛いよぉ。もしお隣ちゃんを「可愛くない」なんて言うヤツがいたら、おばさんに言うんだよぉ。いつでもとっちめてやるからねぇ!」
(私は、こんなに優しい人と距離を置こうとしていたんだ……)
顔には出さず心の内で猛省し、
「ありがとうございます。気を付けます。では、行って来ます!」
笑顔で一礼すると、
「気を付けて行っておいでぇ」
サクラは隣室女性の温かい声を背に、学校へ向かって走り出した。
(みんなが待ってる!)
足は、逸る気持ちを抑えきれないかの様に、学校へ、学校へと疲れを知らず前に出る。
隣室女性の不審者の話は、心の隅に小さな不安の影を落としはしたが、自分とのかかわりは皆無と思うサクラ意識は、既にヒカリ達が待つ教室の中へ飛んでいた。
正門を駆けくぐり、走る事が禁止されている廊下は、気持ちを抑えつつ早歩きで、教室の扉の前に立つと一呼吸し、
(少し遅くなったら、みんな待って居てくれてる筈……)
若干の不安を抱きつつ、気持ちを落ち着かせてから引き戸を開けた。
そこには、
「サクラちゃん、おはよぅ! でも遅いよぉ~」
「お早うございますでぇす、サクラさん」
「よぅ」
空席であったサクラの席を取り囲む、笑顔のヒカリ、ツバサ、ハヤテの顔があった。
自身の不安が杞憂であった事に内心ホッとしつつ、
「みんな、おはよう。隣の部屋のおばさんと……少し世間話をしてて遅くなっちゃった」
(ヘンな心配させちゃうから、不審者の話はしない方が良いよね……)
あえて話さず、不安も顔に出さず、
「何を話してたの?」
するとツバサが身を乗り出し、
「聞いて下さいよ、サクラさん! ハヤテ君が、顧問になってくれそうな先生のあてがあるそうなんです!」
「本当!? 何て言う、どこの先生ぇ!?」
サクラも身を乗り出すが、ヒカリはムクレ顔して、
「ボクにも教えてくれないだよぉ。昼休みまでの内緒だって。ハーくんのケチッ!」
「ハーくん、言うな。言ったらサプライズにならないからなぁ」
八ヤテが女子三人にイタズラっぽい笑顔を見せると、教室の入り口から、
「このクラスに、東海林ヒカリ君と言う女子はいるかい!」
大きな声ではないのに教室内に良く通る男の声がし、ヒカリ達は振り向いた。
そこには女子生徒二人を後ろに従え、笑顔全開で両手を腰にあて、肩に軽くかかる髪をたなびかせる男子生徒が立っていた。
色白の小顔で、目鼻立ちが整い、普通にしていれば女子からモテそうな容姿であるが、笑いっぱなしの顔が何とも残念。襟章から判断して、この学校の三年生の様である。
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