ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十一章

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 如何ほど虚勢を張ろうとも、余裕と共に迫る巨漢の合成獣の群れを前に、

(クッ……)

 疲労で揺れる両膝は、男児を抱えて逃げる体力さえ残っていないのを告げ、

(どうすればヨイのじゃ!)

 弱り切った体に反して、頭の中は高速回転。
 とは言え手詰まり感は否めず、

(…………)

 背後で縮こまり、震える小声で「トウさま、トウさま」と助けを連呼する男児をチラ見、

《(合成獣に)襲われ魂が穢される前に、いっそワシがこの手で》

 手に掛ける妄念(もうねん)が「情け」を理由によぎったが、
 
((守るべき立場の)ワシが魂に傷を負わせて何とするのじゃ!)

 もたげた弱気に首を振り、

(元よりこの子もワシと同じく地世の因子を持って生まれておるのじゃ! 死して次も天世に生まれる可能性は皆無に等しいのじゃ! なれば何としてもぉ!)

 生き残る方策を模索したが、置かれた現状は最悪そのもの。
 屋敷内に誰も居なかった状況から察するに粘れど援軍は期待できず、これ程の騒ぎが起きているにも拘らず未だ周辺から誰も来ないと言うことは、救援も期待できないのを意味していた。

 正に八方塞がりであったが、

『なればじゃァア!!!』

 眼に、気概の光を宿すアブダ。
 よれた両の脚に、ありったけの体力を掻き集め、

 ドォオォン!

 地面を激しく蹴ると、
(せめて坊ちゃまダケは! 何としても坊ちゃまダケはぁああぁぁ!!!)
 群れに向かって一直線、

『一体でも多く倒し活路を見出すのじゃぁあぁ!』

 玉砕覚悟で猛進したが、

『ブルゥワァア!』

 先頭の合成獣は荒くヒト吠え。
 床のゴミでも払いのけるが如く、丸太のような太腕を下払いで振るい、

(デカイ図体してぇ素早いじゃとぉ!)

 アブダは一撃を咄嗟に両腕で受け止めたが、彼女の体躯と等しいサイズで巨岩のような拳の直撃に、
 ミシシッ!
 嫌な音が幼女の全身から響く。

「くぁあぁ……」

 短い悲鳴の終わりを待たず、
「…………」
 小さな体は弾き飛ばされ翻筋斗(もんどり)打って軽々と地を転がった。
 
「ぁ……ぁぁ………」

 辛うじて意識を残すも、

(かぁ……体が……動かぬ……のじゃ……)

 指先一つ動かせなかった。
 そして、

(い……痛みまで……感じぬのじゃ……)

 それ程までの深手を負っていた。
 未だ生きているのが不思議なほどに。

 ズタボロで地に横たわり、合成獣に次第に取り囲まれていく彼女の目に映ったのは、恐怖のあまり逃げる事さえ叶わぬ男児の姿。

(に……逃げて……逃げて下さい……なのじゃ……)

 声さえ発することの出来ぬ彼女の目の前で。
 容赦なく歩みを寄せる合成獣たち。

 その様な絶望的な状況下にあっても幼少コマクサは恐怖に震えながら、
(トウさまが……トウさまが、かならずたすけにきてくれる!)
 儚い希望を。

 しかし願いむなしく、

(ひぃ!)

 眼前に居並び、視界を立ち塞ぐ合成獣たち。
 自分たちの拳ほどの大きさしかない男児を集団で見下ろすと、御馳走を前に荒い鼻息を更に荒く、

『ブゥフォア!』

 リーダー格と思しき一頭が手を伸ばした。
 迫る巨大な手。
 恐怖は否応なしに増し、

(とぉっ、トウさまぁあぁ!)

 思わず目をつぶる。
 目の前の現実を受け止めきれず目をつぶったのだが、その様な行為で現状が変わるはずもなく、合成獣の手は容赦なく男児に迫り、その手が触れそうになった刹那、暗闇の世界に逃避した彼の耳に、

『ブゥィギャァア!』

 前触れなく届いたのは、人ではないモノの叫び。
 それは幼少の身であっても断末魔と認識して聴こえ、

「?!」

 恐る恐る、
「…………」
 ゆっくり目を開けると眼前に、

『!』

 何者かの背が。
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