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続章_4

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 キィ~ンコォ~ンカァ~ンコォ~ン、キィ~ンコォ~ンカァ~ンコォ~ン
 何の変哲も特色もない予鈴が響く中、サクラの居る教室に、二つの足音が教室に近づいて来た。
 一部の生徒達がワラワラと自席に着き始めた頃、教室の扉が無造作にガラッと開き、
「ほら、お前らぁ~席に着けぇ~。ホームルーム始めるぞぉ~」
 ダルそうな声と共に、女性教諭の「上越 トキ」が、出欠簿片手に入って来た。
 年齢は……高校生から見ればお姉さん的な、他の教員から見れば若く見えるであろう、パンツルックが似合う、ちょっとつり目とショートボブが印象的な女性である。
「うぃ~ッス」
「はぁ~い」
「先生、はよぅ~」
 自席に着く生徒達の様子から、担任教師として信頼を得ているようである。
「野郎ども、喜べぇ~~~! 帰国子女の編入生、しかも女子だぞ女子ィ」
 ニヤリと笑うトキに、男子生徒のテンションは否応なしに上がり、
「先生ぇ、マジでぇ!?」
「うっそ!」
「ラッキィー!」
「おトキさん! ねぇ、カワイイ子ぉ? カワイイ子ぉ!?」
 トキは高まる生徒達を尻目に、
「入ってきなぁ」
 廊下に向かって声を掛け、サクラは入って来た少女を見るなり言葉を失った。
 細身で、端正な顔立ちをした少女は、軽く肩にかかる栗毛のショートヘアをキラキラとたなびかせ、教壇に立った。
(き、綺麗な人ぉ……)
 同性ながら思わずポッと赤くなるサクラであったが、その様な容姿を持った女子を前に、男子が黙っている筈もなく、
「うぉーーーッ! マジ、カワイィーーーッ! 超カワイイ!」
「ヤバイってぇ~~~」
 更に上がるボルテージに、
「ほらほら落ち着け、野郎ども! ガッツク野郎はモテねぇぞ!」
 トキが手を叩いて静粛を促すも、騒ぎは一向に収まる気配を見せず、
「ねぇねぇキミ! どっから来たの!」
「名前は!」
「趣味は?」
「好きなタイプは!? 俺なんてどう!」
 矢継ぎ早に質問するが、少女は動じた様子も見せず教室内を見回すと、何かを見つけてパッと笑顔を弾けさせると、教壇から教室の後ろに向かって走り出し、
「ハァくぅぅぅーーーん!」
 例の男子生徒の首元目がけ、いきなり飛びつき、
 ドッガラァ!
 男子生徒をイスごと押し倒した。
 呆気に取られ、一気に静まり返る教室内。
 イスごと床に倒された男子生徒は頭を擦り、
「イテテテテ……なんだ……?」
 ゆっくり目を開けると、そこには満面の笑みを浮かべて見下ろす少女の姿が。
「ハーくん、帰って来たよ!」
 見上げる少女の顔に、記憶の中の幼さが残る少女の顔がダブり、
「……ヒカリ……か?」
「何でそんな自信なさげなんだい! まさか許嫁の、妻であるボクの顔忘れたかぁい!?」
 ヒカリと呼ばれた少女がムッとすると、
「「「「「「「「「「えぇーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」
 一斉にどよめくクラスメイト達。
 そんな中、男子生徒は少し照れ臭そうに、
「そ、そんな事……ある訳」
「なら良しィ!」
 満面の笑みと共に、再びハヤテに抱き付いた。
「「「「「「「「「「おぉーーーーーーーーーッ!」」」」」」」」」」
 更なるどよめきに包まれる教室内。
「ちょ、ヒカリィ! ここはアメリカじゃねぇぞ!」
 慌てて引きはがそうとするが、
「イヤだねぇ!」
 そうはさせじとしがみつくヒカリ。
「それよりヒカリ、手術は?」
「ん?」
 ヒカリは男子生徒から離れると、満面の笑顔で、
「完璧さ! リハビリも、最後のバイオプシー(生体組織診断)も問題なし。ドナーになってくれた人と、その家族の方達には、感謝しても感謝し尽くせないよ」
 ヒカリは両手を胸に当て、祈る様に微笑んだ。
「そうか……」
 二人が感動に浸っていると、
「あぁ~感謝、感激、雨あられは結構なんだがな、オマエ等、今がアタシの授業中だってのは分かってるよな? なぁ「東ハヤテ」に「東海林ヒカリ」の最強コンビさんよ」
 不愉快そうに眉間にシワを寄せ、床に転がる二人を見下ろす担任教師の「上越トキ」。
「「ハハハハハハハ……」」
 冷や汗たらしながら笑って誤魔化す二人。
「何なら二人仲良く廊下に立ってもらっても良いんだがなぁ~」
「「失礼しましたぁ」」
 反省しきりの男子生徒とヒカリ。
(あの人も、あんな顔をするんだ……)
 男子生徒の優しい笑顔に、少し驚くサクラであった。

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