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第九章

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 新たな魔王が誕生したとは思えぬ平穏な日々の中――

 村の一角から突如として湧き上がる大歓声。
 そのウネリ声を、

『みんなぁあぁお待たせぇしぃいぃーーーーーーっ♪』

 明朗快活な声で突き抜け凌駕するのは、ステージ上でキラッキラの笑顔を見せるリンドウで、

『『『『『『『『『『待ってたしぃいぃぃいーーーーーーっ♪♪♪』』』』』』』』』』』

 客席からは大合唱の津波が返る。
 村が一先ずの落ち着きを取り戻したことで、リンドウがアイドル活動を再開したのである。
 信者(熱烈ファン)達からの渇望に応える形で。
 ステージ上のリンドウは生き生きと、

『挨拶代わりにぃ新曲を一発かますしぃーーー♪』
『『『『『『『『『『待ってたしぃいーーーっ♪♪♪』』』』』』』』』』』

 この日を待ちわびて居た信者たちは大熱狂。
 彼女の歌唱やダンスに合わせて歌って、踊って、叫んで。

 地鳴りを伴う熱狂ぶりに、衰えを感じさせない人気ぶりに、ラディッシュ達が感嘆交じりに苦笑する一方、初めてライブを目の当たりにしたインディカは、弾ける彼女のハイパフォーマンスに、負けじと大歓声を返す観客たちに、
「…………」
 双方の熱量に開いた口が塞がらず、語彙(ごい)は崩壊、

「すぅ、すげぇ……」

 呟くが精一杯であった。
 彼女が紡ぎ出す、想いの丈を体現化させた表現の歌やダンスの数々に、

『『『『『『『『『『リンドウちゃーーーん♪♪♪』』』』』』』』』』』

 白熱する人々。
 中世に降り掛かる災いもひと時忘れ、ライブは連日大盛況。

 村の外からやって来る人も日増しに増え、増える事により村に落とされるお金も増え、村が潤う事で村長はホクホク顔ではあったが、
「…………」
 喜んでばかりも居られない事態も。

 それはリンドウの周辺で起き始めた、異変。

 ライブ会場に警備員を配していたにも拘わらず、彼女の私物が無くなったり、小道具が無くなったり、用意していた台本が無くなったりと。
 微罪と呼ぶに等しい物ばかりであり、身に危険が及ぶ物では無かったが、エスカレートは容易に予想され、

《(村で)天世人様に何かあっては一大事》

 村長は騎士の護衛を本人に提案したが、ライブ会場が物々しい雰囲気になるのを嫌ったリンドウはケラケラ笑い、

「中世人の護衛が、このアーシに必要と思うしぃ~♪」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 返す言葉も無い村長たち。
 それは「その通り」である。

 彼女は「護身術を齧ったアイドル」などではなく、正真正銘「序列二位」の肩書きを持つ、百人の天世人の実質的ナンバーワンの実力者なのだから。
 中世の一般人など千人束になろうとも、瞬殺の手練(てだれ)である。

 とは言え村にも「世間体(せけんてい)」と言う物があり、警備は不要と言われたからと言って「ハイそうですか」と何もせず、事が起きてしまっては自国の王のみならず、周辺諸国の王や、取り分け天世の体面にウルサイ元老院から「どの様な責め」が下されるか分かった物ではなく、村の発展をひがむ連中に足元をすくわれない為にも、彼女の警護は必須。

 説得には年の功、老猾(ろうかつ)な大司祭であるターナップの祖父があたった。

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