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第八章

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 居ない者として扱われたのがよほど腹に据えかねたのか、プライドを著しく傷付けられた様子のフリンジは閉じていた両の瞼を憤慨でカッと見開き、隠されていた「赤黒い両目」を露にギラつかせ、

≪出でませ出でませ我らが地世王のチカラぁ!≫

 地法の前小節を猛り唱え、
「「!」」
 危機を察して即座に攻撃へ転じるラディッシュとドロプウォートではあったが、

((まっ、間に合わなぁい!))

 距離を詰めつつ悟った次の瞬間、

《吸収なさァい!》

 後小節まで唱えると、勇者組と戦っていた合成獣たちが、

『『『『『『『『『『ゴォルガァゴォルガァーーーッ!!!』』』』』』』』』』

 耳をつんざく咆哮を一斉に上げ、
「「「「「ッ!!!」」」」」
 思わず耳を塞いだニプルウォート達は、

『『『『『なっ!?』』』』』

 我が目を疑った。
 既に斬り伏せた合成獣たちの体から黒い靄のような物が流れ出し、戦闘中であった合成獣たちの足元から体の中へ流れ込むと、

『『『『『『『『『『ゴォガァアーーーッ!!!』』』』』』』』』』

 雄叫びを上げ体躯を倍化させていった。
 元よりはち切れんばかりであった胸筋や、丸太の様であった両手足が、更に巨大に。

 変化は見た目だけではない。
 感じる地世のチカラまでも、より一層禍々しく、

((し、しまった!))

 むざむざ敵を強化させ、仲間たちの負担を増やしてしまった事に自省を覚えるラディッシュとドロプウォート。

 しかしそれは他人ごとではない。
 眼前のフリンジもまた、地世のチカラである黒き靄を取り込み包まれ、

『ふぉおおぉぉぉおぉっぉぉおおぉぉ! チカラが漲(みなぎ)りますよぉおぉぉお!』

 異様な高揚を見せながら彼も肥大化。
 変化の過程を目の前に、

(((((((クッ……)))))))

 近づけぬ勇者組。
 術の仕組みが分からない以上、迂闊に近付けば自分たちも地世のチカラに巻き込まれる可能性が捨て切れなかったから。

 武器を構え、事の成り行きを見守るしかない勇者組を前に、フリンジは人とは思えぬ筋骨を備えた異形の姿に変わって行き、赤黒き両目に見据えられた勇者と誓約者は、
「「!」」
 死闘の気配に覚悟した。

 体躯の肥大化が収まると、穴の開いたような黒き両目に変質したフリンジは、地世の黒き焔(ほむら)を纏いニヘラと薄気味悪い笑みを見せ、

{さぁ二回戦目と行きましょうかぁ♪}

 声まで変質。
 異様な存在感を放っていたが、

((気圧されている場合じゃ(ない・ありませんわ)!))

 相手は「倒さなければならない相手」なのだから。
 二人は伸し掛かる圧を、気合で弾き返すように、

『行こうドロプ!』
『ハイですわ!』

 強く叫び合い、

《我がチカラァ! 内なる天世のチカラを以て我は行使す!》

 眩(まばゆ)き、白き輝きにその身を包み天世人の姿へラディッシュが変化するのに続き、ドロプウォート達も、

《天世より授かりし恩恵を以て我は願う!》

 天技を行使する前小説を唱えたが、

『『『『『『『なっ?!』』』』』』』

 愕然とした。
 纏った白銀の輝きが、以前より明らかに鈍っていたのである。

 輝きの弱まりは、イコールで弱体化の表れ。

 その姿に、
{ヒャアァハッハッハッ♪}
 フリンジは愉快げに高笑いを上げ、あからさまな小馬鹿にした物言いで、

{天世に見捨てられたようですねぇ「中世の七草」ぁ♪}
「「「「「「「!?」」」」」」」

{貴方たちは天世に「不要」と判断されたのですよぉ♪ 天世の戦士ともあろう者らが実に哀れ、実に不憫ですねぇ~♪}
(そんなぁ!)

 激しくショックを受けるラディッシュ。
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