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第十章

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 男女が持つ黒球の回収を頼んだカドウィードの声色の微妙な変化から、傷心を察したパストリスは静かに頷き、

「…………」

 男女の手から取り上げると、カドウィードは押さえ付けたままの二人に向け、

「確かに、天世に改善すべき点は幾つもあるさぁ……けどねぇ!」
「「?!」」

『それとこれとを一緒くたにしてぇ、中世の同胞や自分の命を安売りしてぇんじゃねぇ!』
「「ッ!」」

『命は時が経てば変わる「流行りの着飾り」じゃねぇんだぞオ! 浅い思慮の結果でも「失われた命」は、二度と戻りはしねぇと肝に銘じておきやがれぇえ!』
「「…………」」

 その言葉には「確かな重み」があった。
 悲しき過去の積み重ねから紡ぎ出された言葉であり、机上の説教を長々聴かされるよりよほど骨身に応える。

「「…………」」

 怯えるだけであった男女の眼からは、落胆と後悔が。
 すると彼女は不機嫌に、

『チッ! 何の志(こころざし)も持たず、流行(はや)り廃(すた)りに乗っかるだけの連中はスグこれだァ!』

 苛立ちを露に、
「簡単に後悔する位なら最初から首なんぞを突っ込んでじゃねぇ!」
 無造作に男女を解放し、ヒヤヒヤしながら見守っていたパストリスに、

『行くぞ』

 先んじて歩き出した。
「え?! えとぉ???!」
 黒球を両手に狼狽するパストリス。

 法を犯した男女を警備隊に突き出す訳でも、心のケアをする訳でもない背に戸惑い、
(ふっ、二人は放置なのでぇす?!)
 そうこう悩んでいる間にも背はズンズン遠ざかって行き、

(うっ、うぅ~~~ぅ!)

 回復役を担う事もありヒーラー気質の表れなのか、心根の優しさがそうさせたのか、変装姿のパストリスは放心してへたり込む男女に、

『がっ、ガンバって生きて下さいなのでぇすぅ!』

 取り急ぎ頭を下げると、

『まぁっ! 待って下さいなのでぇすぅうぅ!』

 慌ててカドウィードの背を追った。
 大通りに出て、追いつき、並び歩き、

「…………」

 正面を見据えて歩き続ける彼女の横顔を、それとなくチラ見。
 仮装に等しい派手メイクの下は平静に見えたが、

(まだ怒っているのでぇす……)

 長い付き合いから、心の内が見て取れた。
 無理もない話である。
 守っている人間たちが、自らの意志で、嬉々として火中に飛び込む真似をしているのを目の当たりにしたのだから。
 自国の兵、騎士、警備隊隊員など、最前線で命懸けの戦いをしている者達の献身の上に成り立っている平和にも拘らず。

 会話をきっかけに「ガス抜きが出来れば」と思い至るパストリスではあったが、元よりコミュ障の集まりのような中世の七草に、そんな「気の利いた言葉」がポンポン浮かぶ筈も無く、
(……何も思い浮かばないのでぇす……)
 思い煩う彼女であったが、

(コレなのでぇすぅ!)

 丁度良い「話のタネ」が両手に。

『ねぇカディ、この黒球はどぅするのでぇす♪』
「?」

 振り向くカドウィード。
 訊くまでも無く警備隊に渡すだけの物であり「何を今更」とも思ったが、目にした彼女の笑顔に、振り向いたのをきっかけに、

(!)

 周囲に不機嫌を、無意に振り撒いていた自身に気が付いた。
 そして思った。

(カディもぉ、まだまだ精進がぁ足りんせぇんなぁ~)

 気遣いに自嘲気味の笑みを小さく浮かべると、いつもの妖艶な笑みを取り戻し、密かな気遣いには気付かぬ体で最もらしく、

「押収品、証拠品としてぇ警備隊に渡すがぁ一番にありぃんしょうなぁ~♪ 男女に関しては取り逃がしたとでもぉ誤魔化しんしょぅ♪」

 カドウィードの笑みから思惑が知られてしまったのに気付きはしたが、ガス抜きが出来たと分かる「いつもの笑顔」に、

『ハイなのでぇす♪』

 内心で喜ぶパストリスも屈託無い笑顔を返した。
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