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第八章

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 馬車はエルブ国の関所に着き、

『お待ちしておりましたゴゼン様!』

 そこには完全武装したエルブ騎士数名が既に待っていた。
 アルブル国国境警備兵から「天法を用いた通信」で知らせを受けたエルブ王が、緊急で手配した護衛の騎士たちである。
 巌(いわお)を思わせる体躯と物言いを兼ね備えた騎士たちは、気負う訳でもなく毅然と、

『『『『『ゴゼン様の身は、我らが命に代えても御守りして見せます!』』』』』

 重ねた実績から来る自信をみなぎらせたが、護られる身のゴゼンは、
「ハイハイよろしくねぇ~♪ ホントはぁオンナ騎士さんの方が良かったけどぉ~♪」
 近所に買い物にでも行くかのような軽口でヘラヘラ笑い、今生の別れの可能性があるにも関わらず、

「じゃぁねぇ~♪」

 軽く手を振り、護衛の騎士たちと去って行った。
 彼らしい立ち振る舞いと言ってしまえばそれまでもかも知れないが、親心子知らずとでも言おうか、
「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」
 ラディッシュ達の心配をよそに。

 そんな別れの後に無事な帰郷を果たした一行であったが、この日ばかりは村人たちと、飲めや歌えで大騒ぎ。
 リンドウとヒレンも抱えた不安を拭おうとしているかのような燥(はしゃ)ぎ様を見せていたが、その一方で仲間たちに見せる笑顔の下で、

(…………)

 ラディッシュも心に影を落としていた。
 別行動となったゴゼンの身を案じていたのも勿論であったが、天世に向かう彼の護衛役を買って出たのを却下された時のやり取りを思い返し。

 ゴゼンがリンドウとヒレンの申し出を断った時、ラディッシュは「それならば」と護衛役に名乗りを上げたが、天世の三人から即座に、

『『『それはダメ(しぃ・だョん・よ)!』』』

 強く却下を突き付けられたうえ、

「ラディぁ「自分の立場」を全然理解してないしぃ!」
「え?」

 きょとん顔にリンドウは呆れながら、

「ラディは「御飾の勇者」じゃなくぅ、国同士の諍いを収めた「中世の本物の勇者」しぃ! そんな勇者が革命を成そうとしているアーシたちの護衛に就いたら、奇襲攻撃対応で手いっぱいのチョウカイも流石に黙っていないのしぃ!」
「…………」
「今は、アーシ達が無理くり、勝手に付いて歩いてる体で言い訳もたつしぃ。けどぉ、あからさまに護衛に就いたらチョウカイのメンツが潰れてぇ天世と戦争もあり得るのしぃ!」

 ヒレンも「自重しろ」とでも言わんばかりに、

「天世と中世が交戦状態になったら誰が得をするか、言わずもがなよね?」
(地世王プエラリア……)

 当然と言えた話の流れに、ラディッシュは返す言葉も無かった。
 自身の「身の振り一つ」で、中世全土を危険に晒す可能性を思い知らされて。

 勇者組の仲間たちもラディッシュに近い想いを持っていたが、天世の二人の言葉から、
「「「「「「…………」」」」」」
 もはや自分たちは、

《心情だけで気安く動いて良い立場ではない》

 自覚せざるを得なかった。
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