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第九章

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 ショックを隠せぬ様子の七人に、流石のラミウムも笑いを収め、

「アンタ達は「アタシの隣に並ぶ気は無い」と、言うのさねぇ?」
「「「「「「「…………」」」」」」」

 七つの無言から答えを悟った彼女は「ハァ」と短いため息を吐いて後、
「ラディ……アタシぁアンタを魔王として、夫として、アタシの隣に迎えても良いとさえ思っていたのさねぇ」
「…………」
 人目もはばからず小躍りしてしまいそうな、嬉しい誘い文句であった。

 彼女が「以前と同じ」であったなら。

 否、以前と違うと感じるのは思い込みであり、彼女が天世の話をする時に時折見せた陰り、今の姿こそが「真なる姿なのでは」とさえ思えて来る。
「…………」
 ラディッシュの落胆の色に変化が無く「拒絶が答え」と理解し、
(そうさねぇ……それが「ラディの答え」なのさぁねぇ……)
 口元に浮かべた笑みに、ささやかな「寂しさ」を滲ませた途端、

『『『『『『『ッ!?』』』』』』』

 ラディッシュ達の全身を激しい悪寒が駆け抜ける。
 発生源は言わずもがな、ラミウム。

 彼女の代名詞であった「イタズラっぽい笑顔」は消え失せ、

{ならば選ぶさぁねぇ。従属か、この世界の養分と成り果てるかぁ?}

 その物言いから溢れるは、おぞましき憎悪。
 別人と化したような「闇の気配」に息を呑むドロプウォート達であったが、ラミウムが不用意に発した一言がラディッシュの導火線に火を点け、

『「養分」って何の事だよォオ!』

 怒りを爆発させた。
 他者を見下すフリンジから言われた言葉と、同じであったから。
 小馬鹿にされたと思い憤る彼を、

「そんな事も知らなかったのさぁねぇ~♪」

 彼女は不敵に「フッ」と小さく笑って、おぞましき気配を強め、

{ならぁ教えてやるさねぇ♪}
(((((((!?)))))))

 思わず身構える勇者組の七人を前に、

{この「地世の世界」を守り、維持するだけの「膨大な量の地法」が、いったい何処から生み出されてると思ってるさぁねぇ~♪}
(((((((?)))))))

{分からないさぁねぇえ?}
「「「「「「「…………」」」」」」」

{ならぁ、質問を変えてやるさねぇ}
(((((((…………)))))))

{天世から地世に堕とされた者は、何処へ行ったさねぇ? 地世に呑まれた中世の悪党どもはぁ?}
(((((((まさか!)))))))

 ラディッシュ達の気付きに、
{キィッシッシッ♪}
 彼女は不敵な満足を浮かべ、

{この世界(地世)の地法を支える養分として、十二分(じゅうにぶん)に活用されてるのさねぇえぇぇえぇええ♪}
『『『『『『『ッ!』』』』』』』

 声高らかに、満面の笑顔と共に、天に向けて両腕を過剰に大きく広げた。
 まるで秘匿していた事実を、全世界に知らしめるが如く。

 現実にはそのような天技も、地技も発動されておらず、魔王に即位した彼女のこれからの気構えを誇示して見せたパフォーマンスであったが。
 
 そして勇者たちを見下ろし、
「元中世人であったとは言え「同じ天世人」の身でありながら、騙され、貶められ、天法のチカラまで奪われ地世に堕とされた、チカラ無き「アタシやアンタの先代」が、ゼロからどうやって地法を創り出したと思うさねぇ♪」
「「「「「「「…………」」」」」」」
 答えられずに黙する七人を前に、彼女は愉悦に浸った勝ち誇りで、

『人が持つ『憎悪と悪意』さぁあぁねぇえ♪』
『『『『『『『!?』』』』』』』

 驚きはしたものの、思い当たる場面は数々あった。
 今日までを顧みれば。
 もっとも顕著であったのは、パストリスが生まれ育った盗賊村で目撃した惨事であろうか。
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