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第八章

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 アルブル国北の国境を抜けてしばし後――
 
 手綱を引くラディッシュはおもむろに馬車を止め、
「着いたよ……」
 その声はいつもより重い物であったが、天世の三人は気付く様子も無く馬車から軽やかに降りるなり、

「「「うぅ~~~ん♪」」」

 揃って青空に大きく背伸び。
 パラジット共和国に、初めの一歩を笑顔で記した。

 心のすれ違いから「わだかまり」が生まれてしまったアルブル国の人々と和解し、謝意で送り出された三人は心持ちが軽く、ラディッシュの声が何故に重かったのか、この場所が何処であるのか、他意無く失念したのであった。
 しかし移動で固まった体をほぐそうとした三人の動きは、

『『『!?』』』

 何かを目の当たりにピタリと止まり、唖然とした表情に変わったリンドウは、

「な……何しぃ、これぇ……」

 続ける言葉を失った。
 それはゴゼンとヒレンも同じ。
「「「…………」」」
 無言で見据える三人の視線の先に延々と広がっていたのは、

《草木の一本も生えぬ荒涼たる大地》

 荒れた大地の巨大クレーターのお椀の淵に、三人は立って居たのであった。
 反対側の淵が見えぬほどの大きさであり、そこはパラジット共和国の首都パラジクスがあった場所。

「「「…………」」」

 話としては聞いていた。
 天世の意に背き、不敬を働き、罰を受けた町であると。
 耳にした所業の数々からも「罰を受けて止む無し」とも思っていた。

 しかし「聞く」と「見る」とでは大違い。

 想像以上の災禍(さいか)を目の当たりにした天世人の三人は、
「「「…………」」」
 中世で出会い、関りを持てた人々の笑顔を思い返し、
(((ここにも多くの営みが……)))
 それが一瞬のうちに消されたかと思うと、

(こんなのぉただの大量虐殺しぃ!)

 リンドウは恐ろしくて声が出せなかった。
 自分たちと同じ血を持つ「神でもない同胞」が執行した誅罰(ちゅうばつ)に、
(これが……これが人のする事なのしぃ!? 許される事なのしぃ?!)
 震えながら自問していると、

『スパイダさんから裏事情は聞いてるよ』
(((!)))

 ラディッシュの声にギクリと振り向く、天世の三人。
 そこには神妙な面持ちの彼が居て、

「全てはチョウカイさんの目論見だったんでしょ? 権力掌握を狙った彼女が、元老院にあえて不和と不安を作り出す為に」
「「「…………」」」

 返す言葉も無い。
 事実は、その通りであったから。
 パラジット国の悪行に対する処断など二の次で、実際は邪魔な存在であったコマクサとハイマツに責任を負わせ排除し、動揺した元老院の面々に強力なリーダーシップを見せつける事で、権力を一本化。
 天世における自身の実権を、揺るぎない物とする事にあった。

 パラジット共和国の首都パラジクスで命を奪われた人々は、単なる「天世の権力闘争に巻き込まれた」と言えたのである。

 リンドウたち百人の天世人がその事実に気付いたのは、チョウカイの思惑通りに事が成され、政権基盤が盤石化された後であった。
 当然の如く「百人の天世人」も一枚岩ではない。

《長い物には巻かれよ》

 権力を完全掌握したチョウカイの傀儡に、自ら望んで成り下がる者も少なくなかった。
 天世が行った「中世の庇護者」としてあるまじき暴挙と、その真因(しんいん)に、無言で視線を落とす他ない天世の三人に、ラディッシュは消されてしまった町がそこにあるかの如く悲し気に見つめながら、

「今まで見て来た町と何も変わらない暮らしが、ここにもあったんだよ……」
(((!)))

「何の罰を受ける必要も無かった人たちの営みも……」
(((…………)))

 悲痛な表情を見せる三つの顔を、彼は横目でチラリと見やり、
「別に(三人を)責めるつもりは無いよ、手を下したのはチョウカイさんだし。ただ……」
 青空の先に、あたかも天世があるかのように険しい表情で空を見上げ、

「見て、知っておいてもらいたかったんだ。天世を良くしようと奮闘している三人には、天世の不穏が「中世にもたらす不幸」を……」
「「「…………」」」

 彼の言葉は一斉蜂起を企てる三人に、改めて覚悟を問う言葉でもあった。
 その後、ラディッシュたち勇者組は天世の三人たっての願いから爆心地に移動し、

「「「…………」」」
「「「「「「「…………」」」」」」」

 無情にも命を散らされた無辜(むこ)なる数多(あまた)の魂に鎮魂の祈りを捧げ、地を後にした。
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