ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十章

10-56

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 本気で命を奪いに来た眼を向け、刃を向ける勇者に、生まれ変わって初めて恐怖を経験した地世王ラミウムは焦りを内に、

『アタシが死ねば地世がどうなるか分かってるだろうさねぇ!』
「…………」

 咄嗟に口から出た「脅し文句」であったが、鍔迫り合いのチカラ比べ状態であった彼からの「押しのチカラ」の瞬間的な弱まりを、見逃さなかった彼女は動揺を隠しつつ皮肉を交え、追い討ちを掛けるように、

「そうさねぇ♪ 分かってるじゃないさねぇ♪ アタシが消えれば「地世を守る地技」のすべてが消ぇ、地世は天世に蹂躙されちまうのさぁねぇ~♪」
「…………」
「心優しいアンタにぃ「地世の民」を見捨てる事が出来るのさねぇ♪」
「…………」

 沈黙するラディッシュ。
 精神的優位に立ち饒舌(じょうぜつ)になった彼女に鍔迫り合いの形から、

「昔のキミは、そんな脅しを言わなかった」
 キィン!

 軽蔑しつつ一旦離れて距離を取り、改めて身構えると、ラディッシュは覚悟の眼差しで、

『僕が地世王になれば済む話だ』
「「!」」

 戦闘中でありながら驚くパストリスとターナップ。
 それこそが、仲間たちにも打ち明けていなかった「彼の決意」であったから。
 しかし、

『アンタが居なくなった中世はどうなるさぁねぇ♪』
(!)

「分かってるさねぇ? リンドウとヒレンをかくまった今回の件を、天世は許しぁしないさねぇ♪」
「…………」

「誰が中世を守るのさねぇ♪ 残った七草だけで、守り切れるさぁねぇ?」
「クッ……」

 痛い所を突かれた。
 悔しくも彼女の言う通りであった。
 今の今まで仲間たちに打ち明けられなかった「理由の一つ」でもあったから。

(三つの世界で平穏を望む人達の暮らしを、僕は守りたい……でもそれなら、どうしたら……)

 揺らぐ決意。
 見透かす彼女は余裕の笑みで、

「聴こえるさねぇラディ? 感じるさぁねぇラディ?? 隊列を組んで城を目指して帰還しつつある本隊の足音がさねぇ♪」
『ッ!』

 彼女の言葉は嘘、偽り、はったりの類ではなかった。
 迫りつつある大群の気配を、彼も感じていたから。
 形勢は地世王ラミウムに一気に傾き、

「アタシを殺せば七草は皆殺し♪ チカラを奪えば中世を守れない♪ さぁどうするさねぇラディ♪」
「ちゅ、中世が罰を受けると、確定している訳じゃない!」

 苦し紛れにしか聴こえなかった。
 言った当人にも自覚はあった。
 それでも黙って軍門に下る訳にはいかず抗って見せたのだが、彼女は愉快げに「キッシッシッ♪」と笑い、

「あの元老院が「それを赦す」と、アンタは本気で御思いさぁねぇ~♪」
「…………」

「それにアタシがさっき、何でわざわざ指を鳴らしたと思ってるさねぇ♪」
「まさかぁ!」

「そうさねぇ♪ さっきの話は中世にバラ撒いた黒球から生配信されてたのさねぇ~♪ あんな真実を聴かされてぇ~祈りを捧げたいと誰が思うさねぇ~♪」
「なんて事を!」

 天世からの仕打ちが次第に確定的な物になって行き、慄きが隠せない彼に、彼女は愉悦に入った笑顔で、

「キィシッシッ♪ 因みにあの黒球には他にもチョイとした仕掛けもあってぇさねぇ♪」
「?」
「あと少しで天世に一斉攻撃を仕掛けるさねぇ♪」
「なっ!?」

 深い闇を感じさせる笑顔。
 生まれ変わって間もない彼女がそれ程までに強い怨憎(おんぞう)を天世に抱く理由とは、体感を伴わない過去の記憶と感情に嫌悪を抱きながらも、恨みの強さに引きずられてか。

 自身の異様に気付いていない様子の彼女は優勢を以て、
「さぁさぁどうする勇者様ぁ~誰を見捨てるぅ~♪ アタシの物になればぁ万事解決さねぇ~♪」
(僕はどうしたらぁあぁ!)
 身構え、戦闘継続の姿勢は示しながらも内心で苦悩するラディッシュ。

(首を縦に振ったからって「宿怨の天世」への攻撃を止めるとは思えない! でも攻撃が実行されれば、舞台となった中世が確実に責任を問われる事になる! でも、だからって!)

 迫るタイムリミット。
 苦悶の勇者を前に、魔王は楽し気に、

『さぁ♪ さぁさぁ♪ どぅするさぁねぇ~♪』

 すると、

『答えはもう一つあるのでぇす♪』
「「!?」」

 パストリスの唐突な笑い声と共に、優越の笑顔から一転、

『があぁ!』

 短い悲鳴を上げ、異様にも背中から上体をのけ反らせる地世王ラミウム。
 胸元を突き破り飛び出る、爪状武器の先端。

 戦闘の流れを利用して密かに距離を詰め、一瞬の間隙をついたケモ耳パストリスの一撃であったが、焦りから勝利を目前にした彼女の油断も。

『かはぁ!』

 大量吐血する、ラミウム。
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