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第十章

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 ラディッシュ達を上階へ送り、ヒレンと共に残ったリンドウ。

 人間臭い合成獣を従えた全身鎧を見据え、何故か悔し気に小さく「クッ」と奥歯を噛み鳴らしたが、
(感情にすぐ走るのがアーシの悪い癖しぃ……)
 平静を取り戻そうと、小さく息を吐いてから、

『アータぁそこで何をしてるのしぃ!』
『だんまりを決め込んでも無駄よ』

 二人からの責めの言葉を浴びた全身鎧は笑っているのか、
{…………}
 両肩に微かな上下運動を見せた後、

{やれぇやれぇ付き合いが長いのも考え物だよねぇ~♪}

 兜を脱いで現した素顔は、
((ゴゼン!))
 髪や眼が地世のチカラの影響で、ドス黒い赤紫に変わって居ようとも。

 彼の全身は鎧で覆われ隠されていたが、漏れ出る雰囲気、佇まい、気配、空気感から、対峙した瞬間から確証があった。
 ラディッシュ達に言わなかったのはショックを与えない配慮からであり、同胞の不始末は自分たちの手でつけねばならぬとの想いから。
 しかし「地世の幹部クラス」として改めて素顔を晒した彼に、堪えた筈の怒りは堰を切って噴出、

『どうしてぇ天世の民や仲間ぁ! ラディ達を裏切ったのしぃ!』

 リンドウは感情的に詰問したが、問い掛けながらの「決め付けの激昂」を、

『おそらく違うわ』
「!?」

 冷静に否定したのは、ヒレン。
 以前と変わらぬ軽薄な笑みを浮かべるゴゼンを真っすぐ見据え、

「アンタ……元老院に捕まって堕とされたのね」
『んなッ?!』

 リンドウは驚愕した。
 元老院の浅はかな決断の結果と知り。

 敵対していたとは言え、全ては「今の天世を想って」の行為であり、天世のチカラを奪われ地世に堕とされた彼を前に、
(そこまでするのしぃ!)
 強い怒りを伴った衝撃を隠せなかった。

 ところが「当のゴゼンは」と言うと「ウィヒィヒィ♪」と笑い、

『ヒレンちゅわぁん、ダイセイクぁ~イ♪』

 おどけて見せながら、
「チョウカイ子飼いの「新人コマクサ」の直轄部隊、八部衆にあえなく捕まってぇ、天世のチカラを奪われ堕とされちゃったんだよねぇ~♪」
「マジしぃ!」
 敵として対峙していながらも同情を抱かずに居られないリンドウであったが、

『それも嘘ね』
「しぃ?!」

 ヒレンが即座に斬って落し、薄ら笑いを浮かべる彼を睨みながら、

「わざと捕まったわね」
「…………」
「どぉ、どう言うことしぃ!」

 無言から肯定を理解したリンドウが驚き問うと、

『なぁ~んだぁバレてたぁ~♪』
 
 彼は変わらぬおどけた調子で、

「面倒臭くなっちゃってぇ♪」
『『めぇつ、面倒臭いぃ?!』』

 これには流石のヒレンも驚いた。
 あまりに稚拙な理由に呆れ驚く二人を前に平然と、
 
「そぉそぉ。もぅ分からなくなっちゃったんだよねぇ~♪」
「「……?」」
「中世に降り立ってぇ「中世から天世」を、「中世から地世」を見ているうちにぃ何が正しいのかさぁ~♪」
「「………」」

 思わず黙ってしまった二人。
 それはリンドウとヒレンにとっても、身に覚えのある話であったから。
 
 そもそもの話で反抗組織の出発点は、元老院に対する反発心。
 決め事は裏から牛耳っておきながら、表立った責任や厄介ごとは百人の天世人に押し付ける怠慢への。
 しかしそれは「百人の天世人」になったから生じた苦悩であり、天世の世界は究極的に、

《何もせず、何も考えなくとも、死ぬ事の無い世界》

 中世人が捧げる祈りを糧として。

 とは言え「何もしない」と言うのは進歩が無く、進歩が無いとはその場で足踏みしているようなもので、生物としては後退に等しく、故に利用するだけであった「先人の英知」は失われたのであったが、失われた「その意味」を考える気さえ起こさないほど堕落し。

 一方で、今日を懸命に生きる中世の人々。
 地世人でさえ「正しい行い」とは御世辞にも言い難いが、人の負の感情を糧に今を生きるのに必死が見え、

「元老院を倒して「怠惰を貪る天世」を開放するのに、何か意味ってあるのぉ?」
「「…………」」

 二人は彼からの問いに、答えることが出来なかった。
 痛い所を突かれた。
 天世人同士の間に、確かな温度差があったから。

《無理に抗わずとも生きていけるのに、何故に武器を手にするのか?》

 その空気は、元老院を相手に共に反旗を翻した者たちの中にも薄っすらと。
 すると彼は二人の惑いの虚を衝くが如く、
 
「だからさ♪ 賭けてみることにしたんだよぉん♪」
「「賭け?」」
「同じ条件を与えてぇ「勝った方が正解」ってねぇ~♪」
「「ッ!」」

 変わらぬふざけ半分に、

『人の命は一生はゲームじゃないのしィイ!!!』

 中世で様々な人間模様を見て、聴いて、人のあるべき営みを学んだリンドウは激しく激高したが、ふざけた態度であっても「彼なりの信念」に基づいてなのか𠮟責に悪びれる様子もなく、

「あっ、それ他の人にも言われたよぉん♪」
『ッ!』

 天世の民の為に共に戦い、共に歩んで来た道は「分かれた」と、改めて知らされた。
 変わらぬ姿勢に怒りは増すばかりで、返す言葉さえ失うと、

《我が内なる天世のチカラにて眼前の敵を討ち滅ぼさん》
「「!?」」

 言い争う二人を尻目にヒレンがその身を天世の白き輝き包み、ゴゼンを真っ直ぐ見据え、

『アンタなりの信念は確かに受け取ったわ。だから、もぅいいわ』

 淡々とした口調なれど凄みの有る物言いで、光の剣をその手に顕現させ、
「…………」
 無言のうちに身構えた。

 全身から滲み出ていたのは、強い怒り。
 彼女の決意に、憤怒に、
「…………」
 戦闘は不可避と悟るリンドウ。
 腹を括り、

《アーシの内なる天世のチカラにて眼前の敵を討ち滅ぼすしぃ!》

 前小節を唱えその身を白き輝きで包み、
「…………」
 ヒレンと共に覚悟を以てゴゼンを見据えた。

 しかし彼は「元」と呼ぶべき存在とさせてしまった「朋友の二人」から武器を手に睨まれているにも拘らず、

『こぉんな日が来るとは思ってたんだよねぇ~♪』

 動じた様子も見せずにヘラヘラ笑いながら右手をスッと上げ、
「「…………」」
 凛然を見せる二人に向けて振り下ろし、

『『『『『『『『『『ギャァワッァーーーッ!!!』』』』』』』』』』

 それまで彫像のように大人しかった合成獣たちは一斉に、白き輝きを放つ二人の女性に襲い掛かったが、二人は襲い来る群れを前に嬉々として、

『アーシの足を引っ張るんじゃないしぃ♪』
『アンタこそぉ♪』

 自ら飛び込んで行った。
 互いを鼓舞するが如くに。
 それは「彼との決別」の表れであり、戦士として「討ち果たすべき確かな敵」を前にした高揚の表れ。

 目指すは雑兵の奥に立つ、



 余裕の笑みを浮かべる、地世の魔王軍幹部。
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