上 下
564 / 706
第八章

8-46

しおりを挟む
 異音は明らかに、教会の外壁に組まれた足場から聞こえて来たのだが、復興作業が始まり今日まで「軽微な事故」はあったものの「重大な事故」など発生しておらず、また木組みで造られた高い足場ゆえに、

《軋む事もあるだろ》

 軽く考え、
「今日の上はぁ風が強いのかぁ?」
 呑気な顔して見上げたが、

「?!」

 微かな違和感が。
(足場が揺れた?)
 そう思った次の瞬間、

 ミシシィッ!

 ハッキリとした音をきっかけに、数十メートルはあろうかと言う足場が、

 メキメキメキメキメキィーーーーーーッ!

 彼の方に向かって、ゆっくり倒れ始めた。
 作業中であった作業員たち諸共。

 倒れる速度を増しながら。
 周囲には未だ異変に気付かず道行く人の姿も多くあり、中には幼子を連れた母親の姿も。

 日常を暮らしていて、命が危機に瀕するほどの災いが「突如我が身に降り掛かる」など誰が想像できようか。
 倒れ行く足場から複数の悲鳴が上がると同時、やっと異変に気付き始めて足を止める人々に現場監督は頭上を指差し懸命に、

『みんなぁ逃げろぉーーーっ! 巻き込まれるぅぞォーーーッ!』
「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」

 しかし足場は無情にも倒れる速度を更に速め、

『うわぁぁぁぁぁっぁーーーーーー!』
『きゃぁあぁぁっぁぁあーーーーーー!』
『だれか助けてぇーーーーーー!』

 作業員を内包したまま、ついに倒壊。
 ズゥドドドドォーーーッ!
 衝撃で、施工中であった外壁までのしかかるように後追いで倒れた。
 轟音を伴う、視界を遮るほどの激しい土煙を巻き上げて。

 その惨禍(さんか)は少し離れたところで作業をしていたラディッシュ達の下にも、衝撃波を伴った激しい土煙の突風と、振動となって現れ、
『『『『『『『ッ!?』』』』』』』
 即座に現場へ駆け付ける勇者組であったが、

『これはぁ!』

 目にしたのは、もうもうと立ち込める土煙に視界を阻まれ、被害状況の把握さえままならない事故現場であった。

 視界が利ないが故に、周囲には近づく事も出来ず狼狽えるばかりの人々の姿も。

 ラディッシュ達とて状況が把握できない中に飛び込めば、事態を悪化させる可能性もあり不用意に近付けず、救助活動を開始出来ず、
(いったいどうすればぁ!)
 刻一刻を争う事態に焦りを覚えていると、

『勇者様ぁあぁぁ!!!』

 被災を免れた現場監督が何人かの作業員を伴い血相を変えて駆けて来て、

『タイヘンだぁ! あの中に「御連れ様」の一人がぁあぁあぁ!!!』
「「「「「「「!」」」」」」」

 勇者組の七人が揃っている以上、天世の三人の誰かであるのは明らかであったが、この場所は三人が担当する場所からは少し離れた所であり、迂闊をすれば正体が知られてしまう可能性もあり、
(((((((…………)))))))
 にわかに信じられないと言った困惑を見せたが、作業員たちは早口で口々に、

「みんなが逃げるさ中、現場に一人で飛び込んじまったんでさぁ!」
「止める間もなく飛び込んじまったんだよぉ!」

 善意で協力してくれていた勇者一行の知人の安否を心配してくれた。
 同僚や身内、町の人々も被災している可能性が高いにも関わらず。
 そこへ、

『『何ごとぉ!?』』

 遅ればせながら駆け付けたのはゴゼンとヒレン。
 状況から類推するに事故現場へ飛び込んだのは、
(((((((リンドウ!)))))))
 百人の天世人序列二位である彼女であった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...