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第十章

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 元は「百人の勇者」である並外れた実力を持つ合成獣の群れに立ち向かうパストリスの自信と覚悟に満ちた目に、勇姿に、ターナップは共に戦って来た今日までを思い起こし、

(俺は何を慌ててたんだかぁ)

 手前勝手な心労を自嘲すると、眼を据え、腹を据え、迫る敵軍を前に、

(お嬢に負けてらんねぇえ!)

 自身の戦いに改めて集中した。
 そんな中、ラミウムと幾度も激しく剣を交え続けるラディッシュは、彼女の余裕の笑みに微かに滲んだ「一瞬の驚き」を見逃さなかった。
 それは想定外を見た驚きに見え、ラディッシュは「動揺を誘う目的」と、仲間たちを甘く見ていた「批判の意」を込め、

『アレがパストの本来の姿だよ♪』
「…………」

「地世に居るパストは、より強いよぉ♪」
「…………」

 言い返さぬ彼女に、休まぬ攻防の手に加え畳み掛けるように、

「何を驚いてるのぉ? パストの才能を誰よりも早く見抜いて、誰よりも目を掛けていたのはラミィじゃないかぁ♪」
「…………」

 この場面に来ての「あえてのラミィ」呼び。
 ここまで彼女を「ラミウム」と呼んで拒絶の意を表していたのに。

 あたかも「だからオマエは本物のラミウムじゃない」とでも言いたげに。

 向けた笑顔も皮肉であり、パストリスの真なる実力に気付けなかった彼女に対する最高の当て付けであったが、
「…………」
 反論できない地世のラミウム。

 斜に構えた笑顔を保つのが、精一杯か。
 今の自分が自分である為に、修繕前の記憶にあえて触れないようにして来たのが仇となった。

 指摘され、密かに記憶を辿って見れば「彼の話は真実」であり、
《まったく邪魔な記憶さねぇ》
 自身の記憶でありながら「実感を伴わない記憶」に、苛立ちを覚えた。

 ラディッシュとの攻防を繰り返しながら、地世王ラミウムが負の感情を増していた時、エリート合成獣たちと単身でありながら接戦を繰り広げるターナップは戦いながらも、
(…………)
 眼の端に映る、別の一団と交戦中のパストリスをチラ見。

 そこには「身を案じる想い」が当然あったのだが、それだけでなく、

(強ぇ……)

 本気モードになった彼女の闘いぶりから目が離せなかった。
 戦闘中であるが故に、流石に「目が奪われる」とまではいかないが。

 見せつけられたのは、今の自身との圧倒的実力差。
 分かっていた事とは言え、守ると誓った少女より劣る自身の力量にショックは隠せなかったが、そこで落ち込むようなターナップではなく、彼は闘志のギアを上げ、

『ならぁ今、強くなってやらぁあ! ラディの兄貴ぃチカラも借りますぜぇ!』

 追いつけ追い越せの気概で以て鼻息荒く、

《天世人ラディッシュの恩恵を以て我は戦う!》

 吠えてその身を白き眩き輝きに包み、鬼神の如き睨みを迫り来る合成獣たちに向け放ち、

『まとめて掛かって来やがれぇクソ共ァア!』

 しかし相手は「単なる合成獣」などではなく「百人の勇者」が素になった、合成獣たちの群れである。
 それも金狼グランが厳選した、エリート合成獣の一団。

 パストリスが封印していた「妖人のチカラを開放した」からと言って、ターナップがより強大になったラディッシュの「天世のチカラを纏った」からと言って、形勢が易々と好転する筈もなく、
『『クッ!』』
 二人の一進一退は続いた。

 とは言え押されてはおらず、しかも立場を変えてみれば「苦戦を強いられている」のはエリート合成獣たちとて同じこと。
 更に言うなら「地世の世界」と言う「自分たちに有利な土俵」で戦っているにも拘わらず。

 各種条件を基に実力の優劣を判定すれば、パストリス、ターナップに軍配は上がるのだが、総論として「戦いは拮抗」していた。

 そして謁見の間で戦っているラディッシュ、パストリス、ターナップが知る由もない話ではあるが、階下で戦っているリンドウ、ヒレン、ニプルウォート、カドウィードも同様に。
 勝利の女神がどちらの軍勢に微笑んでもおかしくない中、地世王ラミウムは終わりの見えない戦いを「キッシッシッ」と笑い、

『これじゃぁ埒が明かないさぁねぇ~♪』

 新たな一手の決意を。
 ラディッシュとより激しく、鋭く、厳しく剣を交えながら、

『アンタがぁどうしてそこまで天世に肩入れするのかぁ、アタシにぁまったく理解不能さねぇ~♪』
「…………」

「考えてもみぃなやぁラディ、三世(さんぜ:天世・中世・地世)の格差は「誰が作った」さねぇ♪ 誰が「差別を生んだ」のさぁねぇ~♪」
「…………」

 答えないラディッシュ。
 攻守の手を止めず。
 答えることが、出来なかったのである。

 彼女の「言わんとする事」が頭で分かってしまっていたから。
 変わらぬ表情と相反し、惑いが微か滲む剣筋。
 彼女はそれを見逃さず、一瞬の気も抜けない戦いのさ中にありながら、ほんの僅かな間隙(かんげき)に指をパチンと打ち鳴らし、

「キッシッシッ♪ アタシが先代(プエラリア)から引き継いだ「この世界の真実」ってぇヤツを、アンタらにも聴かせてやるさぁねぇ~♪」

 愉快げに笑う彼女は戦いながら語り始めた。
 天世、中世、地世にまつわる真実を。
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