ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十章

10-33

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 とある晴れた日の早朝――

 ターナップが生まれ育った村の中でも、一般的な戸建て住宅より幾分大きな建屋と庭を有する、ある人物の家。

 平屋建ての住家(じゅうか)が一般的なこの村において、二階建てを有する時点で富を感じさせる家の一階の、そのまた広めの一室にて暖炉を背に、
「…………」
 個人宅には置くには少々長いテーブルの上座に座するは、村長。
 
 昨今の、金銭的な村の潤いを窺わせたが、彼は怪訝な表情を両手で隠すように鼻の辺りで手を組み、テーブルに両肘をついて、
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない」
 重々しい口調で以て、

「予てより先送りにされて来た『この村が抱える重大案件』を、解決しようと思い立ったからだ」

 そう語る彼の前には、戸惑いを見せる老大人(ろうたいじん)が五、六人。
 空気の重苦しさに耐えかねた一人が息を呑みつつ、

「して村長、村で重責を担うワシらが一堂に会するほどの「緊急案件」とは如何に?!」

 すると村長は満を持し、

《この村には名前が無ァい!》
『『『『『確かにっ!』』』』』

 衝撃を受ける一同を前に、

「この村は国の南の最果てにあり、不幸を呼ぶ「不帰の森」に隣接したこともあり、かつては廃村の危機さえあった……しかしぃ!」

 悲しき過去を振り払ってチカラ強く立ち上がり、

「村は勇者様御一行の御助力で、今や国の経済、軍事の一角を支えるほどに発展し、移住者も日々増加ぁ! 町と指定される日も、もはや夢ではなぁい!」
「「「「「おぉ!」」」」」

 同調のどよめきに、拳を強く握り締める彼であったが、

『だがぁしかし!!!』

 うなぎ登りの気勢もここまで。
 急にガクリとうなだれ着席し、

「名前が無いのですよ……名前が……名前が無くては風来坊……流行終わりの風が吹けば瞬く間に消えてしまいそうな……」
「「「「「確かに……」」」」」

 かつての村の惨状を、嫌と言うほど知る重鎮たちは真を以て頷いた。
 そして老大人の一人が最もな疑問として、

「しかし「今にして思えば」じゃが、何故にもっと早ように?」
「「「「確かにぃ」」」」

 集まる視線に村長はため息交じり、

「勇者様です……」
「「「「「勇者様ぁ?」」」」」
「はい……村の発展は勇者様御一行からの、とりわけラディッシュ様の御知恵の恩恵が大きい」
「「「「「確かにぃ、で?」」」」」
「ラディッシュ様を素通りして名を決めるなど不敬と思い、妙案を求めてお伺いを立てたのですが……」
「「「「「が?」」」」」
「勇者様からは、」

《こちらの世界の人間でもない自分が「村の名前を勝手に決める」なんて申し訳ないですよ》

「「「「「…………」」」」」

 一同沈黙。
 相変わらず腰が引けているとは思ったが、彼なりに「村を想って」であるのは長くなった付き合いから容易に想像でき愚痴の一つこそ出なかったが、謙虚も過ぎると卑屈であり、

「この村を、世界を、幾度も危機から救った勇者であると言うのに……」

 嘆く村長。
 そんな彼に御歴々は苦笑を浮かべるしかなかったが、

「「「「「それで今日までズルズルと?」」」」」
「…………」

 静かな頷きに、
「なればニプルウォート様など、御仲間を介して、」
 しかし村長は即座に首を横に振り、

「頭目であるラディッシュ様が首を縦に振らぬのに、自分たちが勝手をする訳にはいかぬと……」
「「「「「確かにぃ……」」」」」

 頷く御歴々であったが、
((((((ん?))))))
 ここで新たな「もっともな疑問」が。

 半世紀以上の付き合いともなると思考も似て来るのか、互いに抱いた疑問を確認し合うように頷き合うと、

「「「「「何故に今なのじゃ?」」」」」
「?」
「「「「「じゃから何故にこの時宜に、ワシらは呼ばれたのじゃ?」」」」」

 すると村長はバツが悪そうに、少々言い辛そうに、

「実はシビレが切れ、既成事実を作ってしまおうと役所に……」

『『『『『よもや勇者様の御名で勝手に申請してもうたのではあるまいな!?』』』』』

 慄きを前に申し訳なさげに小さく頷いて見せつつ即座に、

『いっ、イヤしかし通らなかったのでぇす!』
「「「「「そう言う問題では! なぁんとぉ?!」」」」」

 どよめく御歴々。
 村長が行った問題行為よりも、勇者ラディッシュの名前での申請が蹴られた事実に。
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