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第九章

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 ヒリつき始める謁見の間の空気に、
「…………」
 玉座から悠然と立ち上がる、愛らしい笑顔の魔王プエラリア。

(((((((!)))))))

 警戒心を新たにする勇者組に笑顔のまま、

「さぁて、どうする?」
「「「「「「「?」」」」」」」

「ボクは七対一でも一向に構わないけどぉ♪」
「「「「「「ッ!」」」」」」

 見せつけられた余裕にドロプウォート達が苛立ちを露にする中、

『僕が相手をするよ』
「「「「「「?!」」」」」」

 仲間たちを制して前に出たのは言わずもがな、勇者ラディッシュ。
 向けたままの背中で、

「後(のち)の世の人に「七対一で勝った勇者」って、後ろ指を指されたくないからね♪ それに……」

 軽口を叩いて見せつつ、魔王の隣に視線を移した素振りを見せ、

「正体不明で、実力も不明な人が控えてるからね……」
「「「「「「…………」」」」」」

 未知なる敵、全身鎧との戦いをも想定したリーダーの決断に、異を唱える仲間は居なかった。
 玉座に向かって一人、

「…………」

 豪奢な赤絨毯を踏みしめ歩き出す勇者ラディッシュ。
 その姿に、魔王プエラリアは無垢に見える笑顔の端に、微かな不敵を滲ませ、

『おやぁおやぁ~キミが一人で、本当にイイのかぁい♪』

 思惑通りに事が進んだ悦びを窺わせながらも、足を止める様子の無い彼の姿に愉快げに、

『勇者として恥ずかしい戦いは見せられないから、タイヘンだよねぇ~♪』
「…………」

 かつての経験から出たと思われる皮肉に対し、無反応で次第に足を速める勇者ラディッシュ。
 玉座で愛らしい笑顔の魔王プエラリアも、

『勇ましぃいことだねぇ♪』

 上座から飛ぶように駆け出し、奇しくも天世人ラミウムに選ばれた新旧勇者は、

 ガァカァキィイイィィィイィン!

 刃を交えた。
 魔王城謁見の間、中央にて。

 互いに素早く繰り出す剣技の数々、剣技の応酬。

 双方、天法や地法を用いず、身に付けた「剣技のみ」での攻防、斬り合いで、先ずは互いの技量を図る「小手調べ」と言ったところか。
 とは言え、この世界に来てから常に戦場に身を置いてきた「百人の天世人の後継」でもある、当代の勇者ラディッシュと、七草を冠した勇者の一人でありながら、魔王となって、もっぱら後方で旗を振るのが仕事となった先代の元勇者プエラリア。

 普通に考えればラディッシュに軍配が上がりそうなものであるが現実には、
(こっ、この人ぉ強ぃい!)
 ラディッシュは剣を交えれば交えるほど、

(魔王の威光を笠に着た「裸の王様」なんかじゃない!)

 刃先から伝わって来たのは、プエラリアの真なる実力。
 先代である初代魔王からその全てを継承、手にした「絶大なる地世のチカラ」にばかり目が行きがちであるが、プエラリアは同期の勇者、誓約者たちの屍を乗り越え、先代勇者たちでさえ実現できなかった魔王城到達を成し得て、更に魔王の下にまで辿り着いた「逸材の勇者」なのである。

《腐っても鯛》

 数々の蛮行に免罪符を与えて来た「忌むべき二代目魔王」ではあるが、その実力は「魔王のチカラ」を差し引いたとしても計り知れず、正に折り紙付きなのである。
 改めて見せつけられた元勇者の実力の一端を、

「「「「「「…………」」」」」」

 当代勇者の仲間たちは動ずることなく「平静に見ている」かの如く装っていたが、
《剣技は互角?!》
 内心に不安を抱えていた。
 
 この上さらに、魔王としての実力も加算されるのかと思うと。

 しかし手を貸すことは出来ない。
 当代勇者としての「ラディッシュの戦い」を、誇りを、穢す訳にはいかないから。

 共に戦いたいのに戦えない歯がゆさを内に抱えつつ、中世で吉報を待つ人々の願いも込め、
《勝って!》
 当代勇者の勝利を心の中で、ただただ強く願った。
 魔王プエラリアには「彼の勝利を微塵も疑っていない」と見せつける、毅然で以て。

 一方、魔王と剣を激しく交える勇者ラディッシュ。
 攻守を何度も交代しながら、
「…………」
 仲間たちの不安を知ってか知らずか、

(剣技だけでもこんなに強いなんてぇ!)

 皮肉を込めた称賛をしながら、

(それなのにぃ!)

 苛立ちも覚え始めていた。
 相手は「兄(姉)弟子:あに(あね)でし」と言えなくもない存在のプエラリア。

 この世界に血の繋がりを持つ縁者がおらず、地球の家族の記憶も無いラディッシュにとって「兄(姉)弟弟子(きょうだいでし)」とは、身内と呼べるに等しい存在であり、身内の暴挙を叱責するかの如く、

『元勇者である貴方がどうして中世の人々を苦しめるんですか!』

 剣先は「増した想いの強さ」に比例して鋭くなり、

(速度が上がった?!)

 第六感的に、微かな危機を感じるプエラリア。
 よぎった不穏を払うよう、表情こそ変わらぬ「愛らしい笑顔」のまま、剣を握る手に力を込め、

 ギィキィイィッィイイィン!

 即座に対応、易々と受け止めたが、
(重さも増した♪)
 自身の内に湧き始めた「焦りの色」も笑いと言うオブラートで包んで、自己暗示的に和らげつつ、

『キミは「人への想い」で強くなっていくね♪』

 ラディッシュの剣を弾き、返す剣先で反撃の一刀を加え、
「本当にキミは「勇者らしい」よぉ♪」
 あどけない笑顔で称賛を返し、その心の内は、

《だからぁ余計に腹立たしい》

 怨怨(おんおん)と、黒き怒り。
 嫌悪か、憎悪か、嫉妬か、それとも自覚無き他の「仄暗き感情」か。
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